宝来温泉「芳晨温泉渡假村」に宿泊した翌日は、高雄方面へ戻る途中に不老温泉へ立ち寄って何軒か温泉をハシゴする計画を立てていました。宝来から不老までは前回紹介した蘇羅婆温泉を抜けてゆく荖濃渓左岸の道をみちなりに5~6kmほど南下すれば辿りつけるのですが、あいにく両地点を結ぶ路線バスは運行されていません。六亀から不老温泉までの路線バスならあるのですが、早朝と夕方の計2往復のみなので、非常に利用しにくいダイヤ設定です。従いまして今回は、宝来からはまず六亀(高雄方面)行のバスに乗車し、途中の頂新発というバス停で下車、そこから荖濃渓左岸の道を徒歩で北上してゆくことにしました。
宿を10:00すぎにチェックアウトし、温泉街のセブンイレブンでこの日のランチにする食料と水を調達してから(現地で食堂や商店が見つからなかった時のための「保険」として購入)、目の前のバス停を10:30に発車する六亀行マイクロバスに乗車です。
バスの運ちゃんも車両も、昨日宝来まで乗ってきたバスと同じ。この日も前日も一人の運ちゃんが一台のバスで六亀と宝来(桃源)の間をピストン輸送していたのでしょう。乗客は爺さん婆さんばかり。
10:50、頂新発バス停で下車。数軒の民家がある以外は何もない辺鄙な場所です。食堂らしき建物が角に建っていましたが、営業しているような気配なし。
バス停付近で道が三叉路になっており、不老温泉へ向かう道(新開路)の入口には温泉施設の看板がいくつも立っています。この時は不老温泉でどの施設を訪れようか全く決めていませんでしたが、これだけ施設があるのならば、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、何軒か訪っていれば何とかなるだろうと、その看板の行列を見てちょっと安心しました。
三叉路から4~500mで「新宝橋」という真新しい橋を渡ります。民国100年(2011年)10月に竣工されたそうですから、まだ1年も経っていないんですね。88水害ではいくつもの橋が流出してしまいましたが、ここもその一つだったのでしょう。急ピッチの復旧工事のおかげで、幸いにも私は苦労なく再建されたこの橋を渡ることができました。
「新宝橋」付近の高台から荖濃渓を眺めてみます。河原が異様なまでに広く、草木が全く見られずにひたすら礫ばかりで荒涼としているのは、川が大暴れして流域のすべてを呑みこんだからなのでしょう。河原ではいまでも重機により復旧工事が行われていました。緑色の鉄橋は六亀と荖濃・宝来方面を結ぶ27号線(新発公路)の「新発大橋」です。宝来からのバスは頂新発バス停へ到着する直前にこの橋を渡ってきました。こちらも88水害によって流出し、その後復興事業により新しく架けられたもので、幹線道路ゆえに竣工式典では馬英九も出席したんだそうです。
ビンロウ並木が続く道。快晴の青空、灼熱の太陽、3月中旬の午前中だというのに気温は30℃近い暑さ。バックパックを背負い、直射日光をモロに受けながらクソ暑い山道を歩いていると、みるみるうちに体力が消耗していきます。
頂新発からダラダラと続くS字の坂を登ること20分弱(約1.5km)で「新開温泉渡假村」という施設を発見。看板には入浴100元という良心的な価格が記されていたので、重い荷物を下ろして早く入浴したいという心理も働き、ついその看板に惹かれてしまったのですが、あいにく休業中で、周囲には鉄板のバリケードが張り巡らされていました。ガックリ肩を落とし、更に奥へと進んでゆくことに。
「新開温泉渡假村」を過ぎてしばらくすると、山道が徐々に穏やかになって台地の上を進む感じになりました。たまに民家がある程度で、他にはただただ畑や樹林が広がるばかり。
途中「草地人民宿」という露天SPAのある施設が目に入りましたが、おばさんが大音量でカラオケを熱唱していたため、ひとまず通過させてもらいました(その後こちらも利用したので、その様子は次回紹介します)。
急に左側の視界が開けたと思ったら、そこには新しい公園が開設されていました。その名は「新開紀念公園」。なぜこんな人口の少ない場所に記念公園があるのか? 当然ながらそこには88水害という忌まわしい記憶が存在しているのです。高雄県(現在は高雄市)各地に甚大な被害を与えた88水害の魔の手はここ新開地域にも及び、大規模な土石流が発生して集落が悉く呑みこまれ、一瞬にして28人の尊い命が奪われてしまったそうです。この公園は地域の復興に当たり、犠牲者への鎮魂とともに災害の記憶を代々まで残すべく設けられたんだそうです。
公園となったこの場所は、以前は廃校となっていた小学校跡地だったそうでして、この場所で犠牲になった方はいらっしゃいませんが、校舎だった建物は土砂に飲み込まれてしまったんだとか。園名の石碑をはじめ園内には脱皮している蝶のモニュメントが目立ちますが、これには生存した方々に新たに生きる希望を与えたいという願いが込められているそうです。
【参考】「88水災の被災地に記念公園」(『台湾の情報ならお任せ RTIブログ』2011年8月10日付)
