温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

滑川温泉 福島屋

2011年06月15日 | 山形県

米沢十湯のひとつで姥湯温泉へ向かう一本道の途中にある一軒宿。たまたま私だけの経験かと思いますが、どういうわけか旅する中で出会った温泉ファンと語り合っていると、必ずといってよいほど頻出するのがこの福島屋さんでして、中には姥湯より滑川の方が良いと仰る方もいらっしゃるほどです。良いと評価するに当たってはお湯のみならず、接客や食事、部屋、雰囲気などいろんなファクターを総合しているかと推察されますが、私は日帰り入浴でしか訪問したことが無いので、お風呂だけの文章とさせていただきます。

 
仙境の湯治宿らしいしっとりとした佇まい。玄関には日帰り入浴でどのお風呂に入れるかを示したボードが立てられています。この時は露天も内湯もOKでした。時間帯によっては女性専用だったり清掃だったりと、お風呂によって時間割が細かく設定されているので、ご利用の際には確認を。

 
まずは露天から行ってみます。一旦館内に入り、露天専用の出入り口でスリッパに履き替えて屋外へ。露天風呂は2つあり、しばらく歩いた一番奥に「岩露天風呂」というストレートなネーミングの露天風呂があります。噂では混雑必至と聞いていましたが、この日は雨のためか先客ゼロ。雨男である自分の天性に感謝。

 
歩道から沢の方へ下りてゆくと、名前の通り岩で囲まれた湯船が青白いお湯を湛えていました。お風呂の傍らに質素な小屋があるので、そこでお着替え。こういう小屋に興奮するか拒否感を抱くかが、秘湯を好きになれるか否かの分かれ目なんでしょう。時間帯によって混浴と女性専用に分かれますので、この小屋で着替えたり開放的な露天で入浴することに抵抗のある女性は、是非女性専用タイムを狙ってください。


渓流のせせらぎを耳にしながら神秘的な青白色のお湯に浸かる幸せ。日本人に生まれて良かったと思える瞬間であります。お風呂に人工的な屋根はありませんが、木の枝が頭上に覆いかぶさっているので、多少の雨ならしのげるはず。

 
湯船では青白く見えるお湯ですが、湯口でじっくり観察すると、元々は無色透明であり、空気に触れたり温度が下がったりすることにより濁りが発生しているわけで、ここに限らず白濁系の硫黄泉ではよく見られる現象ですが、特に湯口付近では大小さまざまな大きさの湯ノ花が浮遊していました。弱いタマゴ的な硫化水素臭と、タマゴ味に甘み、そして遅れて苦みが感じられました。弱めのツルスベ浴感で若干ひっかかり感も混在。自然豊かな環境ゆえ、湯面に昇天なさった虫や蛙が浮いているのは御愛嬌。

中の湯源泉
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
51.2℃ pH7.1 溶存物質1249mg/kg


 
次はもうひとつの露天風呂「桧露天風呂」。基本的に混浴ですが、「岩露天風呂」に比べて脱衣小屋が小奇麗でちゃんとしており、宿泊棟側からの視線も遮られているので、女性にはこちらの方がおすすめかな。三角形の浴槽には「岩露天風呂」と同じく中の湯源泉の青白いお湯が注がれていますが、浴槽が小さめな分、こちらの方が若干熱めでした。


つづいて内湯にもGO。
内湯は混浴の大浴場と女性用浴場の2室。私は男ですから大浴場へ。

 

天井が高くガラス窓も広くとられているので、開放感があって快適な室内。御影石造りの浴槽が落ち着いた雰囲気を醸し出し、また腰かけた時の肌触りも気持ち良い。湯口からは滔々とお湯が注がれています。無色透明なお湯の中を白く小さな湯ノ花が舞っており、タマゴ臭が優しく香っています。苦みとタマゴ味が同時に感じられ、苦味は露天(中の湯源泉)より若干強めだったような気がします。また浴感も露天よりもツルスベが増しているようでした。
お客さんはどうしても露天に集中してしまうためか、この内湯は比較的空いているらしく、訪問時もひたすら独占。お湯の質感といい、静かで落ち着いた浴室の空気感といい、私は露天よりもこの内湯の方がはるかに気に入りました。いつまでも浸かっていたい夢見心地のお湯でした。


