鬼首の吹上方面へ向かう一方通行の途中に位置してる旅館「かむろ荘」で立ち寄り入浴しました。この付近は細かく区分すると宮沢温泉というエリアに当たるそうでして、以前拙ブログで取り上げたことのある「旅館元湯」もこちらと同じく宮沢温泉のひとつに含まれているみたいです。
日帰り入浴時間が始まる10時丁度に伺ったところ、女将は「露天はまだ掃除しておりませんから、お代を頂戴してしまったらお客様に失礼です」と頻りに恐縮なさっており、もしかしたら婉曲に入浴を謝絶されているのかとも察しましたが、よくお話を伺ってみたところ、どうやら本当に清掃が終わっておらずに客に見せられる状態ではないらしく、それでも宜しければどうぞご入浴ください、とのことでしたので、ひとまずお風呂の状態を確認させていただくこととなりました。
女将に案内されて、長い廊下をひたすら進んでゆきます。
両側の客室が並ぶ細い廊下の突き当たりに露天風呂の札がぶら下がっていました。
女将が「こちらになりますが、本当に宜しいですか」と遠慮しながら私に見せてくださった露天風呂は、周囲の山の緑と静寂に囲まれた風情溢れる岩風呂でして、女将の言う清掃とは浴槽に若干溜まった落ち葉の掬い上げることであり、その程度のことでしたら私にとっては全く問題ありませんから、喜んで利用させていただきますと申し上げ、女将に鳴子の湯めぐりチケットを2枚お渡ししました。大雑把な性格である私にとってはたかが落ち葉ですが、女将にとってはされど落ち葉なのかもしれず、宿の看板でもあるお風呂のお手入れは旅館の沽券に関わる極めて重要なことであり、実際にその点を細かく指摘する厳しいお客さんもいらっしゃることでしょうから、無神経に入浴を乞う私に対してナーバスになってしまったのかもしれません。
さてこちらの露天風呂は一つしかないために混浴となっていますが、私の訪問時には他にお客さんがいなかったため、終始貸切で利用することができました。浴槽はモルタルに岩を埋め込んで化粧が施されている造りで、山側から突き出たゴツイ岩の湯口からほとんど熱湯状態のお湯がチョロチョロと落とされています。湯量が絞られているのはお湯が熱すぎるためでしょう。湯口には白いヒゲのような析出が現れており、浴槽の湯面にもうっすらと白いラインが浮かび上がっていました。源泉投入量を絞って温度調整がなされていますが、それでも全体的に熱めの湯加減であり、湯口から落とされた熱湯は浴槽の(山に向かって)左半分へ流れるため、とりわけ左半分はかなり熱い状態でした。従いまして今回は基本的に右半分を利用しましたが、それでも入りしなは熱く感じられたので、女将の助言に従って水道のホースで加水させていただきました。
お湯は無色透明でトロトロしており、湯口では硫化水素臭が弱く鼻孔を刺激し、味覚面では微塩味の他、微かに石膏みたいな知覚も感じられました。入浴するとサラスベの浴感が肌に伝わりました。分析表を見ますとあと一歩のところで食塩泉になれずにアルカリ性単純泉へカテゴライズされているようですが、お湯のコンディションなんて日によって結構違って現れますから、場合によっては1000mgのボーダーを超えて食塩泉になる日もあるのかもしれませんね(1kg中の溶存物質含有量が総量1000mg未満で、且つpH8.5以上だったらアルカリ性単純泉)。
加水による湯加減調整が上手くいき、ベストな状態で入浴させていただきました。頭上を紅葉の梢が屋根のように覆い被さっており、虫のすだきも耳に心地よく、柔らかな木漏れ日が落ち着いた環境を生み出してくれ、じっくりのんびり浸かっていたら、すっかり心の洗濯をすることができました。
なお宿泊して夜にこの露天風呂を利用する場合、20時~21時は女性専用となるんだそうです。
露天で充分満足してしまったのですが、せっかくですから続いて内湯へ向かいましょう。
お宿の歴史を感じさせる草臥れた脱衣室。
