今回も山形県小野川温泉で湯めぐりです。温泉街に2つある共同浴場のうち、渋くて地味な佇まいの「滝湯」の傍には山で湧いた清らかな清水が注がれている「滝の清水」という水場がありますが、その傍ら(というかすぐ裏手)に建っている立派なRC造のお宿「旭屋旅館」で「夢ぐり手形」を使って立ち寄り入浴してまいりました。この日は軽く吹雪いており、訪問時には落ち着いてくれましたが、それでも玄関前に立つ伊達政宗の顔出しパネルも凍えているように見えました。
和のラグジュアリー感たっぷりなロビーには、甲冑や鞍、そして艶やかな打掛が飾り置かれていました。落馬した伊達政宗が小野川の湯に浸かって傷を癒やしたという伝説、そして開湯伝説に名を刻む小野小町に因んで、このようなものが展示されているのでしょうね。フロントで手形を提示しながら入浴をお願いしますと、快く受け入れて下さいました。
ロビーからコの字状に曲がりながら廊下を進み、ペロリンが描かれた「おいしい山形」の暖簾を潜ると、その先の突き当たりに男女両浴室の暖簾が下がっています。2つのお風呂は男女入れ替え制らしく、訪問時は運が良いことに右側の広い浴室が男風呂になっていました。なおお宿の館内には男女の浴室の他、予約制の貸切風呂もあるんだそうです(おそらく宿泊客専用でしょうね)。
広い脱衣室は品格高い旅館らしく綺麗で快適。壁の木目とクリーム色の床が落ち着いた雰囲気を醸し出しています。また、棚にはたくさんの籠が用意され、洗面台も4台並んでおり、沢山のお客さんを受け入れられるキャパシティがあります。
厳冬期に訪問したため浴室内には湯気が濃く篭っており、画像も曇って見難くなっていますが、どうかご勘弁を。浴室は結構広く、室内面積の半分以上を3つの浴槽が占めています。そして残されたスペースに設けられた洗い場には混合水栓が4基取り付けられています(確認し忘れましたが、うち3つがシャワー付きだったはずです)。洗い場の片隅では、なぜかケロリン桶が高く積まれており、ケロリン桶のタワーができあがっていました。普段からタワーになっているのか、あるいはこの時偶々だったのかは不明です。
3つある浴槽を手前側から順に見ていきますと、最も手前側にあるのがこの小さな浴槽でして、お湯は全量縁からオーバーフローしており、その縁には象牙色のこびりつきが見られました。なお画像を見てわかるように、サーモンピンク系の総タイル貼りとなっている槽内の底面にはバイブラバス装置らしきものが埋め込まれていますが、この時は稼働していませんでした(私個人としては人為的なブクブクは好きではないので、稼働していない方がありがたいです)。
湯の華が筋状にこびりついて真っ白になっている小さな浴槽の湯口には、誰しもが目を奪われるでしょう。その湯口の上に立てかけられてる木札には「高温度43.5~46℃ 半身浴15秒」と手書きされている通り、供給される湯に対して加水されていない上に浴槽が小さくて冷めにくいので、浴室内にある3つの湯船の中で最も熱い湯船であり、実際に私も入ってその熱さを実感したのですが、でもそれゆえにお湯の鮮度感は素晴らしく、熱くて脛がヒリヒリしちゃうのに、ついつい癖になって何度も入りたくなってしまうほどシャキッとした浴感が楽しめました。
また小さな浴槽の湯口真下には大量の湯の華が沈殿しており、一つ一つがデカいのです。試しにケロリン桶でお湯を受け止めてみたら、こんなにデッカイものが採れちゃいました。鶏のささ身でも裂けるチーズでもとろろ昆布でもありません。れっきとした小野川温泉の湯の華です。
小さな浴槽の右隣には4人分に区切られている寝湯が設けられていました。もちろんここのお湯も温泉です。
窓に面している大きな主浴槽は洗い場側が緩いS字を描いており、上から見るとグランドピアノの蓋のような形状をしていまして、暖色系の小さな浴槽とは対照的に、こちらは寒色系である薄いブルーのタイルが用いられています。
こちらの湯口にも小浴槽ほどではありませんが、白い湯の華がしっかり付着しており、直下の底にもたくさん沈殿していました(写りが悪くて見えにくいのが残念ですが…)。もちろん沈殿のみならず湯中にも湯の華が舞っています。湯口から吐出されるお湯は小浴槽同様に熱いのですが、湯船の表面積が広いためか、適度に熱が奪われて丁度良い湯加減となっていました。
内湯に続いて露天風呂へ。ドアには「ぬる湯」と張り紙されていたのですが、どれくらいぬるいのかしら…。
近隣の建物が接近しているため、露天風呂の周囲には目隠しの大和塀が立ちはだかっており、残念ながら眺望等は期待できませんが、塀の上を見上げれば簾越しに裏手の山が目に入り、この日はみちのくならではの雪見風呂が楽しめました。また岩風呂になっているお風呂の周りには、古民家の石の置物が配置されたり壁になまこ壁のような装飾が施されていたりと、和の雰囲気がたっぷりと醸し出されていますので、塀に囲われているとはいえ、これらの装り付けと塀の上から覗く景色によって、四季折々の風情が楽しめそうです。
内湯同様に露天の湯口にも白い湯の華がこびりついているのですが、内湯以上に湯の花の白さが際立っており、しか縦長の細かい繊維状になっているものが無数に付着しているので、あたかも絹糸の束のような美しさを放っていました。そして湯口から注がれたお湯は、槽内中央の底面から立ち上がっているパイプで排水されていました。
さて、入口に張り紙されていた「ぬる湯」の件ですが、私が入浴したときには本当にぬるく、35℃あるかないかといった程度でして、厳冬期の入浴にはちょっと厳しいコンディションでした。見方を変えれば、これって加温していない証であり、お湯に実直でありたいお宿の誠意の顕れでもあるんですよね。実際に湯口ではアツアツのお湯が注がれていたのですが、みちのくの冬の厳しい寒さは温泉の熱をたやすく奪ってしまうのでしょう。非加温にこだわれば、ぬるくなってしまうのは致し方ないことでして、温泉管理の難しさが察せられるのですが、余計なお世話ながら、理解の及ばないお客さんが「ぬるすぎると」苦情を寄せないか(ネットで書き込まないか)心配になってしまいます。
露天の片隅には「この水は温泉の熱交換です」と書かれた札がぶらさがっていました。ぬるくなる冬とは逆に、夏は冷めにくいのかもしれず、お湯の濃度を希釈させないで湯温を下げるべく、熱交換で冷ました温泉を用いて湯加減調整するのでしょうね。小野川温泉のお宿は、どこでもお湯のクオリティ維持に苦心なさっていますね。
こちらで用いられているのは4号源泉の単独かと思われ、5号泉を混合させている他旅館のお湯より塩味や出汁味、特に塩味がしっかりと感じられましたが、その一方で湯の花がビジュアル的に強烈な存在感を主張しているにもかかわらず、味や匂いの面でイオウ感はなぜか角が取れて丸くなっており、タマゴ味は大人しく、タマゴ臭もふんわりと控えめに香る程度でした。とはいえ、トロミのあるお湯からは濃厚さが伝わり、湯使いの良さのおかげで、つい後を引いてしまうほど気持ち良い浴感を楽しめました。
協組4号
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 80.3℃ pH7.0 蒸発残留物6470mg/kg 溶存物質5515mg/kg
Na+:1518mg, Ca++:437.7mg,
Cl-:3124mg, Br-:7.8mg, I-:0.8mg, HS-:1.6mg, S2O3--:0.8mg, SO4--:77.3mg, HCO3-:86.0mg,
H2SiO3:77.4㎎, HBO2:35.1mg, CO2:15.4mg, H2S:1.8mg,
(平成17年2月4日分析)
気温が高い時期のみ加水あり、加温循環消毒なし
JR米沢駅から山交バスの小野川温泉行で小野川温泉下車、徒歩1分
山形県米沢市小野川町2437-1
0238-32-2111
ホームページ
立寄入浴9:00~19:00?(念のため都度施設へご確認を)
500円(「夢ぐり手形」使用可能)
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず(貴重品は帳場預かり?)
私の好み:★★+0.5