大浴場
上の湯源泉・下の湯源泉混合
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 46.4℃(上の湯53.6℃、下の湯40.4℃) pH7.2 溶存物質1086mg/kg

女湯
上の湯源泉
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
53.6℃ pH7.1 溶存物質1232mg/kg



 
ところでこちらのお宿では、館内で使う電気の全てを自家水力発電によって賄っており、その出力は18kW。東北電力からの供給は受けていないんだそうです。自然エネルギーが俄然注目されている今のご時世、まさに理想的なスタイルですね。


山形県米沢市大字大沢15  地図
案内所0238-34-2250
現地衛星電話090-3022-1189
ホームページ

日帰り入浴可能時間 9:00~16:00
営業期間 4月28日~11月5日(雪の状況により変更有。冬期休業)
お風呂の時間割はこちらを参照あれ(お風呂・曜日・時間によって細かく設定されています)
500円
内湯にはシャンプー類あり、ドライヤー貸出

私の好み:★★★
コメント (2)
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姥湯温泉 枡形屋

2011年06月14日 | 山形県
山形県置賜地方南部、吾妻連邦の山間に点在する米沢十湯って、いかにも秘湯然とした一軒宿が揃っていて、現実逃避したい時には最適の場所ですね。私も温泉好きを吹聴して歩いているので屡々「どこか秘湯を教えてくれ」と訊ねられるのですが、その時にはこの米沢十湯をおすすめすることが多く、旅先で出会った温泉ファンからも絶賛の声をよく耳にします。

姥湯温泉は米沢十湯の中でも吾妻連峰の最深部に位置しており、秘境感がとても強い場所。かつてスイッチバックを要したほど険しく急なカーブが連続した羊腸の小径は、今では改良されてハンドルをいっぱいに切れば何とか曲がれるようになりましたが、それでも険しいことには変わらず、運転初心者だったらオシッコちびってしまうこと必至でしょう。ご夫婦やカップル、あるいは家族で訪れることが多いかと思いますが、その時ハンドルを握っている男性諸氏の多くは、顔は涼しく「こんな山道、何でもないよ」と言わんばかりの表情ですが、内心は「対向車が来たらどうしよう」「脱輪したらお手上げだ」なんて臆病な弱音を吐き続け、脇の下は冷や汗をビッショリかいているに違いありません。男は虚勢を張って自らを鼓舞する生き物ゆえ、もしそんな内心が垣間見えても、助手席の女性は決して見下したり誂ったりしないでくださいね。ガラスのハートはたちまち砕け散って前後不覚になってしまいますから。

 
閑話休題、車で進めるところまで行くと、車道の潰えるところが駐車場。ここで車を降りて、宿まで徒歩で向かいます。所要15分くらいでしょうか。前方の綺麗なV字谷の底に、一軒宿の「枡形屋旅館」が望めますね。

 
近づいてみると、秘境の名とは縁遠い、かなり立派な建物であることがわかります。この建物は2004~5年にかけて大改築されました。いわゆる山小屋っぽい建物では通好みのお客さんしか来ませんから、集客のためにも全面刷新して居住性を高めるのはごく自然なことですね。周囲の環境になじませるべく、外観を焦茶色に統一している点は立派です。

 
宿の玄関の右手に日帰り入浴専用の窓口がありますので、ここで料金を支払います。専用窓口がわざわざ設けられているということは、それだけ利用客が多いんです。こんな山奥なのに、休日ともなれば露天風呂が大混雑します。


 
日帰り入浴で利用出来るのは露天風呂のみ。大露天風呂「山姥の湯」と女性専用風呂「瑠璃の湯」に分かれており、日中(日帰り入浴可能時間)は「山姥の湯」が混浴に設定されています。私は男性ですので「山姥の湯」へ。薦で囲っただけの質素な脱衣所があるのみです。

