温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

仙人温泉 その2 仙人温泉小屋

2011年10月18日 | 富山県
前回記事「仙人温泉 その1 悪評の「雲切新道」を登る」の続きです。仙人温泉までのアクセスについて、欅平から阿曽原まではこちらを、阿曽原から仙人温泉まではこちらをそれぞれご参照ください。


 
裏剱の峻厳な大自然の中にポツンと佇む小さな山小屋。まさに仙人が住むような秘境ですね。雲切新道から俯瞰して芥子粒のような小屋の姿を確認した瞬間、一目惚れしてしまい、思わず「うわぁ素敵」と声に出してしまいました。「大草原の小さな家」ならぬ「大峡谷のささやかな小屋」とでも言いましょうか。

 
手作り感あふれる小さくて可愛らしい小屋です。マジックの手書き看板がいい味出してますね。

 
お昼の早い時間に到着しちゃったにもかかわらず、ご主人は快く迎えてくれました。訪問宿泊したのは10月11日。小屋を閉める日(13日)の直前で、既に宿泊棟は解体作業に取り掛かっており、かつ宿泊客は私一人だけでしたので、今回は特別に個室を貸切使用することができました。室内には灯油ストーブが用意されており、またたくさんの布団の他にシュラフも積まれていました。布団だけじゃ寒いから、シュラフに入って、その上から布団を被るわけですね。夜はそれだけ冷えるんだな…。

 
建物の裏手です。なんとも素朴でいい雰囲気。トイレはなんと水洗で、紙もちゃんと用意されています。

 
私のお目当ては登山ではなく温泉ですから、部屋に荷を下ろしたらお風呂へ直行です。
どうですか、この絶景露天風呂!!
仙人谷の谷頭というロケーションなので、東側の眺望が非常に素晴らしく、唐松や五竜などの後立山連峰が一望できました。お風呂から遠方の山まで、人工物は一切無し。視界を遮るものも無し。そんじょそこらの露天風呂なんて足元にも及ばないほど天晴れな露天です。わざわざ苦労してここまで登ってきた甲斐が十二分にあります。あたかも自分が大自然の中に溶け込んでしまったかのようでした。

 
谷の対岸にある噴気帯(前回記事参照)から空中を渡ってきた源泉が、黒いホースから浴槽へと注がれています。それと並行して沢の水も投入されています。赤いテープが巻かれているホースは源泉、青は水です。水を入れっぱなしにするとややぬるいので、水のホースを適宜浴槽の外に出して温度調節しました。
お湯は無色透明ながら、微かに赤みを帯びているように見え、浴槽内の岩やオーバーフロー流路は紅色に染まっています。口に含むと僅かな酸味と金気味が感じられ、またいかにも噴気帯らしい硫化水素臭も嗅ぎ取れます。沢の水の入れ具合によって好みの湯加減に合わせられるため、私は若干ぬるめにして、じっくりと長湯を楽しみました。

 
仙人温泉の立て札を持って、三脚を使って自分撮り。普段は自分の写真を撮ることが滅多にない私も、この時ばかりは至極満悦でした。こんな絶景で爽快な露天風呂は、日本各地を探しても他に類を見ないのではないかしら。比肩できるのは白馬鑓温泉かもしか温泉あたりかな。仙人温泉もそれらの温泉も、延々と険しい道を歩いてきたからこそ、より分厚い感動を得ることができるんですね。

 
お風呂の傍には展望テラスも設置され、これまた手書きの案内板も置かれているので、山座同定が楽しめました。先月登った白馬鑓ヶ岳は左手の奥の方に聳えています。登山者の多い後立山連峰からこちらを望むことはあっても、逆にこちら側から眺める機会はあまりないかもしれません。自分が登ったことのある山を、別の山から眺めるって、とっても感慨深いものがあります。

お風呂上りは小屋にお邪魔して、沢の水で冷やした缶ビールを飲みながら、ご主人の高橋さん、お手伝いに来ていたYさん、そして私の三人で鼎談。「もう小屋を閉めちゃうから食べちゃってよ」ということで、おつまみやら西京焼のお魚やら、ご厚意に甘えていろんなものをいただきました。殆ど居酒屋状態です。小屋にはディーゼルの自家発電機があり、なんとBSデジタルのテレビが見られますが、アルコールやおつまみ類のおかげか、テレビなんか要らないほど話が盛り上がり、あっという間に時が過ぎ去っていきます。初対面同士にもかかわらず尽きることのないお喋りは、山小屋ならではの魅力ですね。
ただ、高橋さんは数日前から風邪をひいてしまったらしく、途中で一時的にベッドでお休みされていました。連休の多客時に体調を崩されたとなると、相当つらかったのではないかとお察しします。
ちなみに他の山小屋と異なり、この小屋は規模が小さいためか、ヘリによる物資空輸は年2回だけで、他は歩荷さんにより必要なものが運ばれているんだそうです。先程私がいただいた西京焼も歩荷さんのご苦労の賜物です。

