「観月山荘」のヌルヌル白濁に歓喜した後、谷底の温泉街へ戻って廬山温泉の温泉頭へと向かうことにしました。温泉頭とは源泉地帯のこと。廬山温泉の旅館・ホテルはその多くが源泉地帯から引湯しているんだそうです。温泉街の施設で入浴しても良いのですが、どうせなら源泉で湧きたてのお湯に入りたいものですよね。ということで、源泉へ行ってみることにしたわけです。廬山温泉は日本時代に「富士温泉」と呼ばれていたそうでして、温泉街には当時のものと思われる建物が残っていました(復元したものかも)。
温泉頭は温泉街から川の上流へ向かってトレイルを数百メートル歩いた奥の方にあります。ここは温泉頭へと向かう歩道の入口。店を閉じちゃったのか、あるいはたまたま休業なのか、道沿いの商店は悉くシャッターを下ろしています。88水害以降、廬山温泉は客足がすっかり衰えてしまい、復旧工事が一通り終わって安全な状態へ戻っているにもかかわらず、「廬山温泉は災害に遭いやすい危険なところだ」という固定概念が台湾人の記憶にこびりついてしまい、いまだ客数が戻っていないんだそうです。この商店街はそうした惨状を体現しているかのようで、斜陽館たっぷりでした。また、廃業した宿の前では剥き出しのパイプから熱湯がボコボコ湧いていました。あぁ、もったいない…。
塔羅湾渓の断崖絶壁に設けられた歩道。崖をうまい具合にトラバースする感じで削られており、勾配はほとんど無く、とても歩き易いトレイルです。手摺りには引湯のホースがたくさん這わせてありました。
岩肌からお湯が染み出していました。
遠方に目的地である温泉頭の小屋が見えてきました。バラック然としており廃墟みたいですが、ちゃんと営業しているんですよ。
(全景は撮っていませんが)歩道途中には温泉卵を売るお茶屋さんがあり、その店の主人であるお爺ちゃんはダナさんのお知り合いで日本語も話せます。ということで、ちょっとお邪魔して、お茶とともに売り物であるはずの温泉卵を無料でいただきながら、30分ほどお喋りしました。この日の私は現地の方々の厚意に甘えっぱなしです。本当にありがとうございました。
なおお店には足湯があり、↑画像はその浴槽です。お湯は溜められていませんでしたが、パイプからドバドバ温泉が吐き出されていました。
温泉頭の小屋の100メートル程手前、歩道右手に細い滝が落ちていました。ダナさん曰く、この滝の左手(上流側)の岩盤に源泉が集中しており、右手ではほとんど湧いていないとのこと。つまりこの小さな滝より上流側が温泉頭というわけですね。
周囲には源泉を囲う枡が設置され、そこから温泉街まで引湯するためのホースが無秩序に伸びていました。
谷底から伸びる橋脚みたいな構造物も源泉井のひとつ。源泉から歩道の位置まで上げる引湯ホースをガッチリ保護する、櫓代わりの物なのでしょう。何が何でも源泉を確保したいという設置者の執念が伝わってきます。
さて歩道の突き当たりの小屋に到着です。湧きたての熱々源泉で温泉卵をつくれることが、この小屋の「売り」なんでしょうね。
小屋の内部は食堂兼カラオケ屋みたいな感じ。足湯や個室風呂では温泉頭から湧いた新鮮な源泉を楽しめるわけですが…。
でも、ここには秘密のお風呂があるのです。私が入浴を乞うと、店のおばちゃんは「シタ!、シタ!」と言いながら、店の下の方へ行けと指示します。店の入口の方へ戻ると、おばちゃんはおもむろに壁に取り付けられているスイッチを操作し、あたかもアラビアンナイトのアリババが「開けゴマ」と呪文を唱えたかのように、いままで下りきっていた電動シャッターが上がりはじめました。
シャッターの先には廃墟と化した浴室の残骸が広がっていました。温泉卵をつくる槽の跡も残っていましたが、ここは一体何なんだろうと戸惑っていると、おばちゃんは更に「シタ! シタ!」と連呼。あたりを見回せば、たしかにもっと下へ下る階段があるので、おばちゃんの指示通りに下りてゆくことに。
階段を下りきったところに待っていたのは…
おおお!! 温泉のお風呂だぞ!
大小の二つの浴槽があり、その周りをボロボロに朽ちた木のスノコが囲っています。
塩ビの湯口からは激熱の源泉が注がれているのですが、その周囲には自然の造形美とでもいうべき、もの凄い石灰ドームが形成されているのです! 北海道の二股ラジウム温泉や青森県の古遠部温泉、あるいはハンガリーのエゲルサロークやトルコのパムッカレを髣髴とさせる石灰棚が、台湾の地にもあったんですね。私は勝手に台湾のパムッカレと呼ばせていただくことにしました。
ちなみに石灰棚に置かれている絵は台湾原住民のひとつであるアミ族を描いたものらしいです。
湯口から出てくるお湯は57.0℃という高温。完全掛け流しのお湯なので、浴槽はかなり熱いのですが、かき混ぜれば全く問題なく、むしろとっても気持ち良い湯加減。ほぼ無色透明で、しっかりとしたスベスベ感を有し、石灰らしい知覚も感じられます。
錆びて朽ちたまんまの鉄骨越しに塔羅湾渓を展望。吹きっ晒しなので実質的に露天風呂みたいなもんです。
当然ながらこの秘密の温泉も「ゲストハウスプリ」のオーナーさんに教えていただきました。
台湾の温泉って本当に奥深いんですね。
所在地:南投県仁愛郷精英村の廬山温泉の一番奥にある温泉頭
入浴可能時間など不明
私の好み:★★★