今日から数回連続して中伊豆の渋い温泉を取り上げていきます。いずれも温泉ファンならご存知のところが多いかもしれませんが、どうかご了承を。第一弾は冷川峠の下の集落に佇む温泉施設「ごぜんの湯」です。こちらは8年ぶりの再々訪です。
伊豆半島の真ん中、沢口川沿いの谷あいに民家が軒を連ねる下尾野集落。川や民家のまわりに猫の額のような小さな田んぼが拓かれ、畦にはコスモスやヒガンバナが咲いている、この上ない長閑な環境。「ごぜんの湯」はこの集落の川沿いに位置している。観光色の強い伊豆にあって、珍しく歓楽っぽさが無い渋い佇まい。伊豆では珍しい湯治宿なんだそうだ。
正面向かい側には源泉タンクと思しき施設があり、その手前に透明の温室のような小さな小屋が建てられている。小屋には「昔ながらの風呂」と書かれた木の札が建てられており、小屋はどうやら源泉使用の蒸し風呂のようなのだが、最近使われているような形跡が見受けられない。果たして実際に使用されているのだろうか。
小屋やタンクの隣に飲泉所もある。吐水口から熱い源泉がチョロチョロ落とされており、その周りは硫酸塩の析出が見事なまでの団子状に固まっている。
こちらが本棟。客を受け入れる施設と言うより、田舎の一般民家を訪なうような雰囲気だ。8年ぶりの再訪だが、私の記憶が曖昧で、こんな古民家風な建物だったか、はたまた別のところへ来てしまったのか、と混乱してしまう。
敷地内には不思議系な手書きメッセージがたくさん並んでいる。地方を旅行すると、主人の主張が強いこのような珍物件に出くわすことが、誰しも一度や二度はあるだろう。呼び鈴代わりに、玄関にぶら下げられた板を木槌で叩いて音を鳴らす。訪問時には館内に誰もいなかったので、この板を乱打したが、ちっとも人の気配がしない。上がり框から室内を覗いても、誰もいる気配が無い。囲炉裏も蓋で閉ざされている。日曜なのにこんなに静かでいいのか…。途方にくれながら玄関の棚の上で2足立ちしている仔熊のモンちゃんとニラメッコすること約10分、野良仕事から戻ってきた主人の奥さんが背後からやってきて、ようやく対応してくれた。ちなみに、以前訪問した時は、ひと癖も二癖もありそうなオジサンが対応してくれた憶えがある。
玄関と男湯との狭い間を見ると、熱交換器らしきものが冷たい水に浸かっているコンクリの細長い槽を発見。これは一体なんだろう…。
無事料金を支払えたので、心おきなく男湯へ。本棟と宿泊棟へ向かう通路の間に挟まれた、中庭のような小さなスペースに男湯の全てが凝縮されている。こんなに小さなお風呂だったっけ? 自分の記憶の悪さに嫌悪感を催す。
こじんまりとした脱衣所。3人同時に入れば窮屈になってしまう狭さだが、必要最低限のものは用意されている。
脱衣所の隣が内湯。洗い場にはシャワー付きカランが2基。そんなに少なくて大丈夫なのかと心配になるが、ドッと客が大量に押し寄せるような施設ではないから、2基で何とかなっているのかもしれない。そもそもスペースが無いから、これ以上拡張しようがない。洗い場の逆サイドには内湯の桧風呂が据えられている。こちらも2人サイズ。ちょっと熱めの源泉が注がれ、湯船では丁度良い湯加減。人が入ると、ザバーっと勢いよくお湯が溢れてゆく。後述するが、露天と比べて内湯の方が、浴槽の大きさが源泉投入量に見合っているため、お湯の感触(特に鮮度)が良いように思われる。
鉄平石で造られた露天風呂。たしかにこのお風呂の景色は憶えているのだが、私の脳味噌の中ではサイズがひとまわり大きく記憶されていた。わずか8年しか経過していないのに、どうして私の記憶はいい加減なのだろうか。過去の記憶と現況の見た目とのギャップにたじろぐ。それはともかく、浴槽は5~6人サイズで、頭上を枝ぶりの立派な梅が覆っており、更に周囲を塀で囲まれているため、露天とはいえ開放感はあまり得られない。どこかに腰を下ろせるようなスペースもない。
露天の湯口は2つあり、奥の方にある湯口からはチョロチョロと、露天入口傍の湯口からはしっかりと源泉が注がれている。後者の湯口では熱い源泉の他、ぬるいお湯も別の竹筒から直角を為して出ているのだが、湯口の位置から考えると、このぬるいお湯は、玄関脇で見つけた熱交換器(上述の通り)を通ってきて温度が下げられたものかもしれない。
お湯は無色透明、口に含むと弱いがはっきりとした芒硝の味が舌に伝わる。キシキシ浴感やピリっと肌を刺激するところがいかにも芒硝泉らしい。群馬県北毛地方のお湯を薄めたような感じだ。湯口でクンクンと鼻を鳴らしながら嗅ぎとれば芒硝臭も確認できるが、臭いよりも味の方が明瞭のように感じられた。
