温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

タイ チェンライ県メースワイ郡 ランナー温泉

2014年05月14日 | タイ
●ランナー温泉

 
チェンライの南西郊外には日本人でも十分に満足できる温泉があるらしいので、前回取り上げたファーンの地熱地帯に興奮した私は、その時の興奮を維持させながらレンタカーのハンドルを握ってその日の内に現地へ向かうことにしました。まずファーンからメースワイまでは山間部を貫くクネクネ道の109号線を、そしてメースワイからはチェンライ市街へ向かう118号線を走行して北東方向へと進みます。するとメースワイから9~10kmほどで、路肩に今回の目的地である「ランナー温泉」の案内幕が目に入ってくるようになりました。タイ語やアルファベットのみならず、ちゃんと日本語で表記されているのが嬉しいじゃありませんか。しかもアルファベットのスペルも"LANNA ONSEN"と日本語読みなんですよ。


 
118号から案内幕に従って路地に入り、ちいさな集落を抜けて山間の何もないところへ出、更に奥へ進んでゆくと、最後の数百メートルは未舗装となります。


 
未舗装道路の区間に入れば人家もほとんど無くなりますので、迷うこと無く現地に辿り着けるでしょう。ゲート前の幕にもちゃんと日本語表記と温泉マークが表示されていました。なお日本人は温泉マークを見れば即座に温泉を認識しますが(ご年配の方ですと温泉以外に「サカサクラゲ」つまり赤線や連れ込み宿なども連想なさるでしょうね)、これって決して国際的なサインじゃなく、このサインが通用するのは日本とかつて日本の統治下にあった台湾や韓国ぐらいですから、タイの山間部で温泉マークに出会えるということは、日本語を表記するのことと同じ意味合いがあるように私には思えてならず、こんな僻地で日本文化と邂逅できたことにちょっぴり感動してしまいました。


 
このランナー温泉はバンコクに住むお坊さんがマネージメントしているらしいのですが、このお坊さんは日本の温泉が大好きなんだそうでして、仏教関連のイベントで日本へ出張するときには必ず日本の温泉を巡るんだそうです。そしてその温泉好きが昂じて、日本の温泉施設をイメージして当地を開発したのが、この「ランナー温泉」というわけです。ゲート近くに建つバンガローには、日本のおみやげでしょうか、「初心忘れるべからず」と染め抜かれた小さな旗がぶら下がっていました。


 
中央のガーデンを取り囲むように、宿泊可能なバンガローや個室風呂の小屋が並んでいます。お庭はよく手入れされており、山の緑も借景となって、胸いっぱいに空気を吸いたくなるような実に清々しい環境です。ガーデンの中央部にはタイ人が大好きな足湯も設けられていました。



駐車場から見て右側の建物で料金を支払って受付を済ませると、料金と引き換えに湯浴み着1セットとバスタオル1枚は入ったバスケットを貸与してくれました。なお日本語が表記されていた道中の案内とは裏腹に、受付のスタッフさんは残念ながら日本語が全く通じませんでしたし、日本語表記の料金表も見当たりませんでしたので、仕方なく身振り手振りで受付を済ませました。


 
ランナー温泉のお風呂は全て個室風呂となっており、サイズの異なる個室が計9室あって、受付時に利用する個室が指定されます。今回私は5号室をあてがわれました。


 
ドアを開けて室内に入ると、入ってすぐのところに4畳半ほどの何も無いスペースが広がっていました。何もないとはいえ、壁にはフックや鏡が取り付けられていましたので、ここは着替えスペースとして設計されたのかもしれません。その何もない空間を抜けると、浴槽がひとつ据えられている浴室となります。浴室は半露天状態となっていて、山の緑が望める壁の上からそよ風が吹き込み、壁の下にもたくさんの鉢植えが並べられています。また室内には腰掛けもあれば、ボディーソープが備え付けられたシャワーもあったりと備品類が充実している上、上述のように受付ではタオルも貸してくれますから、手ぶらで来ても何ら問題なく入浴が楽しめます。



浴槽はオバケのQ太郎というか鍵穴というか、端的に言えば前方後円的な形状をしており、3~4人は同時に入れそうなサイズを有しています。一般的なお風呂よりは深い造りになっていて、底面にお尻をつけると潜ってしまいそうになるのですが、槽内には幅広のステップが設けられていますので、ここに座って入浴すると胸までお湯に浸かれて良い感じになりました。


 
 
こちらのお風呂では予め浴槽にお湯が張られていたので、わざわざお湯を溜める手間は省けました。しかしながら、はじめのうちはタイ人仕様のぬるい湯加減でしたので、自分好みの温度にする方法はないものかと、湯口に被せられているボックスの蓋を開けてみたら、その中にはバルブがありましたので、このバルブをオープンにしたところ、吐出口からは熱いお湯がドバドバ出てくるではありませんか。その状態でデータを測ったところ61.5℃およびpH8.8でした。お湯の見た目は若干白く霞が掛かっているように見えるもののほぼ無色透明と言って差し支えない状態でして、薄いながらも明瞭な硫化水素感が感じられました。細かく表現しますと、タマゴ感と砂消しゴム感を足して2で割ったような知覚が得られたのですが、どちらかといえばタマゴ感の方が勝っており、特に湯口ではタマゴ臭とタマゴ味をしっかりと確認できました。



