温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

不便なバスや列車を乗り継いだ温泉巡り 「ポカゴラスイッチ」

2011年10月07日 | 旅行記

★今回の記事は「公共交通機関で温泉をハシゴしよう」というご提案です



みなさんは温泉を巡る際、現地までどのように足を運んでいますか? 多くの方は車でお出かけになっているかと思います。私もそんな一人なのですが、或る時、自分の巡り方に物足りなさを感じました。


たとえば登山は苦労して登るからこそ頂上のパノラマに酔いしれ達成感を味わうことができるのであり、料理だって即席のものよりも苦労して材料を仕入れじっくり時間をかけて調理したものの方が美味しいに決まっています。異性だって声をかけてホイホイとついてくるような相手よりも、懸命に努力し考え悩み抜いて勇気を振り絞って対峙しなければならない人の方がはるかに魅力的です。

温泉だって同じことがいえるのではないでしょうか。車を使えば殆どの温泉は誰でも容易に到達することができます。しかし、それでは目的地へのアプローチがあまりに容易ではありませんか。温泉での想い出は記憶に残っても、その途中の旅路での印象はどれだけ脳裏に焼き付けられるでしょうか。旅は目的地に行くことだけが魅力ではなく、自宅の玄関から出て、苦労して目的地へ到達し、同じように困難を経て我が家の門をくぐってこそ、旅情が醸し出され、自分の記憶により深く残ってゆくのではないでしょうか。往古の人々は、険阻艱難の山深い温泉へ苦労して歩いて行ったからこそ、たとえその温泉が薄い単純泉であっても、ぬるいお湯であっても、そのお湯が有難かったのであります。

 
そこで私は温泉巡りを行う際、鉄道や路線バスを利用することによって温泉地をハシゴすることができるような地域であれば、極力公共交通機関を利用し、地図や時刻表とニラメッコしながら、どうやったら効率的に多くの温泉地を訪れることができるか、いろいろと計画を練ってそれを実践しています。箱根や熱海・伊東など交通機関の運行本数が多い地域であれば、入念なプランニングを練ることなく、訪れたい温泉地さえリストアップすれば、行き当たりばったりでも問題なく巡ることができるのですが、そのような温泉地は実は稀有であり、車社会の浸透により年々列車やバスの本数が減少し、あるいは廃止されているので、多くの地域は公共交通機関で訪れることが難しく、せいぜい一か所を往復するだけで精いっぱいだったりします。公共交通機関で温泉巡りをするのはかなり困難なことなのです。一か所でやっとなのに、2か所以上ハシゴしようとすると、どうなってしまうかはもう自明です。つまり、温泉巡りでお風呂をハシゴすることは、車に乗れば簡単にできるのに、列車やバスを使おうとすると、とてつもなく面倒なことになるのです。

わざわざ面倒な仕組みを連続させるといえば、その代表がNHK教育(現Eテレ)で放送中の子供向け人気番組「ピタゴラスイッチ」を象徴する「ピタゴラ装置」。まるでドミノ倒しのように、いろんな仕掛けが次々に作動して運動が引き継がれてゆき、最終的なオチを迎える一連の「装置」です。たとえばこんな感じ・・・



「ピタゴラ装置」は単に番組ロゴを出したいがために、わざわざビー玉転がしたり、振り子の原理や慣性の法則を応用したりと、奇想天外なカラクリを次々に仕掛けてそれを連動させていますが、これは綿密に計画を立て計算し設置しないと、絶対に「装置」は作動しません。隙間の置き方を誤ったドミノ倒しのように、途中で止まってしまいます。

一般にこのような仕掛けは、発案したアメリカの漫画家にちなんで「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」と呼ばれており、ループ・ゴールドバーグは、常識的に行えば簡単にできちゃうことを、敢えて面倒で複雑なからくりを組み、それらを次々と連鎖させて結果を導き出し、この面倒臭さや複雑さを用いることによって、現代の機械化やそれに伴う合理化へ進む発想を揶揄しました。

世相の揶揄はともかく、簡単にできることを、わざわざ綿密に計算しないとカラクリが動作しない仕組みを連動させて実現させる発想は、公共交通機関を利用して温泉をハシゴするのと同じではないか。列車やバスの時刻・徒歩時間・入浴時間を十分に調べて考えた上で行動しなければ、バスに乗り遅れたり温泉の営業時間に間に合わなかったりして、途中で足止めを食らってしまう、あるいは途中で入浴を断念せざるを得なくなる…。そこで私は、便数の少ない公共交通機関を利用した温泉めぐりを「ポカゴラスイッチ」と勝手に名づけることにしました。ピタゴラの頭2文字をポカポカの「ポカ」に替えた造語です。安易すぎてごめんなさい…


風呂上りにササッと適当なバナーを作ってみました。本家をパクろうとしてパクりきれていない下手糞な出来ですね。これも安っぽくてごめんなさい。でも一応作っちゃったので、今後当ブログではこのバナーやロゴを適宜使用していくつもりです。