露天では褐色の小さな浮遊物がチラホラ浮遊していたが、源泉由来か、あるいは屋外ゆえの異物混入なのか、よくわからない。露天はお風呂の大きさに対して源泉投入量が足りていないのか、あるいは日曜ゆえに先客が多かったのか、内湯よりもお湯のフィーリングが若干劣っているようだったが、それでも肩を湯船まで沈めると、浴槽の最奥からザバーっとお湯が流れていった。目を瞑ってお湯をじっくり堪能していると、時の経過を忘れてしまいそうだ。
お風呂には「登龍の湯」という名前が付けられているのだが、唯一登龍らしいものが露天の浴槽脇に立っていた。なにかこの土地と竜には所縁でもあるのかしら…。
お風呂の狭さは敷地の制約上仕方がないにせよ、洗い場の少なさは、掛け湯をせずに露天へ突撃してしまう不埒な輩を生み出してしまう可能性を大きくしており、この点がちょっと心配です。もし建設された時期がもう少し今に近ければ、他施設の例を見倣って、たとえば内湯を取っ払ってそのスペースにカランを増設し、浴槽は露天だけに限定するなど、思い切った設計ができたのかもしれませんが、入浴マナーの問題が今のようにあまり顕在化していない時代に建てられた施設ゆえに、その辺りの問題まで発想が行き届かず、洗い場も内湯も露天も…というように欲張ってしまったのかもしれません(完全に私の憶測です。誤っていたら申し訳ありません)。
しかしながら、伊豆エリアは料金設定が高いのに循環されている温泉が多いため、湯巡りしていてもガッカリさせられること屡々ですが、ここは芒硝らしさがちゃんと出ている加水加温循環消毒とは無縁の掛け流しのお湯を、伊豆相場より低めの525円で入浴することができ、しかも周囲の長閑な環境や全体的な渋い佇まいが旅情を醸し出してくれるので、観光地伊豆とは思えない充実した湯巡りが楽しめるかと思います。今回再訪してそれをつくづく実感しました。
登龍の湯 冷川5号
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 67.2℃ pH8.4 成分総計1.091g/kg
Na:190.3mg, Ca:115.1mg, SO4:587.1mg,
伊東駅or修善寺駅から東海バスで「下尾野口」下車、徒歩1~2分
静岡県伊豆市冷川1002 地図
0558-83-0281
ホームペ-ジ
(※gooブログの仕様の都合により当記事では短縮URLを埋め込んでいます)
平日14:00~21:00(最終受付20:30)
土休日11:00~21:00(最終受付20:30)
月曜定休
525円
ロッカー有料(100円)・石鹸・ドライヤー(パワー弱い)あり
私の好み:★★★
伊豆半島の真ん中、沢口川沿いの谷あいに民家が軒を連ねる下尾野集落。川や民家のまわりに猫の額のような小さな田んぼが拓かれ、畦にはコスモスやヒガンバナが咲いている、この上ない長閑な環境。「ごぜんの湯」はこの集落の川沿いに位置している。観光色の強い伊豆にあって、珍しく歓楽っぽさが無い渋い佇まい。伊豆では珍しい湯治宿なんだそうだ。
正面向かい側には源泉タンクと思しき施設があり、その手前に透明の温室のような小さな小屋が建てられている。小屋には「昔ながらの風呂」と書かれた木の札が建てられており、小屋はどうやら源泉使用の蒸し風呂のようなのだが、最近使われているような形跡が見受けられない。果たして実際に使用されているのだろうか。
小屋やタンクの隣に飲泉所もある。吐水口から熱い源泉がチョロチョロ落とされており、その周りは硫酸塩の析出が見事なまでの団子状に固まっている。
こちらが本棟。客を受け入れる施設と言うより、田舎の一般民家を訪なうような雰囲気だ。8年ぶりの再訪だが、私の記憶が曖昧で、こんな古民家風な建物だったか、はたまた別のところへ来てしまったのか、と混乱してしまう。
敷地内には不思議系な手書きメッセージがたくさん並んでいる。地方を旅行すると、主人の主張が強いこのような珍物件に出くわすことが、誰しも一度や二度はあるだろう。呼び鈴代わりに、玄関にぶら下げられた板を木槌で叩いて音を鳴らす。訪問時には館内に誰もいなかったので、この板を乱打したが、ちっとも人の気配がしない。上がり框から室内を覗いても、誰もいる気配が無い。囲炉裏も蓋で閉ざされている。日曜なのにこんなに静かでいいのか…。途方にくれながら玄関の棚の上で2足立ちしている仔熊のモンちゃんとニラメッコすること約10分、野良仕事から戻ってきた主人の奥さんが背後からやってきて、ようやく対応してくれた。ちなみに、以前訪問した時は、ひと癖も二癖もありそうなオジサンが対応してくれた憶えがある。
玄関と男湯との狭い間を見ると、熱交換器らしきものが冷たい水に浸かっているコンクリの細長い槽を発見。これは一体なんだろう…。
無事料金を支払えたので、心おきなく男湯へ。本棟と宿泊棟へ向かう通路の間に挟まれた、中庭のような小さなスペースに男湯の全てが凝縮されている。こんなに小さなお風呂だったっけ? 自分の記憶の悪さに嫌悪感を催す。