 
岩肌を剥き出しにして荒々しく屹立した断崖絶壁が両側から迫ってくる谷のどん詰まりに湧く露天風呂。奥の方では滝が轟音を響かせてて落ちています。このロケーションで感動しない人はいないでしょう。日本の自然美も捨てたもんじゃありません。
青白く濁るお湯は元々無色透明なものですが、白く細かな湯の華が無数に舞ってコロイドになり、はっきりと濁って見えています。湯口付近のお湯の流路は真っ黄色に染まっており、それ以外の浴槽の岩は硫黄で真っ白。湯口付近でタマゴ臭を濃縮したような硫化水素臭が強く漂い、口にすると口腔内が収斂する酸味が感じられますが、pH2.5という数値でもわかるように強烈な酸性ではないため、同じ硫酸系でも草津温泉みたいに攻撃的ではなく、口腔の奥の方から順々にキュっと窄まってゆくような、酸性泉にしては比較的ソフトな刺激かと思います。


露天風呂で使っている源泉は谷の奥のほうから引いているようですが、露天風呂の傍らを流れる沢を観察すると、特に対岸の岩肌のそこここからもお湯が湧出して黄色くなっていました。昔はこうしたお湯で野湯みたいなこともできたようです。

混浴が苦手な女性は女性専用風呂を利用なさっていますが、やっぱりここに来たからには「山姥の湯」に入らなきゃ! 混浴ですが意外と女性の方も多いので、思い切って入浴しちゃいましょう。

絶景露天風呂に、神秘的な青白色の硫黄泉…。新緑や紅葉など季節によって様変わりする景色はさず素晴らしいんでしょうね。宿泊して満点の星空を眺めてみたい…。私のような日帰り利用しかしたことがない上に文才のない人間が、下手に書き綴ったところで、このお風呂の魅力を伝えることは到底不可能ですので、もうこれ以上は書きません。


姥湯源泉
単純酸性硫黄温泉 51.1℃ pH2.5 自然湧出(量不明) 溶存物質817.2mg/kg 成分総計1058mg/kg

山形県米沢市大沢姥湯1  地図
現地衛星電話090-7797-5934
米沢市内の案内所0238-35-2633
ホームページ

2011年度営業期間 4月28日~11月7日
立ち寄り入浴可能時間9:30~15:30
500円
備品類なし
携帯はドコモなら使用可能

私の好み:★★★

コメント (5)
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桧原温泉 桧原塾

2011年06月13日 | 福島県
※1年以上前(2010年)に訪問した際のレポートです。現状とは異なるかもしれません。ご了承ください。

温泉巡りをしているうちに、ある一つの真理にたどり着く。すなわち、質素な施設ほどお湯は良い、ということです。裏磐梯の桧原湖付近にビニールハウスでできた温泉があると知り、行ってみることにしました。

まず場所ですが、桧原湖畔の県道64号線を桧原郵便局がある丁字路で西に折れ、集落に入ってしばらく進み、その集落が途絶える辺りの右側です。ネット上の情報によれば皆さん辿りつくまで結構迷っていらっしゃるようですが、どういうわけか私は一発で見つけることができました。


有志の方によって建てられたこの小屋。本当に農業用ビニールハウスを利用して造られているんですね。

 
内部に入ると、意外にもそこにはお座敷スペースが設けられていました。ちゃぶ台や食器棚が置かれていて、今すぐにでもここで生活ができちゃいそうな雰囲気。単にお風呂だけでなく、ちゃんと休憩する区画を用意しているところにこだわりが伝わってきます。浴室入口脇に置かれた料金入れに寸志を投入。撮影しませんでしたが、画像に写っている扉の向こう側の脱衣所内には、なんと飲料の自販機が設置されていました。ビニールハウスの中は、遊び心とサービス精神が凝縮されているようです。


浴室はひとつだけの混浴。石を並べてコンクリートで固めた浴槽には無色澄明無味無臭で癖のない優しいお湯が注がれています。ご覧のような建物ですから循環装置なんてあるはずもなく、間違いなく加温加水循環消毒なし、純粋な掛け流しだと思われます。
スベスベした気持ち良い浴感で、お湯の清らかさも相俟って、非常に軽く優しい肌触りです。溶存物質0.1722g/kg(成分総計0.1887g/kg)という数値は他ではなかなかお目にかかれない薄さであり、それだけお湯の質感が柔らかく優しいのも納得できます。


浴室には外へ出る引き戸があり、開けてみるとポリ浴槽の露天風呂が据えられていました。入ってみたかったのはやまやまですが、残念ながらこの時浴槽内は苔で覆われていたので、泣く泣く入浴を断念、内湯だけにしておきました。

