フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

1月22日(日) 晴れ

2023-01-23 22:05:28 | Weblog

9時、起床。12時に寝たのに9時まで寝ているというのはいただけない。一度、7時頃にトイレに起きたので、そのまま起きればよかったのだが、まだ外がちゃんと明るくなっていないので(日没の時間は遅くなっているが、日の出の時間は早くなっていない)、ついつい暖かい布団の中に戻ってしまったのである。

トースト、スープ(オマール海老のビスク)、目玉焼き、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。甥っ子が出産の内祝いに「スープ・ストック・トーキョー」のスープ(冷凍)をたくさん送ってきてくれたので、今日から朝の食卓にはしばらくスープが付くことになる。いろいろな種類があり、今日はオマール海老のビスクにした。寒い冬の朝に暖かいスープはいい。

食事の後、昨日のブログを書きながら、NHKの将棋トーナメント、中川大輔八段と久保明九段の一戦を観る。局面は後手の劣勢にある久保9段が5五の歩を5六に着いたところ。角で金取りと5七歩成りを両狙いである。AIの予想手(最善手)はその両方の狙いを放置しての8六桂打ちである(!)。6六角と金を取られても、それが詰めろにはなっていないから、9四桂、7一王、6七香(角が逃げたら8二金で詰み)で勝ちという読みであろう。なるほどなぁ。実際、中川八段は8六桂と打った。プロらしい一着だった。

それにしても、対局を観戦しながら、ブログを書くのは無理である。どうしたって盤面に目がいってしまう。そして一緒に考えてしまう。これは私が生半可に将棋が強い(アマ三段)からである。

1時からオンライン句会があるので、直前にコンビニで肉まんとあんまんを買ってきて、パソコンの前で準備をしながら頬張る。

やはり懸念していた通りzoomの接続が不安定なので別のパソコンに切り替える。本日は主宰の直美さんがご家族の事情で欠席となったので私が司会進行役である。投句は11名(33句)だが、ライブでの参加は、あきこさん、月白さん、えみこさん、さやかさん、渺さん、私(たかじ)の6名。事前選句が、蚕豆さん、花さんの2名。羽衣さんが遅れてライブ参加できるか微妙ということ。では、始めましょう。

句の読み上げは月白さんにお願いした。NHKのアナウンサーのように淀みなく読み上げてくださった。兼題は「音を入ること」。

読み上げの後、言葉の意味の確認などをしてから(たとえば「冬彦忌」は寺田寅彦の命日)、選考タイム。天(5点)一句、地(3点)二句、人(1点)二句を各自が選ぶ。

私は次の5句を選んだ。

天 たわわなる蜜柑夕日を吸ふごとし

 「夕日を浴びる」では平凡だが、「夕日を吸う」としたところがいい。初句会にふさわしい句である。

地 聴罪師となりて睦月のカフェに居る

 カフェというのは不思議な空間で、近くのテーブルで話す客の声が聞こえて来るが、こんな場所でそんな話をしますか(聞こえてますよ)というような内容のことが時々ある。もちろんこちらは聞こえていないフリをするわけだが、あたかも懺悔する人の話を壁の穴越しに聴く司祭のようでもある。

地 春支度エスカレーターの長きかな

 一瞬、解釈に戸惑う句だが、「春支度」を本来の意味である「新年を迎えるあれこれの準備」と受け取れば、あれもしなけばこれもしなければと気忙しい気分の中で、渋谷あたりに買い物に出て、地下鉄の駅からエレベーターに乗って地上に出るまでの「長いなぁ」というじれったい気分を詠んだものと解釈することができようか。 

人 煤逃や古書市で買うプレヴェール

 「煤逃(すすにげ)」とは「煤払」=大掃除をしないで(足手まといになるだけだからと)外出すること。それが許されるとすればうらやましい話である。プレヴェールはフランスの詩人で、シャンソン「枯葉」の作詞者でもある。煤逃という情けない行為とプレヴェールの詩集を買うというちょっと気取った行為の取り合わせに滑稽味がある。

