なにか巨大なものがクラッシュする前ぶれかなあ
こんなに静かなのは。
ぼくの胸の真ん中にホトトギスに似た鳥が棲みついていてね
ときどき夜中に身動きしたり囀ったりするんだ。
それがなにかを
なにかということを正確に表現するのはほとんど不可能なんだけれど
たしかにホトトギス
・・・といって悪ければ たぶんホトトギスといっておこう。
椅子から立ち上がって頭をこづいて
咳払いして また坐りこむ。
ぼくの見えない隣人はさっきから
そんなことをくり返している。
このあいだ「秋の蠅一つ真水の上に死す」なんていう俳句とぶつかって
ちょっと身震いしたけれど ここに神の視点を感じたからだろう。
「冬の水一枝(いっし)の影も欺かず」
透徹した さりげないまなざし得るとはこういうことか。
永遠からの触手がいたるところにのびている。
このあいだモーツァルトのバイオリン・ソナタを聴いているときも
ぼくは感じた 永遠からの触手を。
つるし雛が微風をうけて揺れている。
女がふたり さっきからおしゃべりしている。
姿はないのに なぜそれを感じるのだろう。
おしゃべりが静かさを際だたせ
あるにきまっている彼女たちの胸の淵をのぞきこむ。
いやだなあ。
もう帰ろう と思いながら
ぼくもやっぱり椅子からはなれられずに坐りなおす。
ここはずいぶん見晴らしのいい場所でもあるんだ。
ほんとうさ ここにきて坐っていればわかる。
きっとわかってくる。
昭和のおわりに行方をくらました馬が
のんびり草をはんでいるのが見えるしね ほら。
※俳句は中村草田男さんの作品からの引用。