温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

庄川湯谷温泉

2012年11月02日 | 富山県

庄川を堰き止めている小牧ダムのダムサイトすぐ下流にひっそりと佇む、温泉ファンの間では誉れの高い「庄川湯谷温泉」へ行ってきました。こちらの湯谷は「ゆたに」と読むんですね。地名の「谷」をヤではなくタニと読むところは、富山県呉西地区が文化的に西日本であることの証左ではないか、と根っからの東男である私は無駄な分析をはじめようとしてしまいますが、ま、そんなことは温泉とは全く関係ありませんから、今回は地名に関する東西の違いについて触れるのはやめておきましょう。
通りに面したところには「湯谷温泉私設バス停」なる建物があり、その待合室の右側から谷へ向かう坂の小径を下ってゆきます。バス停には道路付け替えによりルートが変更されて停留所も移転した旨の案内が貼られており、さほど古くは無いと思われるこの私設バス停は既に役目を終えているようでした。


 
坂の途中には料理屋さんが営業していました。当地には他にも料理屋さん(仕出し屋さん)が一軒暖簾を掲げており、温泉旅館に料理屋さんという組み合わせですから、昔は渓谷を眺めながら川魚とお酒をいただくような、雅やかな奥座敷的観光地だったのかもしれません。



坂を下りきると瓦葺きの古色蒼然とした民家らしき建物に行き当たりました。建物には看板も屋号も出ていませんが、民家にしては不自然に長い廊下が左手へ伸びていましたので、間違いなくここが温泉(旧旅館)だろうと確信し、玄関の引き戸を開けることにしました。


 
上の画像では見切れていますが、玄関の前には黄色い避難用ボートが置かれており、この場所が水害に遭いやすい地形であることを物語っています。玄関の中に入ると、三和土が左右に幅広く構えており、上がり框にはスリッパが整然と並べられていました。鴨居に掛かっている「大入」なんていかにも商売を営んでいる家らしい物ですね。


 
上がり框には料金箱が載せられた小さな台が置かれており、入浴客はセルフで料金を支払う仕組みになっているんですね。料金は500円ですが、もし紙幣しか持っていなければ自分で篭の中からおつりを持って行けば良いわけです。地方ではこういうお客さんを信用しきった素朴な光景をしばしば見受けますが、その度に人間の性善説を認識することができ、温かい気持ちに満たされます。
こちらでは入浴のみの利用を「一浴」と言っているんですね。いい表現だ。今度から私も真似させてもらおう。



表に屋号は出ていませんが、館内の廊下には温泉名を確認できる額が掲げられていました。どなたが揮毫したのか存じ上げませんが、立派な額じゃありませんか。ちょうど私が訪れた時に奥の方から女将さんがやってきて、お風呂の場所、そしてお湯が飲めることなどを教えてくれました。誰もいない鄙びた建物ですから、温泉であるとわかっているとはいえ正直なところ一抹の不安を抱いておりましたが、人当たりの優しい明るい女将さんの話しぶりに接して不安は一気に霧散しました。


 
長い廊下を歩いていると、途中右側には自炊のための炊事場がありました。中には流し台の他、コイン式のガスコンロも用意されています。


 
廊下の先には階段があり、川岸の方へと下りてゆきます。長い階段を下ってゆく温泉は大抵が名湯ですから、この階段を目にして早くも期待に胸が膨らみます。窓の外を眺めると、目の前には小牧ダムのダムサイトが屹立していました。



浴室への階段を下ってゆくと、途中からは仮設の柱が立てられ周囲をブルーシートで覆っています。川に近い方は平成16年の台風23号による増水で流出しちゃったそうでして、以来この状態が続いているようです。


 
階段を下りきった突き当たりの左が女湯で右が男湯。女の文字は扇のレリーフが施されていて、さりげない昭和のお洒落が感じられます。脱衣室の入口にはアコーディオンカーテンが取り付けられていました。室内は棚があるだけで至ってシンプル。


