静岡市って広くなりましたね。平成の大合併によって駿府城も三保の松原も、草薙ダムも間ノ岳や農鳥岳も、太平洋岸から南アルプスに至るとんでもない領域が静岡市に含まれることになったわけですが、静岡市街を流れる安倍川も流域がスッポリ市内におさまってしまい、市街地が広がる下流域はともかく、深山幽谷の上流域である安倍奥エリアを車で走っていても、そこが政令指定都市だとはとても信じられません。そんな安倍川をひたすら遡っていった源流地帯に湧き出でる温泉が今回取り上げる梅ヶ島温泉でして、武田信玄の隠し湯として使われたという言い伝えもあるんだとか。山梨をはじめ長野・神奈川・静岡に点在する信玄の隠し湯は40℃以下のぬるい温泉か冷たい鉱泉であることが多く、梅ヶ島温泉も源泉温度は約38℃なのですが、加温せずに入れる温度であるとはいえ、ある程度暖かい季節にならないと非加温状態のお湯に浸かるのはちょっとツラいため、本格的に春の暖かな陽気が日本列島を包みこんだ4月下旬に足を運んでみることにしました。
梅ヶ島温泉は川に沿って中小規模の旅館が並ぶエリアと、そこから安倍峠側へ100メートルほど入った高台に大小数軒が集まっているエリアの2つに分かれているのですが、今回まず訪れたのは、後者の方に位置している当地で最も古い老舗旅館「梅薫楼」です。いまでこそ複数の旅館が営業していますが、昭和30年代までさかのぼると当地には「梅薫楼」ただ一軒しかなかったそうです。梅ヶ島温泉の路線バスの始発地点となる停留所はこの旅館の玄関目の前に立てられているのですが、これはかつて当地にこの旅館以外存在しなかったことを物語っているのかもしれません。
玄関脇に立っている「日帰り入浴できます」の幟に安心しながら玄関の中に入ると、フロントには剥製のイノシシがこちらを睨みつけていました。夜に見たら怖くて泣いちゃうかも。
道路を挟んだフロントや本館の反対側に入浴ゾーンがあり、宿泊客は地下通路で道路をくぐって向かうのですが、日帰り入浴の場合はその通路を使わず、道を横断して暖簾がかかっている裏口みたいなところから入っていきます。
大浴場へ向かう通路は「健康廊下」と名付けられているように、青竹踏みのような凸凹な加工が施されていました。大浴場は「長寿の湯」と「常盤の湯」に分かれており、男女入れ替え制となっています。訪問時は「常盤の湯」に男湯の暖簾がかかっていました。
●常盤の湯
本館浴室共に建物はかなり草臥れている印象が拭えませんが、脱衣室の内装は最近改修されたらしく、壁の木材からは新しさが感じられ、棚も塗装し直されていました。
お風呂は内湯のみで露天はありません。浴室の中央にL字形の主浴槽が据えられ、浴室入口側と主浴槽の間には板状の天然岩が屏風のように置かれており、室内レイアウトにアクセントを加えていました。主浴槽の縁には石材が用いられ、槽内のステップは水色、側面はピンク色のタイルが貼られ、底面には鉄平石と思しき石材が敷かれています。
L字の浴槽の角に置かれた岩から冷めた源泉がチョロチョロと注がれているのですが、大きな浴槽をそのチョロチョロで満たすことはできるはずもなく、岩の直下にある槽内ステップ部分から加温された循環湯が勢い良く噴き上げられていました。加温のおかげで丁度良い湯加減(41~2℃)に維持されており、気持ち良いツルスベ浴感も楽しめましたが、梅ヶ島らしい芳醇なタマゴ臭やタマゴ味は喪失しかかっており、湯の花などもほとんど確認できず、またオーバーフローも無く、槽内にてしっかり吸引されていました。源泉を投入しながら加温循環も行なう半循環という湯使いなんでしょうけど、いかんせん源泉投入量が少ないのはお風呂の管理運営上、致し方ないことなのかもしれません。主浴槽は足を伸ばして温浴効果を得るための実用的な浴槽と言えそうです。一方、この浴室で特筆すべきは主浴槽の脇に設置されている樽風呂「金乃湯」であります。