人 半分の月北風に切り取られ

 いま日本列島は十年に一度の寒波に見舞われている。このタイミングで鑑賞すると「切り取られ」のシャープな感じがひしひしと伝わってくる。

全員の選考が終った。集計結果は以下のようになった。

16点 たわわなる蜜柑夕日を吸うごとし 羽衣

 今回の特選句。月白さんと私が天を付けた。平易な句であるが、誰もが知っている(実際に観たことがあるかどうかは別にして)暖かで豊かな風景が広がっている。ライブで参加している人の句ではなかったので、誰の句だろうという話になり、たぶん羽衣さんの句だろうという意見が大勢を占めた。実際、その通りだった。

13点 春支度エスカレーターの長きかな えみこ

 あきこさんと蚕豆さんが天を付けた。あきこさんら女性陣は、「春支度」を「春の装いをして」と解釈されたようである。そういう解釈もありえるけれども、その場合、「エレベーターの長きかな」とどう結びつくのかが難しいのではないかと思ったが、あきこさんは「長き」から「春日」=「長き日」(昼間が長くなる)を連想してのんびりした雰囲気と解釈し、月白さんはスカートの裾がエスカレーターに吸い込まれらないか気になっていると解釈されていた。作者のえみこさんは「新年の準備」「春の装い」両方に解釈されてもいいつもりで作られたとのことだった。

11点 煤逃や古書市で買うプレヴェール 蚕豆

 オンライン参加の6人中、渺さん以外の5人が選んだ。自分の句は選ばないことになっているので、もしかして作者は渺さん? と思ったが、違った。では誰の句だろうという話になり、「煤逃」という珍しい季語、「古書市」好み、「プレヴェール」をもってきた一種の気取り、これは蚕豆さんに違いないと大方の意見が一致した。その通りだった。

11点 マグリッドの忘れていった冬帽子 渺

 えみこさんが天を付けた。ルネ・マグリッドの絵には山高帽を被った男がよく登場する(顔はハトや林檎で隠れている)。読み手の側にそうした知識(教養)があることを前提にした句である。もしかたらアントワーヌ・ローランの小説『ミッテランの帽子』のことも意識されているのかもしれない。私がこの句を選ばなかったのは、「煤逃」と同じ作者(蚕豆さん)の句だろうと推測して、同じ作者の句から二つとるのはやめておこうと判断したからだが、作者は渺さんだった。


ルネ・マグリッド「山高帽の男」

8点 聴罪師となりて睦月のカフェに居る 月白

 月白さん曰く「私の句は男性に採っていただけることが多いんです」。実際、渺さんと私が地、蚕豆さんが人を付けたのだが、その言の意味するところは何だろうか。フェロモンのようなものが句から漂っているのだろうか(笑)。おそらく人生の物語として味わい深いものがあるのでしょう。ちなみにこの句はカフェで作者が友人から重い相談を受けたときのことを詠んだものとのこと。

8点 掘削機ガガガ男の腕に雪 月白

 これも月白さんの句。さやかさんが天を付けたが、マッチョな感じ(ガテン系)が漂っているからだろう、男性陣は渺さんだけが採った。作者の説明では、これは工事現場ではなく、山崩れで埋まった民家の中にいるはずの老夫婦を救出すべく作業にあたっている現場を詠んだものだそうだ。ニュースで見てました。

7点 冬休みジョーカー吾子に引かすまじ 羽衣

 ババ抜きをしていて、我が子がジョーカーを引かないように念じる(カードの並びにも細工をするのかもしれない)母親を詠んだものである。なんという過保護なという印象をもったが、「ジョーカーを引くと急に機嫌が悪くなったり騒ぎだしたりすると大変だから」と小さなお子さんのいるえみこさんが擁護していた。であれば勝ち負けを争うのではない、福笑いあたりがいいんじゃないでしょうか。

6点 とろとろと曜日溶けゆく年酒かな 犬茶房

 酒飲みの人の作った句を酒飲みの人が選んだ。

6点 お正月キラキラしてる穀潰し 直美

 渺さんが天を付けた。「穀潰し」とはこれまた強烈な語句である。たんに働かない(稼ぎがない)というレベルではない。酒・博打・女で身上(しんしょう)を潰すレベルである。当然、周囲からは非難され肩身の狭い思いをしているであろう。そんな男がお正月には生き生きとして見えるという句。作者は誰だろうという話になり、直美さんだろうということになり、事実、直美さんだった。