浴室も長年使われてきた哀愁と疲労感を漂わせていますが、大きなガラス窓のおかげで室内はとても明るく、これによって蒼然とした雰囲気が幾分相殺されているように感じられました。私が利用した時、床のタイルはオーバーフロー箇所以外カラカラに乾燥していましたから、先客の利用から相当の時間が経っていたものと思われ、誰も居ないというのに、お湯だけは決して絶えることなく湯船へと注がれ続けていました。露天同様、源泉温度が熱すぎるためか、投入量は絞り気味でした。
洗い場は浴室の左右に分かれており、湯と水の蛇口のセットが計3組取り付けられているのですが、シャワーは無く、剥き出しになっている配管には赤錆が出ちゃっており、実際に使おうかどうか迷ってしまうほどの老朽っぷりです。備え付けのシャンプー類は蛇口から離れた洗い場の床の真ん中に、桶や腰掛けと並んで置かれていましたから、体や髪を洗う際には水栓を使わず、桶で直接湯船のお湯を汲んじゃった方がいいのかもしれませんね。
室内には隣室への入口があり、何があるのか不思議に思いながら奥へと進んでみますと、そこには空っぽの浴槽と使われていない洗い場が放置されているお風呂の廃墟のようなデッドスペースが広がっていました。なぜ現在は未使用となっているのかわかりませんが、勝手に想像してみますと、かつては内湯一室だけでは間に合わずに副浴室を設けないといけないほど多くのお客さんで賑わっていたということなのでしょうか。
さてお風呂から上がって、お宿の裏口の方へまわってきました。すぐ傍には大崎市営バスの「宮沢温泉」バス停が立っています。
裏手にやってきた理由は、浴用に用いられていた源泉とは別の源泉を見学するためでした。裏口の前に広がるガレージの一角には上画像のような屋根が立てられていて、温泉卵をつくるためのポリバスがひとつ据えられているのです。
槽の蓋をあけてみたら、火傷しそうなほど熱い湯気が一気に上がってきました。温度計の針は73~4℃を指しています。槽には板が渡してあるので、ここへタマゴを入れた網をくくりつけるんでしょうね。
先ほども述べましたが、この温泉卵用ポリバスに注がれているお湯は、露天風呂や内湯などの浴用に用いられている源泉とは別の源泉でして、ポリバスのすぐ傍で濛々と湯気を上げながら湧出しており、その一部がポリバスへ引かれているものの、余ったお湯はそのまんま捨てられていました。あぁ、勿体ない・・・。タマゴ専用の源泉があるなんて、地熱資源の豊富な鬼首らしい光景ですね。
女将はとても腰が低くて温かな人柄が全身から滲み出ており、湯上がりにはこちらの温泉についていろいろと教えてくださいました。お話の最中で女将が私に見せてくさったのが上画像の「温泉測定調査書」でして(固有名詞など一部修正して掲載しています)、今年(平成24年)9月中旬某日調査のデータによりますと、こちらのお宿では3つの源泉を有しており、いずれも自然湧出の自噴で、浴用に用いてる「かむろの湯」源泉は97.0℃・湧出量測定不可能、第一湧出口と称する箇所から湧出する源泉は73.8℃・毎分1.1L湧出、第二湧出口は74.7℃・毎分11.9L湧出、と記されていました。温泉卵のお湯は第二湧出口のお湯が該当するのかしら。
かむろの湯
アルカリ性単純温泉 98.1℃ pH8.8 溶存物質987.6mg/kg 成分総計987.6mg/kg
Na+:255.0mg(90.68mval%),
Cl-:335.4mg(75.92mval%), SO4--:82.6mg(13.80mval%), CO3--:32.1mg(8.59mval%),
H2SiO3:218.8mg,
清掃時のみ(3日に一度)加水、加温循環消毒なし
大崎市営バス(鳴子温泉駅~鬼首温泉)で「宮沢温泉」下車
宮城県大崎市鳴子温泉鬼首宮沢24 地図
0229-86-2301
ホームページ
日帰り入浴10:00~15:00
500円(鳴子湯めぐりチケット2枚)
シャンプー類あり、他備品類無し
私の好み:★★★