一人サイズの樽風呂「金乃湯」には竹筒から手が加えられていない生の源泉が注がれており、完全掛け流しのお湯に浸かることができるのです。非加温なので樽の中は35℃前後とかなりぬるめ。お湯はほぼ無色透明ですが、ぼんやりと白く霞んでいるようにも見え、湯中では藤色(淡い紫色)を帯びたゼリーみたいにプニョプニョした物が大量に浮遊・沈殿していました。これってきっと源泉由来の湯花みたいなものなのでしょうね。竹筒を流れるお湯を掬って口にしてみると、濃厚なタマゴ味が口腔に広がるとともにはっきりとしたタマゴ臭がほんのりと鼻に抜けてゆきました。硫黄が相当強く自己主張しています。この他苦味や渋味が伴っているほか、甘みも感じられました。アルカリ性に明確に傾いている上に炭酸イオンが多いためかヌルヌル浴感が強く、お湯に入るとまるで濃いローションにとっぷりと浸かっているかのような感覚になり、あまりの気持ちよさに夢心地になって何度も何度も肌をさすってしまいました。この「金乃湯」に浸からなければ「梅薫楼」を利用する意味が無いといっても過言ではないでしょう。なお樽の木は透明の樹脂でガッチリとコーティングされているのですが、これはアルカリによる腐食を防ぐためかと推測されます。また、源泉投入量が少ないため、一度樽に入浴してザバーっとお湯を溢れ出させちゃうと、元の嵩まで回復するにはちょっと時間を要するので、混雑時にはその点を理解しておいたほうが良いかと思います。
洗い場には源泉が出てくる蛇口が2つ、室内の隅っこに水道の蛇口が1つ、そして真湯が出てくるシャワー付き混合栓が1つ設置されています。蛇口から出てくる源泉は35℃にも満たないようなぬるいもので、その温度から推測するに完全な生源泉かと思われ、「金乃湯」にも劣らないほどはっきりとしたタマゴ味やヌルツベが感じられました。それらの蛇口はいずれも硫化して真っ黒く変色しており、硫黄の多さを目でも実感できます。
●穴風呂
大浴場のほか、敷地内には二つの貸切個室風呂が並んでいます。
大浴場から上がって廊下でのんびりしてると、宿のご主人から「穴風呂は面白いから是非入っていってよ」とすすめてくれたので、言われるがままに利用してみることにしました。
外観こそ質素ですが室内は綺麗に整っており、大浴場同様にこちらの脱衣室も最近内装工事が行われたんだろうと推測されます。棚に置かれたミニ扇風機が可愛らしいですね。スイッチを入れたらAC100Vでちゃんと回り、湯上りのクールダウンに活躍してくれました。室内にはきちんと分析表が掲示されており、お宿のお湯に対する誠実さが伝わってきます。
浴室の戸を開けてビックリ。小さな室内に岩の洞窟が拵えられいるではありませんか。なるほど、まさに「穴風呂」だ。この洞穴は当然ながら人工的なもので、お客さんを喜ばせようというお宿のサービス精神が具現化されたものなのでしょうね。穴の中は肩を寄せ合えば2人は入れそうな岩風呂になっており、加温循環されたお湯が張られています。お湯の特徴としては大浴場の主浴槽と同様でして、残念ながら梅ヶ島らしい硫黄感は飛んでしまっていますから、このお風呂はあくまでアトラクションとして楽しんだほうがよさそうです。
狭い浴室ですがカランもありますよ。黒く硫化した水栓を開けると、非加温の生源泉が出てきました。
●石風呂
もう一つの貸切風呂は「石風呂」。こちらには入らないかわりに見学させていただきました。
インパクトの強い穴風呂とは対照的に、こちらは民宿を思わせる実用的なお風呂ですね。でも浴槽はPの字のような形状をしていたり、室内の至る所に石がたくさん埋め込まれていたりと、一見普通のお風呂のようでいて、実はこちらも個性的だったりするんです。なお、お湯に関しては「穴風呂」と同様です。
これから梅雨を挟んで暑い陽気が続きますが、そんなときに梅ヶ島の非加温源泉に入れば、この上ない清涼感が味わえること間違いないでしょうね。梅ヶ島温泉のありのままの姿を楽しめる「金乃湯」は秀逸でした。
混合泉(第2貯湯槽)
単純硫黄温泉 38.2℃ pH9.6 150L/min(合計量、自然湧出・掘削自噴) 溶存物質0.248g/kg 成分総計0.248g/kg
Na+:65.8mg(96.52mval%),
HCO3-:29.1mg(15.43mval%), CO3-:44.0mg(47.27mval%), HS-:12.5mg(12.22mval%), S2O3--:11.4mg(6.43mval%), SO4--:15.2mg(10.29mval%)
H2SiO3:58.1mg,
(平成21年10月22日分析)