6点 炬燵から腹ばいで出る四日かな 犬茶房

 花さんが天を付けた。たんに「出る」ではなく「腹ばいで出る」である。酒浸りの正月だったのだろうか。

4点 大寒やコートを着ない男たち たかじ

 私の句。特殊な男たちではない。サラリーマンの中には寒い日でもスーツの上にコートを着ない人たちというのが一定数いるのである。「寒がりでない」ことをアピールしているのだろうか。それはアピールするに値することなのだろうか。『女のいない男たち』(村上春樹の短編集のタイトル)が頭の片隅にあったかもしれない。

3点 戦慄の走る青カビの蜜柑 えみこ

 月白さんが地をつけた。私も当初、選句の候補に入っていた。「たわわなる」で蜜柑の句を選んだので、蜜柑で二つ選ぶのはやめておこうと選外にしたが、句そのものとしては印象に残った。この「戦慄」は誰もが感じたことのあるものだろう。

2点 半分の月北風に切り取られ 月白

 さやかさんと私が人を付けた。子どもが作った句のように見えて、感性は鋭いと思う。

1点 令和五年母のおせちは極まれり さやか

 花さんが人をつけた。私は採らなかったけれど、どこか気になる句ではあった。「極まる」とはどういうことなのか。豪華なお節なのだろうかと。作者によると「ようやく全部が自分(母)の納得する味付けにできた」ということらしい。なるほどね。

1点 冬休み白くまの目はやさしそう あきこ

 えみこさんが人を付けた。うっかり、上野動物園の白熊は悲しそうな目をしていた(北極が恋しいのではないだろうか)という話を私がしたら、えみこさんもそれに同調してしまった。あきこさんはうつむいて「これは縫いぐるみの白くまです」と言った。いじめたみたいじゃないか。

1点 ヒュルリララ一途な思い雪女 たかじ

 私の句。選んで下さった渺さんは、これには「元歌」があることをちゃんとご存じだった。森昌子『越冬つばめ』である。♪ヒュルリ ヒュルリララ ききわけのない 女です~ 「ききわけのない」を「一途な思い」に、「女です」を「雪女」(季語)にした兼題句である。

今回は点数の分散が少なかった。みんながいい句だと思う句が一致していたということである。

次回は3月5日(日)。

兼題は出席者の中での最上位者であるえみこさんに出してもらうことになった。「始」か「終」のいずれかの字を入れること。・・・何度も兼題を出しているとだんだんひねってくるものである。

句会が終ったのは3時。少し横になってから、散歩に出る。

「スリック」に顔を出す。

大きな赤いダリアが飾られている。

紅茶はアールグレー(アーマッド)。

シフォンケーキはプレインに、お願いして、甘納豆(宝尽くし)を添えてもらった。

先客の二人連れの女性が店を出て、私が本日最後の客になった。何度か連れて来た卒業生の一人がいま病気で入院中なのだが、私のブログで「スリック」の閉店を知って残念がっていますという話をマダムにしたら、「ファイト!」のポーズをしてくれたので、スマホで撮ってその人に送ったら、「うわー!ありがとうございます」とすぐに返事が来た。早く退院できますように!

論系ゼミ1期生のミサキさんのお友達(同じマンドリンサークルだった)が私のブログで「スリック」の閉店を知って、先日来店されたという話をマダムから伺った。ブログの読者は裾野がけっこう広いようである。これから2月末の閉店までの期間に、隠れた「スリック」ファンの方が来店されるのではないかしら。マダム、よろしくお願いします。

帰宅して、『山下達郎のサンデーソング・ブック』をタイムフリーで聴きながら、昨日のブログを書く。

夕食はポークソテー、玉子と野菜のスープ、ごはん。

シンプルな塩と胡椒の味付け。

食事をしながら『花火師望月星太郎の憂鬱』第2話(録画)を観る。高橋一生と橋爪功に挟まって本田翼がなかなかいい演技をしている。

『リバーサル・オーケストラ』第2話(録画)も観る。1時間もの2本は疲れるが、30分ものと1時間ものなら許容範囲内。門脇麦がいい。

昨日のブログを書き上げてアップしてから、風呂に入る。

12時半、就寝。