好き嫌いがはっきり分かれそうですが、アウドドア派の方なら思わず触手が伸びてしまいそうなこの湯小屋。作り手の気持ちがひしひしと伝わってくる手作り感溢れる雰囲気がいい感じで、鮮度が良くて優しいお湯も素晴らしい。このような湯屋を開放してくださっている有志の方に感謝です。

なお、私は地元の方向けの施設はあまり公表すべきじゃないかと考えていますが、こちらの施設はNHKの「ふだん着の温泉」で取り上げられており、その有志の方も自ら「大衆浴場」と名乗っていらっしゃるので、ここで取り上げても差し支え無いだろうと判断させていただきました。
余談ですが、上記リンク先(NHK)で書かれている「語り:米澤 牛」って、何だかユニークな名前ですね。何をナレーションしてもモーモーとしか聞こえないのかもしれません。

なお、この桧原塾の現状(2011年6月現在)ですが、有志の方が書かれているブログによると、地震により浴槽にクラックが走ってしまい、お湯が混濁しちゃったそうです。浴槽については補修が終わったようですが、脱衣所がシロアリの被害に遭って今後修理するとのこと。つきましては、今後利用を検討されている方は現地にて状況をご確認ください(桧原集落には他にも「湖望」という評判の良い入浴施設もありますから、もし桧原塾がNGでしたらそちらをご利用ください)


アルカリ性単純温泉 47.0℃ pH8.5 195L/min(動力揚湯) 溶存物質0.1722g/kg 成分総計0.1887g/kg
(分析表発行日:平成21年4月22日)

福島県耶麻郡北塩原村大字桧原  地図

利用可能時間:不明(常識の範囲内で)
寸志

私の好み:★★★
コメント (3)
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裏磐梯川上温泉 いちろう荘

2011年06月13日 | 福島県

 
猪苗代の市街地から国道459号線を北上すると、磐梯山の東麓、五色沼の手前辺りの沿道に、裏磐梯川上温泉の宿がポツンポツンと点在しており、どこも日帰り入浴営業をしている旨の看板を出してお客さんを勧誘していますが、あとちょっとでリゾートホテルが待っている五色沼エリアに到達できてしまうためか、この裏磐梯川上温泉に立ち寄るお客さんはそう多くはないらしく、宿自体もバラバラに立地しているために、なかなかの寂しさと鄙び具合を醸し出しています。

私は川上温泉で過去に2軒ほどの宿で立ち寄り入浴をしていますが、うち1軒はあまり紹介したくないお風呂でしたので、残る1軒である「いちろう荘」についてお話させていただきます。その紹介したくない宿のお風呂は思いっきり循環している上、浴室のタイルに苔が生えていてかなり不愉快だったのですが、「いちろう荘」の前を通りかかると「源泉かけ流し」「温泉いつでも入れます」という看板が立っていたので、川上温泉で掛け流しに入れるなら是非立ち寄っておきたいと、その看板に誘われて入浴をお願いしました。その建物は、看板が無ければ明らかに民家。玄関に「ゆ」と染められた暖簾が掛かっているし、上述の看板も立っているから多分大丈夫だろうと思って声をかけたら、宿のご夫婦はちょうど夕食時で、テレビで野球中継を観戦している最中。

 
恐縮しながら入浴を乞うと、奥さんが箸を置いてわざわざお風呂まで案内してくださいました。
男女別の浴室は内湯のみの至ってシンプルな構造。タイル貼りの浴槽は2~3人サイズで、湯口付近は岩のオブジェになっており、昭和の民宿によくあるような造り。湯口からは加温されたお湯がチョロチョロと浴槽へ注がれています。加温されていますが、浴槽に吸込口は無く、看板に書いてあった通り、湯使いはしっかり放流式のようです。

お湯は無色澄明。湯口に置かれたコップで飲んでみると、微かな塩味と石膏的な甘み、そして芒硝の味と匂いが感じられます。弱いスベスベに芒硝泉的な引っ掛かりが混在する浴感で、トロミのあるお湯です。一見すると何ら特徴の無さそうに思われますが、加温の具合がちょうど良い上にお湯自体が持つ泉質のためか、意外にしっかりとした質感が得られ、また肌への当たりが優しく、とっても心地良いのです。群馬県の水上界隈や四万を彷彿とさせる、いかにも硫酸塩泉って感じのお湯で、私はかなり気に入りました。