金乃湯:完全掛け流し
それ以外の各浴槽:加温・循環あり、加水なし
静岡駅北口あるいは静鉄新静岡駅よりしずてつジャストラインの安倍線(梅ヶ島温泉行)に乗車して終点下車。
静岡県静岡市葵区梅ヶ島5258-4
054-269-2331
ホームページ
日帰り入浴11:00~16:00(受付15:30まで)
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず
私の好み:★★
梅ヶ島温泉は川に沿って中小規模の旅館が並ぶエリアと、そこから安倍峠側へ100メートルほど入った高台に大小数軒が集まっているエリアの2つに分かれているのですが、今回まず訪れたのは、後者の方に位置している当地で最も古い老舗旅館「梅薫楼」です。いまでこそ複数の旅館が営業していますが、昭和30年代までさかのぼると当地には「梅薫楼」ただ一軒しかなかったそうです。梅ヶ島温泉の路線バスの始発地点となる停留所はこの旅館の玄関目の前に立てられているのですが、これはかつて当地にこの旅館以外存在しなかったことを物語っているのかもしれません。
玄関脇に立っている「日帰り入浴できます」の幟に安心しながら玄関の中に入ると、フロントには剥製のイノシシがこちらを睨みつけていました。夜に見たら怖くて泣いちゃうかも。
道路を挟んだフロントや本館の反対側に入浴ゾーンがあり、宿泊客は地下通路で道路をくぐって向かうのですが、日帰り入浴の場合はその通路を使わず、道を横断して暖簾がかかっている裏口みたいなところから入っていきます。
大浴場へ向かう通路は「健康廊下」と名付けられているように、青竹踏みのような凸凹な加工が施されていました。大浴場は「長寿の湯」と「常盤の湯」に分かれており、男女入れ替え制となっています。訪問時は「常盤の湯」に男湯の暖簾がかかっていました。
●常盤の湯
本館浴室共に建物はかなり草臥れている印象が拭えませんが、脱衣室の内装は最近改修されたらしく、壁の木材からは新しさが感じられ、棚も塗装し直されていました。
お風呂は内湯のみで露天はありません。浴室の中央にL字形の主浴槽が据えられ、浴室入口側と主浴槽の間には板状の天然岩が屏風のように置かれており、室内レイアウトにアクセントを加えていました。主浴槽の縁には石材が用いられ、槽内のステップは水色、側面はピンク色のタイルが貼られ、底面には鉄平石と思しき石材が敷かれています。
L字の浴槽の角に置かれた岩から冷めた源泉がチョロチョロと注がれているのですが、大きな浴槽をそのチョロチョロで満たすことはできるはずもなく、岩の直下にある槽内ステップ部分から加温された循環湯が勢い良く噴き上げられていました。加温のおかげで丁度良い湯加減(41~2℃)に維持されており、気持ち良いツルスベ浴感も楽しめましたが、梅ヶ島らしい芳醇なタマゴ臭やタマゴ味は喪失しかかっており、湯の花などもほとんど確認できず、またオーバーフローも無く、槽内にてしっかり吸引されていました。源泉を投入しながら加温循環も行なう半循環という湯使いなんでしょうけど、いかんせん源泉投入量が少ないのはお風呂の管理運営上、致し方ないことなのかもしれません。主浴槽は足を伸ばして温浴効果を得るための実用的な浴槽と言えそうです。一方、この浴室で特筆すべきは主浴槽の脇に設置されている樽風呂「金乃湯」であります。
一人サイズの樽風呂「金乃湯」には竹筒から手が加えられていない生の源泉が注がれており、完全掛け流しのお湯に浸かることができるのです。非加温なので樽の中は35℃前後とかなりぬるめ。お湯はほぼ無色透明ですが、ぼんやりと白く霞んでいるようにも見え、湯中では藤色(淡い紫色)を帯びたゼリーみたいにプニョプニョした物が大量に浮遊・沈殿していました。これってきっと源泉由来の湯花みたいなものなのでしょうね。竹筒を流れるお湯を掬って口にしてみると、濃厚なタマゴ味が口腔に広がるとともにはっきりとしたタマゴ臭がほんのりと鼻に抜けてゆきました。硫黄が相当強く自己主張しています。この他苦味や渋味が伴っているほか、甘みも感じられました。アルカリ性に明確に傾いている上に炭酸イオンが多いためかヌルヌル浴感が強く、お湯に入るとまるで濃いローションにとっぷりと浸かっているかのような感覚になり、あまりの気持ちよさに夢心地になって何度も何度も肌をさすってしまいました。この「金乃湯」に浸からなければ「梅薫楼」を利用する意味が無いといっても過言ではないでしょう。なお樽の木は透明の樹脂でガッチリとコーティングされているのですが、これはアルカリによる腐食を防ぐためかと推測されます。また、源泉投入量が少ないため、一度樽に入浴してザバーっとお湯を溢れ出させちゃうと、元の嵩まで回復するにはちょっと時間を要するので、混雑時にはその点を理解しておいたほうが良いかと思います。
