温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

芦之湯温泉 きのくにや旅館 その1(本館「湯香殿」)

2013年05月13日 | 神奈川県

拙ブログでは箱根の良質な白濁造成泉や無色透明湯をいくつか取り上げて参りましたが、天然の白濁湯については未掲載でしたので、先日日帰り入浴で利用した芦之湯の「きのくにや旅館」をその代表として今回取り上げたいと思います。玄関右手には日帰り入浴専用の券売機が設置されているのですが、訪問時は稼働しておらず、フロントで直接料金を支払いました。初訪問の際はその旨をフロントに伝えると、スタッフの手が空いている時はお風呂まで案内してくれるかと思います。


 
(両画像ともクリックで拡大)
こちらのお宿では芦之湯に湧く白濁の硫黄泉と、湯ノ花沢から引いている無色透明の町営温泉の2種類に入ることができ、館内にはその旨を客に説明するプレートが随所に掲示されていました(硫黄泉は2源泉あるので、厳密には3種類と言えるかもしれません)。また各源泉について湯使いに関する細かな情報が明示しており、お宿の誠意が伝わってきます。


 

館内には大浴場や貸切風呂など様々な浴室が設けられているのですが、日帰り入浴で利用できるのは本館と別館の大浴場となります。
中庭を左手に眺めながら、まずは本館の大浴場「湯香殿」へ。


 
「箱根にごり湯の会」なんて会があったんですね。恥ずかしながら初めて知りました。会員宿のラインナップを拝見しますと芦之湯以外はみな造成泉ですから、「きのくにや」さんは別格と言っても過言ではないでしょう。
人気の老舗旅館らしく脱衣室内は綺麗に清掃されており、洗面台にはアメニティ類がきちっと整頓されていました。


 
浴室内もよくお手入れされており気持よく利用できましたが、造りとしては温泉旅館の大浴場によくあるタイプであり、やや没個性かもしれません。窓ガラスに面して据えられた浴槽は同時に7~8人が入れそうな容量で、床や槽内はタイル貼りですが、浴槽縁は石材が用いられています。その縁は元々黒い御影石なのかもしれませんが、温泉成分が表面を覆って灰色っぽくコーティングされていました。洗い場には8基のシャワー付き混合水栓がL字形に配置されています。


 
お湯は浴槽底にあけられている2つの穴から投入されており、この穴のまわりには暗いオレンジ色の沈殿が多く見受けられました。脱衣室には温泉内に存在する湯の華に関して説明が掲示されていたのですが、湯船の沈殿はその湯の華なのでしょうね。
各浴槽ではその日の状況によって湯使いを調整しているらしく、この日の内湯ではオーバーフローが見られず槽内にて吸引し循環しているようでした。お湯はほんのり青み掛かった灰色に僅かに霞んでいるようにも見えますが、ほぼ無色透明と言って差し支えないような状態でして、トロミこそ肌に伝わりましたが、単純硫黄泉である黄金湯を使用していることが信じられないほど硫黄感は殆ど感じられず、鮮度感もいまいちでした。


 
続いて露天風呂へ。「芦ノ湖周遊風呂」と名付けられたこの露天は、岩風呂の湯船を芦ノ湖に見立て、塀の一部に関所の門を模したゲートの模型を立てたり、風景画を塀に提げたりしています。また湯船には三角の屋根が掛けられていました。
露天で使用されているお湯は、脱衣室の掲示には内湯と同じ「黄金湯」と表示されていましたが、館内廊下の掲示(当ページの上方に掲載)によれば無色透明の「湯の花揚湯2号泉」となっており、無色澄明で硫黄感はほぼ皆無でありつつ優しい浴感が得られたので、私の体感からすると、後者であると思われます。でもお湯は槽内でしっかり循環されており、そのためかこれといった特徴はあまり無く、むしろ塩素臭が気になり鮮度感もいまひとつでした。夏には全量掛け流しされるそうですから、私の訪れたタイミングが悪かったんだと思い、ここは諦めました。



塀に飾られている絵は富士山や大涌谷など芦ノ湖から眺望できる景色が描かれている錦絵風のモザイクアートです。


 
本館「湯香殿」で特筆すべきはこの「神遊風呂」です。一人が入れる大きさの甕に、内湯と同じ「黄金湯」が張られている一人のですが、このお湯が非常に秀逸なのです。



竹の樋から殆ど非加温と推測される30℃くらいのぬるい「黄金湯」がチョロチョロと落とされており、甕では30℃を下回る温度にまで冷めているのですが、常時静々とオーバーフローしており、循環などがなされていないありのままの「黄金湯」に入ることができました。
お湯は青白くはっきりと濁り、クリーム色の湯華が大量に浮遊および沈殿しています。燻されたような硫黄臭が香り、強いタマゴ味と口腔に残る渋味やえぐみの強い苦味が感じられます。全身にまとわりつくようなトロミとともにパウダリーなさらさら感、そして少々引っ掛かりがそれぞれ伯仲しながら混在し、それらがミックスされた浴感は例え難い実に素晴らしいものでした。湯温はかなりぬるいものの、水風呂のような冷たさはないため、外気が多少寒くても難なく入ることができ、むしろ強い硫黄感と極上の浴感のために、甕から出るのがためらわれるほどでした。硫黄感が強いとはいえ、pH6.9とほぼ中性であり、酸性泉のような刺激が全くないため、入浴中は肌に優しく、湯上りはしっとりと潤います。日帰り入浴可能の浴室にこのような素晴らしいお湯を提供してくださるお宿の関係者の方々には感謝です。


黄金湯(芦之湯第3・6号混合)
単純硫黄温泉 31.9℃ pH6.9 72L/min(自然湧出) 蒸発残留物0.448g/kg 成分総計0.522g/kg
Na+:34.6mg, Mg++:14.2mg, Ca++:50.4mg,
HS-:4.88mg, SO4--:188mg, HCO3-:71.8mg,
H2SiO3:127mg, H2S:7.02mg,
(平成20年8月21日分析)
内湯(黄金湯使用):循環(生源泉も投入)
露天(おそらく湯の花揚湯2号泉):夏季は全量掛け流し、冬季は循環(生源泉も投入)
神遊風呂(黄金湯使用):加水加温あり(入浴に適した温度に保つため)、循環消毒なし


その2へ続く
コメント
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