訪問時は先客がおらず、鮮度感溢れるお湯をひたすら独占できましたが、投入量が少ないのでもし一度に何人かのお客さんが利用しちゃったら、お湯が一気に鈍ってしまいそうな心配は拭えません。でも、いかんせん源泉の湧出量が限られているので、ある程度は仕方ないでしょうね。立ち寄り入浴の際には、お客さんが少なそうな時間帯を狙うと吉だと思います。


湯沼源泉2号
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 33.8℃ pH6.0 24L/min(自然湧出) 溶存物質1520mg/kg 成分総計1635mg/kg

福島県耶麻郡猪苗代町字山神原7082-213  地図
0241-32-2913

立ち寄り入浴時間:不明
(沿道の看板には「いつでもはいれます」と書かれていますが、常識の範囲内かと思います)
500円
シャンプー類あり、他の備品類なし

私の好み:★★★
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湯ノ花温泉 共同浴場めぐり (その2 湯端の湯・石湯)

2011年06月11日 | 福島県
※(福島県南会津)湯ノ花温泉にある4軒の共同浴場の利用に際しては入浴券の購入が必要です。詳しくは前回記事(湯ノ花温泉 共同浴場めぐり (その1 弘法の湯・天神湯))を御覧ください。


●湯端の湯
 
湯ノ花集落の南東、湯の橋の前に位置する共同浴場。名称に関して、玄関上の額には「湯端の湯」と書かれていますが、傍に立てられている標柱には「湯本の湯」となっており、どちらが正しいんだかわかりませんが、村の資料等では「湯端の湯」で統一されているので、ここでもその名称を採ることにします。ちなみに、話が先行しちゃいますが、使用している源泉名は「湯本の湯」なんですけどね。
ま、いずれにせよ、ここが湯ノ花温泉の湯元であって、浴場の真上に温泉神社が鎮座していることがそれを裏付けています。神社仏閣の傍の温泉って、神々しいというか、霊験あらたかというか、えも言われぬ普通の温泉とは異なる独特の雰囲気があって、たとえごく普通の湯屋であっても、妙にありがたく感じてしまうのは私だけでしょうか。

 
建物には「舘岩村老人福祉センター送湯設備工事系統図」なるものが掲示されており、その傍らには図にも描かれている受湯タンクが設置されています。老人福祉センターって「ことぶき荘」のことかと思われます。湯端の湯からはちょっと離れていますが、そこで使っている源泉はここにあるんだよ、ということなんでしょう。
温泉はなるべく源泉に近い位置で入ったほうが良いに決まっているわけで、特に湯ノ花温泉のような成分が薄くてデリケートな泉質だったら尚更ですから、となれば「湯端の湯」はまさに理想的と言えそうです。

 
浴室は男女別に分かれ、さらに地元民専用の部屋もあります。他の浴場同様、ここも無人。館内は至ってシンプルで素朴な造り。洗い場や浴槽はコンクリ造で、円を4分の1にしたような形状の浴槽は5人ほど入れそうなサイズです。浴槽上の壁面には塩ビのパイプが左右に2つ並んで突き出ているのですが、源泉が出ているのは右側のパイプで、左側は水です。湯口ではかなり熱いのですが、上の画像で温度計が42.9℃を表示しているように、加水のおかげか、湯船では若干熱い程度におさまっています。
先ほど軽く触れましたが、ここで使われている源泉は「湯本の湯」源泉で、「弘法の湯」や「天神湯」に引かれている「清滝の湯」とは異なっており、無色透明無味無臭、若干トロミを有しつつも、癖ば無くて優しいサラっとした浴感が得られます。白い湯ノ花も湯中でちらほら舞っています。
浴室の窓を開けると、目の前にはお不動様や馬頭観音などが並び、見上げると温泉神社のこじんまりとした社殿が。建物の裏手に石碑や石仏が並んでいることは不自然ですから、おそらく村の辻々に立っていたものが耕地整理や新道建設の際に邪魔になったので、ここへ集められたんだと思います。石碑石仏類が好きな私のような人間なら興味を以て見られますが、無関心でご存じない方にはその集合体を薄気味悪く感じてしまうかも。