 
浴室に入って更に階段を下りてゆくと、洗い場も何も無く、いきなり浴槽になってしまいました。室内にはカランはおろかかけ湯する場所すらありませんが、強いて言うならば、ステップと浴槽が接する部分に浅くお湯が張られている箇所があって、そこは木の板で浴槽のメイン部分と仕切られており、メイン部分から浅い方へ溢れ出たお湯は戻ること無く、壁に沿った細い溝へと排水されてゆくので、この浅い部分でしたら湯船のお湯を汚すこと無く体を洗うことができるでしょう。とはいえ桶や柄杓すら無いんですけどね。



これが温泉ファン大絶賛の浴槽ですね。こりゃすごい。大砲あるいはバズーカ砲のような形状をした金属製の筒状湯口から大量のお湯がゴーゴーと音を立てながら噴出しています。噴出というより噴射と表現した方がふさわしい状態ですね。
浴槽を含め室内はモルタル塗りとなっており、浴槽の底には化粧石が埋められていました。湯船は脱衣所側へ若干潜り込むような造りでして、半洞窟風呂のような雰囲気すら感じられます。


  
つい湯船や湯口に目が奪われがちですが、浴室全体を見回してみますと、天井はドーム状になっており、壁面にこびりついたシミや塗装の剥がれがこの温泉の歴史を代弁してくれていますが、この浴室がお客さんの目に初めて触れた当時は、さぞかしモダンな設計として捉えられたのではないかと想像します。なお男女の仕切りは天井まで届いておらず、室内の空気は向こう側と一体となっているのですが、その仕切り壁には擦りガラスが用いられていて、それが余計に淫靡な空気を醸し出していました。換気はあまりよろしくなく、室内には蒸気がムンムンと籠もっていましたが、後述するようにお湯がぬるいので、むしろ湯気で満たされていたおかげで寒さを感じずに済んだのではないかと思います。



壁に取り付けられている手摺りは、黒く鈍った輝きを放っていました。元々黒い素材なのか、あるいは長年の硫化によってこのような状態に変色していったのか。


 
大砲のような湯口から出てくるお湯は無色澄明、うっすらとタマゴの味と匂い、そして微かな塩味が感じられます。はっきりとしたツルスベ浴感を有し、温度は38.8℃で、時間を忘れていつまでも長湯し続けることができました。当然ながら完全掛け流し。大量のお湯が常時ドバドバ投入され、洪水のようにどんどん湯船から溢れ出てゆきます。
この湯口は男女仕切りの真ん中に設けられており、可動式になっていて、男湯側の口を揚げると女湯側が下がり、女湯側を揚げると男湯側が下がる、まるでシーソーのような仕組みになっていました。


 
こちらのお湯で特筆すべきは、とんでもない量の掛け流しと、おびただしい気泡の付着であります。入浴するや否や、全身に大量の泡が付着し、ものの数十秒であっという間にアワアワ星人となってしまいました。拭っても拭ってもどんどん付着してきます。この泡付きには本当に感動してしまいました。泡のおかげでスベスベ浴感は更に増し、入浴中は爽快そのもの。不感温度帯に近いアワアワのぬる湯に浸かっていると、時が過ぎゆくのをすっかり忘れてしまい、ちょっとした浦島太郎になってしまいそうでした。また、ぬるいお湯ですが長い間入り続けたためか、湯上がりは体の芯までしっかり温まり、湯冷めするようなこともありませんでした。
あまりに鄙びた施設なので、いつ歴史に幕を下ろしてしまうか心配でなりませんが、是非いつまでも温泉ファンを魅了しつづけていただきたいものです。


ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 39.5℃ pH不明 溶存物質1.551g/kg 成分総計1.553mg,
Na+:344.9mg, Ca++:210.5mg,
Cl-:774.4mg, SO4--:159.7mg,
H2SiO3:28.6mg, CO2:0.02mg,
加温・加水・循環・消毒なし

富山県砺波市庄川町湯谷235  地図
0763-82-0646

?~17:00 木曜定休
500円
備品類無し

私の好み:★★★
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする