今回と次回はチェンマイ県北東部のプラーオ郡に湧出する温泉を取り上げてまいります。まず私が向かったのは、プラーオ郡の温泉としては有名な部類に入る「ノーンクロック温泉 (Nong khrok Hot Spring)」です。チェンマイから107号線を北上し、チェンダオを通り過ぎた辺りで右折して1150号線をプラーオ方面へ東進してゆくと、山を越えて坂道を下りきったところに検問所がありますので、その直前の丁字路を左折して1346号線に入ります。この丁字路には上画像のように温泉名が記された標識が立っているので、これが左折箇所の目印になりますね。
長閑な田園風景の中、1346号線を北上します。沿道には標識もあるので安心。でも"HOT SPRING"としか書かれていませんけど、英語表記があるだけでも有り難いと思わなきゃ!
丁字路から3.7km北上した地点にあるこの十字路を左折し、標識の矢印に従って集落の中から低い山へ伸びる路地を進みます。
道なりに進んでゆくと、今回の目的地である「ノーンクロック温泉」に到着です。標識の通りに進んでいったら比較的容易にたどり着けました。ちゃんと駐車場もありますよ。この温泉は公園になっているんですね。では早速園内に入ってみましょう。
園内には朱色の屋根を戴く建物が幾棟も立っているのですが、そのいずれも人の気配がなく、それどころか放置されているような印象を受けます。ちゃんと管理されているのかな?
公園内には個室風呂棟があるので、内部を覗いてみたところ…
掛け湯用個室や丸い浴槽が据えられている個室風呂があったのですが、いずれもお湯は止まっており、周辺は湯垢やドロなどで汚れ、内部はカラカラに乾いていました。しばらく使われていないのでしょうか。無人状態の建物といい、この荒廃した個室風呂といい、まるで世間に見捨てられてしまったかのような状況を目にした私は、今までも同様の廃温泉に遭遇している経験から、もうここでは入浴できないのではないかと不安を抱き始めたのですが・・・
同じ園内にある源泉は人の手を借りずとも絶え間なく滔々と湧出し続けており、直径5メートルはありそうな巨大な源泉の釜は、清らかに澄み切ったお湯をなみなみと湛えていました。円周の縁には金具がたくさん取り付けられていますので、ここに卵なり野菜なりをぶら下げてボイルするのでしょう。
この湯釜をよく見ると、お湯が外側へこぼれ外壁をつたって流れている箇所には、鱗状の析出が形成されていました。これは温泉にカルシウムが多く含まれていることを意味しているのか、あるいは湯釜を形作るコンクリが熱に負けて融け、それがお湯と一緒に流出し且つ再付着することによって鱗状の石灰華のようなものが出来上がっているのか…。
底から清らかなお湯が気泡とともにプクプクと湧き上がっています。その透明度や美しさに思わず呑み込まれそうになってしまったのですが、近づくだけで結構な熱気を感じ、温度計を突っ込んでみたところ、案の定67.0℃という高温が計測されました。直に触れたら火傷しちゃいますね。なお水素イオン濃度はpH7.3でしたから中性です。湯面からは湯気とともにタマゴ臭がふんわりと漂っており、手持ちのPETボトルにお湯を汲んでテイスティングしたところ、弱いタマゴ味と石灰味、そして微かな塩味が感じられました。
何事にも過保護で且つ管理責任問題がうるさい日本でしたら、こんな高温のお湯が湧く湯釜に接近できないよう頑丈な柵が設けられているのでしょうけど、こちらには何らの防護柵も無いので、容易に源泉に近づいて地熱のパワーをすぐ傍で体感できちゃいます。でも実際にこの熱湯を目前にすると、もし湯釜のコンクリ壁が水圧に負けて崩れ、熱い温泉が一気にこちらへ押し寄せてきたらどうしよう、なんていう一抹の不安が臆病者の脳裏をよぎりました。
上記の源泉の他、周囲には他源泉や湯溜まりがいくつもあるのですが、公園の外周に立つ壁には龍の飾りが施されており、その特徴的な意匠ゆえここを訪れれば否応なく目を奪われます。なお上画像の龍の下でもお湯が自噴していたのですが、ここのお湯はどこにも使われることが無いのか、壁の外へ流出し、そのまま捨てられていました。あぁ、もったいない。
園内にはこのように3連段になっている湯溜まりや溜め池があり、それらの間を抜けて源泉から露天風呂ゾーンへと向かいます。この湯溜まりは熱いお湯を冷ます役割を果たしているらしく、その傍を歩いていると、湯溜まりの上を吹く風が温泉から奪った熱によって生暖かく感じられました。