加水加温循環消毒は一切行っていない旨を表示しているプレートが誇らしいですね。

湯本の湯
単純温泉 58.6℃ pH8.2 13.0L/min(自然湧出) 溶存物質548.8mg/kg 成分総計548.8mg/kg
地図
備品類なし
 

●石湯
湯ノ花温泉の目玉というべきお風呂が「石湯」。たまにテレビでも取り上げられているようで、Googleで検索してみても、4軒ある共同浴場のうち、最も検索結果が多く出てくるのがこの「石湯」なのであります(たとえば「湯ノ花温泉 石湯」で約68,100件に対し、「湯ノ花温泉 弘法の湯」は約14,600件と、石湯のヒット数は圧倒的)。
従いまして既に多くの方がこの「石湯」について述べておられ、そのほとんどが感嘆しているわけでして、今更ここで私が語ったところで二番どころか6万8千番煎じになってしまうのですが、せっかくなので、石湯の一ファンとしてちょこっと語らせてください。


集落中央の星酒店の傍から伸びる細い路地を歩いて川の方へ下ってゆき、湯の岐川に架かる人道橋「石湯橋」を渡って対岸へ。


橋の上から下流側を臨むと、左岸に小さな掘っ立て小屋が見えますが、これが「石湯」。
もうこのロケーションを見るだけでもワクワクしちゃいます。

 
小屋からデカい岩がせり出ていますが、これが湯屋の名前の由来。

 
小屋の中には川岸の岩盤を穿って造ったような小さな浴槽があるだけ。男女別にはなっていないので当然混浴です。室内にせり出ている岩の上には小さな神棚が祀られており、岩はおそらく温泉を恵んでくれるご神体のような感じで地域の方から崇められているんだと思います。

一応、壁に棚をくくりつけただけの脱衣スペースはあるんですが、浴槽の向こう側に位置しているので、小屋の入り口で靴を脱いで裸足になり、浴槽の縁をつたってそのスペースへ行くことになります。
窓側にはちょっとした衝立があり、その向こう側(窓下)にも小さな浴槽がありますが、本当に小さくて浅いので、全身入浴というよりは足湯にしたほうが良さそう。衝立と言っても低くて幅も狭いので、実質的に浴室内部は入口を通して外から思いっきり丸見えです。


お湯は無色澄明、神の御加護のためか非常に清らかです。底の岩がコバルトブルーに光っていて、とっても神秘的です。ほのかに香ばしい匂いを放ち、他3軒の共同浴場のお湯と違ってほのかな甘みを帯びています。

 
湯口は岩の下と入口脇の2ヶ所。湯口が源泉だと思われ、出てくるお湯がかなり熱い。上画像撮影時、入口脇の湯口は49.3℃もありました。たまに底から気泡が上がってくるので、足元湧出もあるかと思います。これらのアツアツのお湯がダイレクトに小さな浴槽へ注がれるんですから、湯船のお湯も当然激熱。ただし日によって熱さは若干上下するみたいで、私の経験で申し上げますと、すんなり入れた時もあれば、我慢しても無理な時もありました。源泉のコンディションや外気温、そして先客の有無などによって変化するのでしょう。

岩を覆うように建つ特徴的な湯小屋や、渋くて素朴な雰囲気が魅力的な「石湯」。この手の湯屋は好き嫌いがはっきり分かれ、好きな人はとことんハマってしまうでしょうが、質素すぎる点、目隠しが機能していない点、混浴、熱すぎる、など一般の方には及び腰になってしまうポイントがあるため、ちょっと敷居が高いかもしれませんね。実際、私が入浴しているときにも、中をチラっと見ただけで「こんなお風呂があるのかぁ」なんて呟きながらお風呂に入らず帰ってゆく観光客と何度か遭遇しました。でもお湯の鮮度は抜群ですし、鄙びつつも神秘的な佇まいは他ではなかなか遭遇できませんから、興味がある方には是非入っていただきたいと思っております。

石湯
単純温泉 57.6℃ pH8.0 9.8L/min(自然湧出) 溶存物質784.1mg/kg 成分総計784.1mg/kg
地図
備品類なし

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