公園から一段下がった位置にある小さな廟の前には、川の上流を望む展望台が設けられています。そこに立てられた案内板には透明なアクリル板に稜線や川筋が描かれており、その線に実際の景色の稜線を合わせると、ここから眺める景色の中でどのように土石流が発生して河岸の集落を飲み込んでいったかがわかるようになっていました。川の左岸にあったはずの集落は壊滅してすっかり土砂の下に埋まってしまい、今や見る影もありません。
道を進んで実際に河原の方へ下りてみると、土砂に埋まった家屋が無残な姿で残っていました。
土石流に飲み込まれた集落跡を突き進みます。道路の両側には橋の欄干のような仮設の柵が並べられています。土石流の上に敷かれた道ですから、周囲の地盤が不安定で、下手に路肩を外れたら危険な状態なのでしょうね。
頂新発から歩き続けること35分(約2.6km)、土石流跡の殺風景な礫地の上に「天闊温泉SPA会館」と染め抜かれた水色の幟が路傍に多数立てられているのを発見。もうこれ以上歩くとバス停まで引き返すのに苦労すると判断し、ここで入浴をお願いしてみることにしました。施設そのものは河岸の高台に位置しており、道路からさらに急勾配なアプローチを登ってゆきます。既に十分疲労していた私にとって、このアプローチがえらく辛かった…。
広い駐車場の奥(というか川側)に建つシックで落ち着いた建物。山側の斜面には戸建のロッジも建ち並んでいます。
まだ開業して間もないのか、内部はとっても綺麗でラグジュアリ感すら漂っています。訪ってみると、この時は客が誰もいなかったのか、フロントのおじさんはソファーで気持ち良さそうにうたた寝の真っ最中でしたが、私の気配に気づくや否や急にシャキっと動きだして対応してくれました。
フロントを出るとすぐに露天SPAエリアです。こちらはシャワールーム兼更衣スペース。こちらで水着に着替えます(水泳帽も必要です)。一画にはコインロッカーがズラリと並んでいました。天井は木目、側面はオフホワイト、そして床は市松模様の石材で統一されており、とっても落ち着いた空間構成となっています。清潔感も漲っており、気持ち良く使えました。
脱水機や冷水機が用意されているのも嬉しいですね。
さてSPAエリアへGO!
オフシーズンの平日だからか、一番手前のプールには水が張られていませんでした。
こちらは打たせ湯やジェットバスが設置されている槽。一応お湯が張られていましたが、中途半端にぬるかったので(ぬるいというか冷たかった)今回は利用せず。恐らくここも閑散時なので営業準備がなされていなかったのでしょう。
冷水プール。ターコイズブルーの槽内がとっても綺麗ですね。
プールサイドではブーゲンブリアの花(実際には包葉ですが)が咲き乱れていました。紫味の鮮やかなピンク色には南国の紺碧の空がよく似合います。梢の上では小鳥たちがひっきりなしに囀っていました。
私が着替えている時、フロントのおじさんは駆け足でSPAの奥へと姿を消していったのですが、何をしに行ったのかと思っていたら、やがておじさんが冷水プールの奥の方で私を手招きしました。そこには正方形のおしゃれな露天風呂が6つほどあり、いずれも空っぽだったのですが、おじさんは私のためにその中のひとつへお湯を溜めていてくれたのです。この露天風呂はどれも1~2人サイズで、あたかも貸切風呂のように、利用の度にお湯を入れ替えるタイプのようです。なおお湯は無色透明無味無臭で特徴の少ないものでした。おじさん曰く本物の温泉を引いているとのことですので、ここではその言葉を信じることにしましょう。
高台の縁に位置しているこのミニ露天風呂からは、眼下に広がる荖濃渓、そして荖濃・宝来などの集落をはじめ、その後背に聳える対岸の山々などが一望でき、入浴しながらにして抜群の眺望が得られました。そして40℃前後の絶妙な湯加減も手伝って、いつまでも長湯していたくなります。炎天下の中、バックパックを背負って歩き続けてきた甲斐があった。こりゃ最高だ。疲れも憂いも一気に吹き飛んじゃいます。
展望デッキもあり、デッキチェアで横になりながら眺望することも可能。天気にも恵まれ、清々しい陽気の中で素晴らしい絶景を独り占め。贅沢だなぁ…。この高台の真下で数年前に惨劇が発生したと思うと、少々複雑な心境にもなるのですが、当地を訪れてこの絶景に触れ、以て当地の経済を少しでも潤すことになれば、僅かな力とはいえ積極的な復興のお手伝いになるのではないかと思ってみたり…。
なお個室風呂もたくさん用意されていますが、別料金(1000元以上!)なので今回は利用しませんでした。
新しさと上品さがそこかしこに満ち溢れている施設で、各設備もお庭も非常に綺麗。お湯はいまいち個性に掛けますが、ラグジュアリ感が伝わってきて快適でした。台湾の温泉にありがちなBGMが流れることも無くとっても静か。大自然に囲まれながら高台からの絶景を眺望し、小鳥の鳴き声を耳にしながらゆったりとした時間が過ごせることでしょう。雰囲気重視の女性客も満足できる施設ではないかと思います。
高雄客運・頂新発バス停から徒歩40分(約3km)
高雄市六亀区新発里新開路63号 地図
07-6791166
ホームページ
大衆池(露天SPA)200元
ロッカー(10元リターン式)・シャンプー類・ドライヤー・脱水機あり
私の好み:★★