洗い場には源泉が出てくる蛇口が2つ、室内の隅っこに水道の蛇口が1つ、そして真湯が出てくるシャワー付き混合栓が1つ設置されています。蛇口から出てくる源泉は35℃にも満たないようなぬるいもので、その温度から推測するに完全な生源泉かと思われ、「金乃湯」にも劣らないほどはっきりとしたタマゴ味やヌルツベが感じられました。それらの蛇口はいずれも硫化して真っ黒く変色しており、硫黄の多さを目でも実感できます。
●穴風呂
大浴場のほか、敷地内には二つの貸切個室風呂が並んでいます。
大浴場から上がって廊下でのんびりしてると、宿のご主人から「穴風呂は面白いから是非入っていってよ」とすすめてくれたので、言われるがままに利用してみることにしました。
外観こそ質素ですが室内は綺麗に整っており、大浴場同様にこちらの脱衣室も最近内装工事が行われたんだろうと推測されます。棚に置かれたミニ扇風機が可愛らしいですね。スイッチを入れたらAC100Vでちゃんと回り、湯上りのクールダウンに活躍してくれました。室内にはきちんと分析表が掲示されており、お宿のお湯に対する誠実さが伝わってきます。
浴室の戸を開けてビックリ。小さな室内に岩の洞窟が拵えられいるではありませんか。なるほど、まさに「穴風呂」だ。この洞穴は当然ながら人工的なもので、お客さんを喜ばせようというお宿のサービス精神が具現化されたものなのでしょうね。穴の中は肩を寄せ合えば2人は入れそうな岩風呂になっており、加温循環されたお湯が張られています。お湯の特徴としては大浴場の主浴槽と同様でして、残念ながら梅ヶ島らしい硫黄感は飛んでしまっていますから、このお風呂はあくまでアトラクションとして楽しんだほうがよさそうです。
狭い浴室ですがカランもありますよ。黒く硫化した水栓を開けると、非加温の生源泉が出てきました。
●石風呂
もう一つの貸切風呂は「石風呂」。こちらには入らないかわりに見学させていただきました。
インパクトの強い穴風呂とは対照的に、こちらは民宿を思わせる実用的なお風呂ですね。でも浴槽はPの字のような形状をしていたり、室内の至る所に石がたくさん埋め込まれていたりと、一見普通のお風呂のようでいて、実はこちらも個性的だったりするんです。なお、お湯に関しては「穴風呂」と同様です。
これから梅雨を挟んで暑い陽気が続きますが、そんなときに梅ヶ島の非加温源泉に入れば、この上ない清涼感が味わえること間違いないでしょうね。梅ヶ島温泉のありのままの姿を楽しめる「金乃湯」は秀逸でした。
混合泉(第2貯湯槽)
単純硫黄温泉 38.2℃ pH9.6 150L/min(合計量、自然湧出・掘削自噴) 溶存物質0.248g/kg 成分総計0.248g/kg
Na+:65.8mg(96.52mval%),
HCO3-:29.1mg(15.43mval%), CO3-:44.0mg(47.27mval%), HS-:12.5mg(12.22mval%), S2O3--:11.4mg(6.43mval%), SO4--:15.2mg(10.29mval%)
H2SiO3:58.1mg,
(平成21年10月22日分析)
金乃湯:完全掛け流し
それ以外の各浴槽:加温・循環あり、加水なし
静岡駅北口あるいは静鉄新静岡駅よりしずてつジャストラインの安倍線(梅ヶ島温泉行)に乗車して終点下車。
静岡県静岡市葵区梅ヶ島5258-4
054-269-2331
ホームページ
日帰り入浴11:00~16:00(受付15:30まで)
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず
私の好み:★★