二草庵摘録

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司馬さんと歩く世界のへり ~「壱岐・対馬の道」を読む

2022年06月28日 | ドキュメンタリー・ルポルタージュ・旅行記
■「壱岐・対馬の道」街道をゆく(朝日文庫) 第13巻 「週刊朝日」連載1978年

本編も司馬さんらしい観察眼が随所にただよっている。
なぜ「壱岐・対馬」へ出かけたのかが興味の焦点であった。司馬さんという人は、若いころから文明の“へり”(縁)に強く惹かれている。
だから大阪外語でモンゴル語を選択したのだ。
辺境ではないが、辺境に近い“へり”の地域が持っている、文化的な累積地層を眺め、虫眼鏡で観察するかのごとくしげしげのぞき込む。

「朝日文庫」には、巻末に必ず「『街道をゆく』全43巻『目次』および『歩いた道』一覧が付されている。それをみると、司馬さんが“へり”にこだわっているさまがありあり看て取れる。

辺境に近いあたりに、古い地層が堆積し保存されている。
その真実の在りように最初に気がついたお一人が、司馬遼太郎であろう。柳田国男を中心とした民俗学に、あと一歩というところまでつれていってくれる。
彼のガイドで文明の“へり”を歩く。本編の旅が1978年におこなわれているということに瞠目せざるをえない。
子細に検討すれば、紀行文として古びてしまった部分はある。しかし、現在だって、十分読むにたえる紀行たりえていえる・・・とわたしはかんがえている( -ω-)

《急死した旧い友人の故郷、対馬への旅を思い立つ著者。船酔いに耐えつつたどり着いたその対馬は壱岐とともに、古来、日本列島と朝鮮半島の中継点でありつづけた地。海峡往還のなかでこの両島を通り過ぎた、あるいは数奇にもこの地で土に還った、有名無名の人々の人生を思う。政治情勢が帰ることを拒む故国の山影を見いだすため、波涛のかなたに目を凝らす在日朝鮮人の同行者の姿も胸を打つ。》BOOKデータベースより

司馬さんは文明の古層を堪能するために、在日朝鮮人の友人とともに離島「壱岐・対馬」を訪れる。
俗にいう観光資源などないに等しい離島で、司馬さんは何をかんがえたか!?
新聞社時代からの旧友の死が、著者の心を動かす。そのあたりから、司馬さんの体臭のようなものがにおってくる。
司馬さんを好きになるのは容易だが、嫌いになるのはとてもむずかしい。

こういう“へり”の旅の波間に、「竜馬がゆく」「坂の上の雲」の著者の姿が浮き沈みしている。
長くなるから引用はしないが、引用したいディテールはいくつもあって、やたらポストイットを挟むせいで本が分厚くなってしまった(;^ω^)
・曾良の墓
・豆腐譚
・対馬の“所属”
・雨森芳洲(あめのもりほうしゅう)
・祭天の古俗
・赤い米

このあたり、ことに愉しく読ませていただいた。歴史の古層がたっぷり降り積もってはいるが、それは目の快楽とはむすびつかない。観光施設も、ほとんど皆無。
空間への挑戦というより、人びとの記憶もさだかではない時間への挑戦なのだ。
司馬さんに案内されなければ、わたしは壱岐・対馬に関心など持たずに生涯を終えただろう。
しかも、いきせききって走り回るのではない。
同行者と話をしたり、立ち止まって地図に見入ったり、コーヒーを飲んだり、坂をのぼったりおりたり、時間は案外ゆったりとすぎてゆく。香り豊かなおとなの時間。

ごちそうさまでした♪



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