複雑な仕組みを構成させるため、「ポカゴラスイッチ」のカラクリ、つまり旅程立案には、最低限の条件を設けます。その条件とは…

・本数の少ない路線バスや鉄道路線を利用する。
・いくつかの離れた温泉地をはしごする。つまり2か所以上の温泉地を巡る
・目的遂行のため、事前に綿密なプランを立案する

この3つです。余程のことがない限り、タクシーを使用は避けます。もちろんレンタカーを使ってはいけません。ヒッチハイクなどは緊急措置です。ただし歩いていける距離はどんどん歩いてしまいましょう。
時刻表・地図・営業時間・徒歩を要する距離…、ありとあらゆる条件を考え、それらを上手く組み立てながら、カラクリを仕掛けていきましょう。


● 例1 ●

新潟県の「ゆくら妻有」前のバス停。バス停が目の前にある、一見すると交通至便な温泉施設に見えますが、バスの本数が6本しかなく、またバスが発着する十日町駅からの鉄道路線(飯山線・ほくほく線)との接続も上手くいかないので、そこをいかに工夫しながら他の温泉地をハシゴしてゆくかが重要なポイント。

● 例2 ●
 
北海道の鐺別温泉の場合、路線バスも鉄道(釧網本線)も、いずれも本数がかなり少ないうえ、バスの時刻はネットで調べにくいので、事前の調査で躓く可能性があります(バス会社のHPでは時刻が案内されていないのに、町役場か観光協会から攻めてみると、意外と時刻表が紹介されていることがあります。ここはその好例)。行き当たりばったりで訪問すると、厳寒の地で路頭に迷い、凍えて悲しい思いをすることになります。でもこのバスルート上には日帰り入浴できる温泉が何軒かあるので、計画次第で効率よくハシゴできます。

● 例3 ●
 
同じく北海道の湯ノ岱温泉。こちらもアクセスする江差線の本数が少ないので、計画に苦労します。冬は雪がひどいので、時間のやりくりを上手くやらないと心身ともにツラいです。でもうまく乗りつけば、沿線でもう一か所温泉をハシゴできちゃいます。


もし、バスや列車に乗り遅れたら、浴場の営業時間に間に合わなかったら、道に迷って時間をロスしたら、突然の便意に襲われて予定が大幅に狂ってしまったら、悪天候など不慮の災難に見舞われたら、もう「ポカゴラスイッチ」は作動しません。「装置」は途中で止まってしまいます。入浴を断念せざるを得ません。あるいは不便な田舎で帰る道を失って途方に暮れるほかありません。つまり、このような旅にはスリルが伴うわけです。

万が一スイッチの連鎖に失敗し、逆に負の連鎖が発生してしまったら、伊集院さんのラジオの「痛ゴラスイッチ」に投稿して、皆さんに笑ってもらいましょう。
【私の体験例】露天風呂でいい気分になる→バスの時間を勘違いして乗り遅れる→仕方なくタクシー呼ぶ→乗り継ぎたい列車を追いかけるべく、タクシーに先回りを頼むがその道は土砂崩れで通行止→携帯で必死に次善策を調べていくうち焦燥感に苛まれる→駅に着くが頭が混乱していたため財布をタクシー車内に忘れる→財布が無いことに気づいてバッグの中身を開けて調べているとき、パニックで冷静さを失いデジカメを踏んづけて壊す→泣きそうな私を女子高生達が哀れむ目で遠巻きに見る→突然の夕立に見舞われる→足止めを食らう→その日予約していたホテルに到達できずキャンセル料全額請求される・・・


でも綱を渡るような思いで、やっとのことで計画通りに巡り終えたら、その時の達成感たるや、一言では表現できません。車なら簡単に行けるところを、わざわざ苦労してたどり着くことにより、普段なら味わえない旅情を堪能することができます。そして交通機関ならではの車窓から、その地域で新たな発見と遭遇することだってできます。路線バスはえてして観光客の車が多い表通りではなく、昔ながらの在地の細い道を通ることが多いので、そうした発見に出会いやすいのです。
さらに余計なことを言えば、地元の交通機関を利用することにより、その地域経済に些細ながら貢献することもできます。皆さんが交通機関を利用しないと、どんどん廃止されてしまうのです。「不採算は悪」と無条件に切り捨てる世論の声を受けながら…。

なお、上記「ポカゴラスイッチ」の条件に当てはまらない事例としては、たとえば、熱海、福島の飯坂、あるいはバスで草津温泉へ向かって、その周辺の旅館(日帰り入浴)や共同浴場を巡って満足してしまうことが挙げられ、その理由として・・・
・交通機関の本数が心配しないでよい程度に確保されている
・温泉地が限定されている
といった事由が挙げられます。途中で挫折してしまうようなスリルがちっともありません。あくまで交通機関を乗り継いで、複数の温泉地をハシゴすることが肝要です。


それでは、具体的にどのような温泉めぐりがその「ポカゴラスイッチ」と言えるのか。実例を次回の記事で紹介してみます。
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