ご主人がお休みなさっている間もYさんと私で喋り続け、気づけば午後4時すぎ。ご主人はベッドから起き上がって夕食の準備にとりかかります。さすがにその間は邪魔できませんから、私は再びお風呂へと向かいました。特段長湯するつもりはなかったのですが、だんだん空が暗くなってきたなぁ、そろそろ日没かなぁとボンヤリ思っていたら、小屋の方から「夕食の準備ができました」との声がかけられました。時計を見たら針は6時を回っており、2時間弱もお風呂に入っていたことになります。東の空には山稜から月がちょこっと顔をのぞかせていました。もうそんな時間なのか。仙境にいると私の時間感覚はすっかり狂ってしまったようでした。



夕ご飯はご主人の手作り。カレーじゃありませんよ。鮎の甘露煮、天ぷら、焼きナス、とろろ芋、ひじき、豚キムチのおつまみ等、山奥とは思えないバラエティに富んだ献立です。ご主人曰く、開業シーズン中は毎年必ず「今晩泊まりたいんですけど、夕ご飯は何ですか」と尋ねてくる飛び込みのお客さんが数人いらっしゃるんだそうです。山小屋に泊まり続けていると、夕食にカレーが続くことが多いのですが、さすがに毎日カレーじゃ飽きちゃうので、どんなことよりも夕食の献立内容を優先したくなる心理状態に陥るんでしょう。面白いですね。

夕食後も鼎談は続きます。ご主人は会津の大塩温泉「たつみ荘」のオーナーさんと兄弟分なんだそうでして、「たつみ荘」をはじめ只見川流域一帯に甚大な被害をもたらした今年夏の豪雨被害を大変嘆いていらっしゃいました。そしてご主人から大塩温泉一帯が冠水した様子の画像(ハードコピー)を見せられた私は思わず絶句してしまいました…。

消灯は夜9時。標高は1600m程度ですが、下界と違って底冷えするので、温泉で十分に体を温めてから布団へ直行することにし、宴を終えてから三度目のお風呂へと向かいました。月明かりが眩しいほど煌々と辺りを照らしていたので、ライトをともすことなくじっくり湯あみ。五竜岳方面を望むと、稜線上にポツンと恒星のような山小屋の明かりがきらめいていました。五竜山荘でしょうか。


翌朝は4時半に起床。出発の支度をしてから朝ごはんをいただきます。事前にお願いすれば朝4時からいただくことも可能ですが、この日は5時でお願いしました。この日は2日かけて登ってきた険しい道を、数時間で一気に下山する予定なので、温かくて美味しいご飯をもりもり食べてしっかり栄養を摂取し、いまから向かうべく険阻艱難に備えました。


出発直前にご主人と記念撮影。わずか一晩の宿泊でしたが、心に残った想い出はその数倍にも及びました。本音を言えば、もう数泊ここでのんびりしたかったなぁ。
ご主人曰く、対岸の源泉地帯には仙人の隠し湯があり、今の時季はぬるくてダメだが、お盆の頃にはちょうど良い湯加減になっているそうなので、次回は隠し湯を目当てに是非再訪したいと思います。
裏剱ルートを利用する登山者にとって、この小屋は阿曽原と仙人池・池の平の中間に位置するため、その中途半端な位置(距離)ゆえに通過ポイントとなりがちですが、メジャーな小屋では決して体験できない、ご主人の懐が広い人柄が為せるアットホームな雰囲気、そしてこの上ない絶景露天風呂を堪能できるので、ぜひ宿泊で利用していただきたいと切に思います。有志のお手伝いさんや歩荷さんがいらっしゃるのも、この小屋の魅力とご主人の人柄がそうした人々の心を惹きつけている所以でしょう。



温泉分析表掲示無し

富山県黒部市宇奈月町黒部奥山国有林地内  地図
090-4072-3996(現地衛星電話。営業期間内のみ。自家発電の都合上、接続できない時間あり)
ホームページ

営業期間:7月~10月中旬(年により日が異なる)
入浴のみ500円
1泊2食9000円、素泊まり5500円、
(私の訪問時は昼のお弁当不可でした)


ご参考までに、下山時のタイムを記しておきます。ルートは1日目2日目を単純に逆走しただけです。
 仙人温泉小屋6:20→尾根頂上6:45→仙人谷ダム8:25→阿曽原温泉9:20→折尾の大滝(休憩)10:50/11:10→大太鼓12:05→志合谷トンネル12:25→欅平駅14:15
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする