チェンマイから西へ東へと寄り道しつつチェンライ方向へ北上してきた今回のタイ北部湯めぐり旅ですが、せっかくなら最北の温泉にも立ち寄っておきたいと考え、私が調べた中ではタイ最北に位置するであろうメーチャン郡パートゥン村のパートゥン(ファイヒンフォン)温泉(Par Tung Hot Spring (Huay Hin Fon Hot Spring))へ行ってみることにしました。いや、もっと北にも温泉があるのかもしれませんが、当地の訪問は初めてで殆ど何も知らないまま出かけておりますので、調査が甘いとしてもどうかお許しを。
その温泉メーチャンからファーン方向へ抜ける1078号線沿いにあり、一帯は広い公園となっています。歩道入口には左右両側で合掌しているお人形さんが出迎えてくれましたが、その足下のステップは無残にも崩れっぱなしになっており、早くもイヤな予感を覚えます。そんな入口から園内を奥へ歩いてゆくと、画像右(下)のような、みんなで和気藹々楽しんでいる場面をイメージしていると思しき大きなモニュメントが現れました。
園内には大きな池(というか沼)が広がっており、池畔にはガゼボも設けられていますので、のんびり休憩するには良い環境です。
歩道を進んでゆくと、やがて上画像のような小さい自噴源泉に出くわしました。どんなお湯なのか直に触れようと思ったのですが、もしかしたら…という経験則に基づく警戒心が働いて温度を計測したら、案の定というべきか「山椒は小粒でもぴりりと辛い」と表現すべきか、こんな小さな源泉でもしっかり熱く、私の温度計には85.4℃と表示されました。迂闊に触れていたら火傷するところだった…。危ない危ない。
公園の中心部には構える丸く大きな構造物は、噴水か湯釜の跡なのでしょう。90℃と記されたプレートが残っていますので、現役時代は沸騰状態の熱湯を噴き上げていた(あるいは湛えていた)のでしょうけど、いまでは防護フェンスが外されており、完全に枯れちゃっていました。
その周りには屋根付きの立派な足湯も設けられていたのですが、全ての槽が空っぽであり、しかも単に空なのではなく、相当長い年月にわたって使われていないような状態でした。
足湯の近くにはコインで稼働すると思しき装置が設置されていました。これって一体何なのかな? 作動させてみたい衝動に駆られたのですが、私は他の場所で、興味本位でコインを投入したものの何も反応せずにお金を無駄にした経験が何度もあり、同じような悪い展開が予想されましたので、ここでは衝動を抑え、写真を撮るだけにしておきました。
枯れている噴水(もしくは湯釜)跡の傍には、このような立派な建物が建てられていたので、もしかしたらここでお風呂に入れるかも、と淡い期待を抱いて中に入ったのですが、その期待は見事に裏切られ、内部はすっかり廃墟と化していました。
館内には個室風呂もあったのですが、こちらもご覧の有様。完全に荒廃しています。お湯を溜めたらさぞかし良いお風呂になりそうなんだけどなぁ…。もったいない。
もう少し奥へ進むと、このようなコテージのような独立した建物が幾棟か並んでいるのですが…
シャワーや大きなプールを兼ね備えているこの建物も使われている形跡がなく、すっかり放置されて干からびていました。
スタート地点からグルっと一周すると、このような営業していそうな風呂棟を発見! エントランスの屋根に提げられている幕にはミネラルバスと記されているではありませんか。ようやく入浴の機会にありつけるのか!?
窓口脇のボードに記されている80という数字は大人の入浴料金に違いないのですが、辺りに人の気配が全く感じられず、窓口は固く閉ざされているし、個室風呂と思しき扉も南京錠でガッチリ施錠されています。まさか…
もしやと思い、窓口前の柱に掛かっていたこの札をスマホの翻訳機能で訳したところ"CLOSE"と表示されました。万事休す、已んぬる哉。パートゥン温泉で入浴する途は絶たれてしまいました。単に定休日だとしたら己の運の悪さを呪えば良いのですが、受付や個室の様子を窺うに、全体的にかなり埃っぽく、長い期間にわたり人の動きが及んでいないような気配を感じましたので、もしかしたらこの施設も営業をやめてしまったのかもしれません(現在も営業中でしたらゴメンナサイ)。
ではパートゥン温泉は過去帖入りしてしまったのかと言えば、今でもしっかり高温の温泉が湧出しており、公園の外れを流れる小川を渡った対岸にある池の畔では、上画像のように天高く温泉が噴き上がっていました。その様は上述の小さな源泉なんて比べ物にならないほど立派なものです。
お湯は91.6℃という激熱でして、pH8.9のアルカリ性です。熱さも噴出する勢いも素晴らしいのですが、残念ながらその量が少ないらしく、傍の売店で温泉卵をつくる程度しか活用方法が無いようでした。あぁ、もったいない。この温泉はもったいないことだらけですね。
この温泉について調べてみると、元々は地熱発電を目的として開発されたようですが、期待するような結果が得られなかったので、発電用としての開発は断念され、単なる温泉としての道を歩むようになります。しかし2005年頃に枯れてしまったので、チェンマイ大学が再ボーリングしたところ、再び温泉の噴出が得られたんだとか。上写真の噴泉がおそらくその掘り直した源泉かと思われます。その当時は簡易なパーテーションがあるだけの土管風呂に20バーツで入浴できたようですが、2007年頃には再開発が行われ、噴水装置や個室風呂棟などが整備されました。これによって当地は温泉地として脚光を浴びるものと期待されたのでしょうけど、安普請だったのか翌年には早くもメンテナンス不良等により建物に不具合が現れはじめ、利用客自体も少なかったのか、やがて放置されて廃墟となってしまったようです。タイにはこのように開発されたものの、早々に放置されて荒廃してゆく温泉が多いんだとか。しかも公的機関による開発でその傾向があることを鑑みますと、こうした温泉開発は、リゾートもしくは健康増進施設としての需要を満たしたり、地域振興を図ったり、あるいはマーケットを開拓してゆくことが目的ではなく、開発行為そのものが最終目的であり、温泉はその行為のための大義名分にすぎず、工事が終わればその後の運営や維持はどうでもよい、という思惑が見て取れます。温泉の湯の香ではなく、政治的な臭いが漂っているような気がしてなりません。これは一介の旅人である私の邪推に過ぎませんので、けだし多分に誤った認識もあるかと存じますし、この温泉のように予定していたよりも早く温泉が涸れてしまったのではどうしようもないのですけど、それにしても、ここにせよノーンクロック温泉にせよタケノコ温泉にせよ、お金を浪費する無駄な温泉開発が目立っており、荒廃した光景を目にする度、温泉を愛するものとしては慙愧の念に絶えませんでした。
GPS:20.118031N, 99.798522E,