湯釜の源泉から湯溜まりを経たお湯は、上画像のように一本の水路を流下し、その左右両側に設けられている葡萄のような5つの丸い露天風呂へとお湯を分配しています。5つはどれも同じ造りで同じサイズなのですが、奥2つには屋根が掛けられていました。
丸い浴槽の一つを見てみましょう。槽内には水色のタイルが貼られており、槽内のステップ側面からお湯が供給され、湯面にあいた穴より排湯されています。綺麗な真円を描く浴槽は4人ほど同時に全身浴ができそうな程の容量を有し、全身浴も足湯も楽しめるようステップが広めに確保されているなかなか立派な造りなのですが、いかんせんメンテナンスが宜しくなく、槽内には苔が生えたり泥が沈殿していたりと、衛生面を気にする方だったら、入浴を躊躇ってしまいそうな状況でした。
また、上述した水路から流れてくる温泉を分配する箇所で、分配量を上下させることによって温度も調整させているようですが、私の訪問時には各槽とも投入量が絞られており、特に手前側2つはとてもぬるくてお湯自体がかなり淀んでいました。
各槽とも加水できない構造なので、初見の私が下手にお湯の投入量を増やすと、熱くなりすぎて入れなくなっちゃうことが懸念されます。ですので今回は5つのうち、最も熱い43.6℃だった手前から3番目の槽に入ってみました。この槽には屋根が掛かっていないのですが、屋根のない槽は共通して槽内にコケが生えてヌルヌルしており、わずか2~3歩槽内を歩くだけでもかなり滑って難儀しました。直射日光が当たる影響で、コケが繁殖しやすいのかもしれません。なお源泉で感じられたタマゴ臭はここでは感じられなかったものの、スルスルとした滑らかな浴感は得られました。
一方、屋根がある槽はコケの発生が抑えられており、滑りやすいこともありませんでした。最も奥にある屋根付きの槽は入浴しやすい41.6℃でして、入浴中には屋根が南国の強い陽射しを遮ってくれたので、私としてはこの槽が状態が良かったように思います。
5つの円形露天風呂に温泉を分配した水路は、最終的にこのプールに流れ込みます。プールの大きさは4×10といったところで、水路の終端となる部分の温度を計測したら53.4℃という結構高い数値が表示されました。この熱めのお湯がそのままプールへと注がれております。
このプールにも入ってみましたよ。投入口では50℃以上でしたが、表面積が広いために自然冷却され、プールにおいては41.2℃という入りやすい温度まで下がっていました。温度は最適なのですが、やはり槽内にはコケが生えていてとても滑りやすく、お湯自体も濁っていたので、丁度良い湯加減と開放的な環境にありながら、気持ち良い湯浴みとは言えませんでした。
湯量は豊富だし、自然豊かで静かなロケーションも良いのに、せっかく整備した湯小屋や露天風呂をどうして放置してしまうのか、ちょっと解せません。後日「チェンマイ・田舎・新明天庵だより」のYさんにその点伺ったところ、この温泉のお湯は地元の村へ引湯されており、集落内の各戸へ無料で供給されているんだそうです。そのため、わざわざ集落から離れたこの場所まで来なくても温泉の恵みを日々享受できてしまうんですね。以前は管理人が常駐していたんだそうですが現在は無人状態となり、使う人も減少して荒廃する一方なんだとか。何とも残念なことであり、もったいない話でもあります。とはいえ私が訪れた時でも浴槽の傍らには手桶が置かれていましたから、今でもここで掛け湯する人はいるはずであり、完全に見放されたわけではないのでしょう。そして私が帰ろうとしたタイミングを見計らって、地元の高校生カップルが入れ替わりで入園し、キャッキャとはしゃいで足湯しながら青春を謳歌していました。人里から離れている上、利用者が少ないのは地元の人なら周知の事でしょうから、若い二人がイチャつくにはもってこいの場所なんでしょうね。温泉にいつでも入れる環境も羨ましいけど、青春とは無縁の鬱屈した学生時代を経て大人になってしまった私としては、足湯するティーンのカップルの後ろ姿に、いい歳こいて羨望を念を抱いてしまいました…。
GPS:19.418243N, 99.15146E,
公園につき常時利用可
無料
備品類なし
私の好み:★★