二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「主人公としての探偵と作家」 ~ロス・マクドナルドを読み返す

2023年10月18日 | エッセイ・評論(海外)
■ロス・マクドナルド傑作集「ミッドナイトブルー」小鷹信光訳 創元推理文庫1977年刊。


本もデジタル化しつつあるこのご時世、こんな古いものを一週間探し廻るってのも、われながらあきれるよん(ノω`*) 
「主人公としての探偵と作家」という評論や、小鷹信光の充実した(かなり力みかえっている)あとがきを読み返したくなったのだ。
少々長くなるが、ロス・マクドナルドの評論から引用しておこう♬

《価値のない鷹の彫像は、失われた伝統――スペードや彼の世代の人間の手にははいらない地中海の過去の偉大な文化を象徴しているのだろう。そしてその鳥はたぶん、聖霊そのものの身代わり、あるいはその不在を意味しているのである。
もし感情を隠した悲劇と呼び得るものがあるとしたら、サム・スペードから人間的なすべての遺産を一つずつ過酷に剥奪してゆく作法上のきびしさが、この物語を一つの悲劇に仕立てているように、私には思える。ハメットは、たとえ幻滅的にせよ、強烈に輝いているわれわれの身近な人生を、一流の純文学者と同じように一場の絵に仕立てあげるために、探偵小説を利用した最初のアメリカ作家である。》(本書収録「主人公としての探偵と作家」)294ページ

以前読んだときには、さして気には留めなかった。「マルタの鷹」を中心とする、すぐれたダシール・ハメット論になっている。

《私は正確にはアーチャーではないが、アーチャーは私なのである。》288ページ

こちらはよく引用されるので、わたしは何回となく目にしている。
本箱を探していたら、埃まみれのロス・マクドナルドの本が、ほかに10冊あまり出てきた。2~3冊は読んでいるけど、あとは「そのうち、そのうち」と棚に突っ込んだままおよそ25年が経ってしまった(;^ω^)

《ハメットは、たとえ幻滅的にせよ、強烈に輝いているわれわれの身近な人生を、一流の純文学者と同じように一場の絵に仕立てあげるために、探偵小説を利用した最初のアメリカ作家である。》
このことばは覚えておいた方がいい。
ハメットの登場が1929年「血の収穫」であったことは、歴史の転換があったことをうかがわせるに十分。それは世界大恐慌が起こった年というばかりでなく広い意味で「世界史の転換」と称すべき、大きな曲がり角であった。

フィッツジェラルド 「グレート・ギャツビー」1925年
ハメット 「血の収穫」1929年 最初の“ハードボイルド”
ジェイムズ・M・ケイン 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」1934年 代表作
レイモンド・チャンドラー 「大いなる眠り」1939年 最初の長篇
ロス・マクドナルド  「動く標的」1949年 ハードボイルドに転換した第1作

ロス・マクドナルドは遅い出発をした。ハメットやチャンドラーの後ろ姿とその仕事を前方に仰ぎみながら。
チャンドラーが亡くなったのは、1959年であった。それから60年代に入り、彼の声望が徐々に上がってきて、いまわれわれが思っているような“チャンドラー”になった(。-ω-)

ついでにしるしておくと、
原尞  「そして夜は甦る」1989年
大沢在昌  「新宿鮫」1991年
・・・らが、1980年代になって追随してきて、ハードボイルドの幅が拡がっていった。おおまかにいえば、そんな流れになるだろう。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ハードボイルドって何だろう... | トップ | 近所の工事現場で »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

エッセイ・評論(海外)」カテゴリの最新記事