二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

社会の底辺を見据えるスタインベックのまなざし 〜「ハツカネズミと人間」を読む

2023年02月17日 | 小説(海外)
■スタインベック「ハツカネズミと人間」大浦暁生訳 新潮文庫(平成6年刊)

本書「ハツカネズミと人間」は、スタインベックの最高傑作といえるのではないか。
アマゾンのBOOKデータベースでも「永遠の名作」と紹介している。

《一軒の小さな家と農場を持ち、土地のくれるいちばんいいものを食い、ウサギを飼って静かに暮らす――。からだも知恵も対照的なのっぽのレニーとちびのジョージ。渡り鳥のような二人の労働者の、ささやかな夢。カリフォルニアの農場を転々として働く男たちの友情、たくましい生命力、そして苛酷な現実と悲劇を、温かいヒューマニズムの眼差しで描いたスタインベックの永遠の名作。》BOOKデータベース

新潮文庫の現行版で166ページ、とても薄っぺらな本である。しか~し、中身は濃いですぞ、秀作です。


じつは新潮社の「スタインベック短編集」も、並行して半分以上読んでいる。そこに「『熊』のジョニー」という、33ページばかりの短編が収められている。それは「熊」のジョニーと渾名で呼ばれている精神障碍者が主人公の一人で、スタインベックはその中年の奇妙な男を、たいへん印象深く、巧みに造形している。こういった脇役クラスの一登場人物を、一読忘れることのできないキャラクターに仕上げているのだ(ˊᗜˋ*)
バーテンダーでふとっちょのカールがまたステキな個性の持主。

さて「ハツカネズミと人間」だけど、こちらはジョージとレニーの絶妙なコンビが主役である。こういうものが“友情”なら、この二人は奇怪な絆で結びついている。このレニーは大男で怪力の持主だが、知能が低いという設定。
そしてカリフォルニアで流浪の労働者として、もう長いあいだつかずはなれずに生活している。真っ正直に、短期の就労を仕事として、社会の底辺をはいずり回って生きているのだ。

ほかにも農場の底辺で働く労務者が4~5人出てくるが、いずれも個性的で、くっきりした、悲哀に押しつぶされそうな人びとである。要所要所に登場し、苦み走った存在感をしめすスリムという男を、スタインベックは過不足なく、いかにもいそうな人物としてうまく描いている。このあたりに作者の並々ならぬ小説家としての力量を感じる。

どの人物も苦悩を背負って、どんづまりの場所で肉体労働者として生きている。本編は三幕ものの芝居に脚色され、好評をもって迎えられたそうである。老いぼれた登場人物の一人が老いぼれた犬を撃ち殺すシーンがあるが、伏線の張り方がじつにうまい。そうか、ラストシーンを先取りしていたのかと、読み終えてから気づく。
スタインベックは、この結末が暗く、深刻になりすぎることを懸念し、最後の数行をいわば“手加減”したのだ。
このあたりがちょっと見え透く構成にはなっているが、読者の多くは、ここでほっと深いため息とともに、惜しみない拍手を、小男のジョージに送るだろう。「よくやった、うん。よくやったよ、あんた」と(´Д`)




評価:☆☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中原中也の原稿発見 | トップ | バイク野郎 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説(海外)」カテゴリの最新記事