こじんまりとした脱衣所。3人同時に入れば窮屈になってしまう狭さだが、必要最低限のものは用意されている。
脱衣所の隣が内湯。洗い場にはシャワー付きカランが2基。そんなに少なくて大丈夫なのかと心配になるが、ドッと客が大量に押し寄せるような施設ではないから、2基で何とかなっているのかもしれない。そもそもスペースが無いから、これ以上拡張しようがない。洗い場の逆サイドには内湯の桧風呂が据えられている。こちらも2人サイズ。ちょっと熱めの源泉が注がれ、湯船では丁度良い湯加減。人が入ると、ザバーっと勢いよくお湯が溢れてゆく。後述するが、露天と比べて内湯の方が、浴槽の大きさが源泉投入量に見合っているため、お湯の感触(特に鮮度)が良いように思われる。
鉄平石で造られた露天風呂。たしかにこのお風呂の景色は憶えているのだが、私の脳味噌の中ではサイズがひとまわり大きく記憶されていた。わずか8年しか経過していないのに、どうして私の記憶はいい加減なのだろうか。過去の記憶と現況の見た目とのギャップにたじろぐ。それはともかく、浴槽は5~6人サイズで、頭上を枝ぶりの立派な梅が覆っており、更に周囲を塀で囲まれているため、露天とはいえ開放感はあまり得られない。どこかに腰を下ろせるようなスペースもない。
露天の湯口は2つあり、奥の方にある湯口からはチョロチョロと、露天入口傍の湯口からはしっかりと源泉が注がれている。後者の湯口では熱い源泉の他、ぬるいお湯も別の竹筒から直角を為して出ているのだが、湯口の位置から考えると、このぬるいお湯は、玄関脇で見つけた熱交換器(上述の通り)を通ってきて温度が下げられたものかもしれない。
お湯は無色透明、口に含むと弱いがはっきりとした芒硝の味が舌に伝わる。キシキシ浴感やピリっと肌を刺激するところがいかにも芒硝泉らしい。群馬県北毛地方のお湯を薄めたような感じだ。湯口でクンクンと鼻を鳴らしながら嗅ぎとれば芒硝臭も確認できるが、臭いよりも味の方が明瞭のように感じられた。
露天では褐色の小さな浮遊物がチラホラ浮遊していたが、源泉由来か、あるいは屋外ゆえの異物混入なのか、よくわからない。露天はお風呂の大きさに対して源泉投入量が足りていないのか、あるいは日曜ゆえに先客が多かったのか、内湯よりもお湯のフィーリングが若干劣っているようだったが、それでも肩を湯船まで沈めると、浴槽の最奥からザバーっとお湯が流れていった。目を瞑ってお湯をじっくり堪能していると、時の経過を忘れてしまいそうだ。
お風呂には「登龍の湯」という名前が付けられているのだが、唯一登龍らしいものが露天の浴槽脇に立っていた。なにかこの土地と竜には所縁でもあるのかしら…。
お風呂の狭さは敷地の制約上仕方がないにせよ、洗い場の少なさは、掛け湯をせずに露天へ突撃してしまう不埒な輩を生み出してしまう可能性を大きくしており、この点がちょっと心配です。もし建設された時期がもう少し今に近ければ、他施設の例を見倣って、たとえば内湯を取っ払ってそのスペースにカランを増設し、浴槽は露天だけに限定するなど、思い切った設計ができたのかもしれませんが、入浴マナーの問題が今のようにあまり顕在化していない時代に建てられた施設ゆえに、その辺りの問題まで発想が行き届かず、洗い場も内湯も露天も…というように欲張ってしまったのかもしれません(完全に私の憶測です。誤っていたら申し訳ありません)。
しかしながら、伊豆エリアは料金設定が高いのに循環されている温泉が多いため、湯巡りしていてもガッカリさせられること屡々ですが、ここは芒硝らしさがちゃんと出ている加水加温循環消毒とは無縁の掛け流しのお湯を、伊豆相場より低めの525円で入浴することができ、しかも周囲の長閑な環境や全体的な渋い佇まいが旅情を醸し出してくれるので、観光地伊豆とは思えない充実した湯巡りが楽しめるかと思います。今回再訪してそれをつくづく実感しました。
登龍の湯 冷川5号
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 67.2℃ pH8.4 成分総計1.091g/kg
Na:190.3mg, Ca:115.1mg, SO4:587.1mg,
伊東駅or修善寺駅から東海バスで「下尾野口」下車、徒歩1~2分
静岡県伊豆市冷川1002 地図
0558-83-0281
ホームペ-ジ
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平日14:00~21:00(最終受付20:30)
土休日11:00~21:00(最終受付20:30)
月曜定休
525円
ロッカー有料(100円)・石鹸・ドライヤー(パワー弱い)あり
私の好み:★★★