個室で誰にも見られませんから、心置きなく全裸入浴できるのが嬉しいところです。しかも普通の個室と違って露天状態ですから、それなりの開放感や外気の爽やかさも得られ、入浴環境はとっても良好です。またpH8.8という数値が示すようにアルカリ性のお湯であり、肌を擦るとスルスルっと滑るなめらかな浴感が心地よいので、いつまでも長湯していたくなります。なお槽内には循環装置など無く、バルブから落とされたお湯は湯船を満たした後、浴槽縁の切り欠けから排水口へと溢れ出ていきます。すなわち完全放流式です。お湯は良質でお風呂の造りもしっかりしており、しかも裸で入れますから、温泉に一家言ある日本人でもきっと満足できるでしょうね。私もとても気に入りました。


 
湯上がりに他の個室も覗いてみました。全9室のうち、1・2号室はコンパクトなサイズ、3~6室は私が利用した5号室とほぼ同様のレイアウト、7~9号室は家族みんなで一緒に入れるような広めのサイズとなっていました。上画像は広めの浴室である9号室の外観と内部です。



●ポーン・プ・フォーン温泉(たけのこ温泉)

ランナー温泉は自家源泉があるのではなく、数十メートル離れた源泉からお湯を引いています。個室風呂の小屋のすぐ裏手にありますので、風呂あがりに立ち寄ってみました。この源泉はポーン・プ・フォーン温泉(Pong Pu Fuang Hot Spring)と称し、正面には温泉名が記されたデカいモニュメントが立っており、その上には面白いことにタケノコとタマゴのオブジェが載せられています。

以前この地では熱い温泉の自噴泉が2つあり、いずれも有効活用されずに、ただ垂れ流されていたんだそうです。このブログでは何度もご登場いただいているYさんなど、現地に滞在する温泉愛好家の日本人のみなさんは、そんな勿体無い状況を嘆きつつ、当時この温泉で地元民がタケノコをお湯に浸してアク抜きしている光景を目にして「たけのこ温泉」というニックネームを付けたんだそうです。
その後、地元の役場が温泉開発に乗り出して、上画像の大きなモニュメントやトイレ・売店などを建設したのですが、その際、モニュメントの上にタケノコが載っかっているのを見て、やはりこの温泉は地元にとってタケノコを茹でたり温泉玉子をつくる程度のものに過ぎなかったんだと実感したんだとか。



源泉の周りにはこのように小屋が幾棟も立ち並んでいるのですが、すっかり放置されて完全に廃墟となり、周辺も荒れ果てていました。ここには湯量豊富な源泉があるのに、肝心要の入浴施設が設けられなかったのです。それでは人が来ませんよね。ランナー温泉が出来たのは2010年頃のようですから、それまでの間は、廃墟に囲まれた中で自噴した温泉が垂れ流され続けてきたわけです。お湯も勿体無いですし、なにしろ多額の公金を費やしておきながら、すぐに廃墟と化してしまった役所の開発行為も実に勿体無い。


 
「国破れて山河あり」ではありませんが、役所の開発が無駄に終わった後でも温泉は絶えることなく自噴しており、このようにコンクリでしっかりと護岸された源泉は地元民の生活用として、いまでも使われております。なぜかこの源泉の傍には柄の長い熊手が置かれていたのですが、その理由は後ほど明らかになります。


 
使われているといっても浴用ではなく、開発が行われる前と同様に、食材をボイルする程度です。底からは無色透明の澄みきったお湯が泡と一緒にどんどん沸きあがっているのですが、私が温度を計測したところ67.8℃でしたから、入浴なんて以ての外、食材のボイル以外には使えないのであります。しかもお湯はどんどん川へと捨てられています。


 
私が源泉に温度計を突っ込んでいると、バイクに乗ったおじさんがやってきて、カゴに入ったたくさんのタマゴを荷台から下ろし、傍らに置いてあった熊手の先にカゴを引っ掛けて、そのまま源泉の中に沈めました。温泉たまごを大量生産しているんですね。温泉とは関係の無さそうな熊手が置かれていたのは、このためだったのでした。


 
おじさんが卵を茹でていた源泉の隣には、このように石積みの仏塔のようなタワーが立てられており、そのてっぺんからは温泉が噴き上がっていました。おそらくこの塔は役所による無駄開発の際に立てられたものと思われ、こちらもほとんど放置されたままとなっており、塔の周りに熱いお湯が溢れ出てドロドロになっていたり、非常に滑りやすかったりと、近寄りがたい状況だったのですが、足元に十分注意して慎重に塔に接近して温度を測ったところ、63.8℃のお湯が噴出していることがわかりました。塔には配管の他、トタン波板が掛けられていましたので、これらによってお湯が集められ、ランナー温泉へと導かれているのでしょう。バンコクのお坊さんがランナー温泉を開発してくれたおかげで、塔のお湯は有効活用されるようになったんですね。


(以下、ランナー温泉に関する情報)

GPS:19.715874N, 99.578736E,

営業時間不明
100バーツ
ボディーソープあり、バスタオル貸与あり

私の好み:★★★
コメント
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