温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ひとっ風呂浴びに3日登山 高天原温泉 その1(折立から太郎平)

2013年11月17日 | 富山県
高天原温泉。
温泉めぐりを趣味とする者ならば、誰しもがその名前を耳にし、そして憧憬を抱く秘湯中の秘湯、日本で最も遠くにある温泉である。拙ブログではこれまで、中岳温泉かもしか温泉赤湯温泉本沢温泉白馬鑓温泉阿曽原温泉仙人温泉など、到達までに登山を要する温泉をいくつか取り上げてきたが、このうち最も歩行距離や時間が長かったものは、富山県の裏剣ルートにある「仙人温泉」であった。しかし今回取り上げる「高天原温泉」は日本最奥の温泉として知られているわけであり、当然ながら「仙人温泉」以上に到達まで時間を要し、本格的な登山を実践しなければならない。

高天原温泉へアクセスするルートは何通りか考えられるが、今回は私のスケジュールの都合上、富山県折立から往復する最短のルートを選択し、2泊3日で全行程を踏破することにした。ただ単純に同じルートを往復するだけでは芸がないので、帰路には険しく危険を伴うことで知られている「大東新道」を経由することにした。また、登山の素人である私が今回のルートを単独行で挑戦するには不安があるため、当初は拙ブログでリンクさせていただいている「温泉を通じて」のしーさんさんと共に二人で訪れる予定だったが、私の都合が調整できなかったため、結局いつものように私一人で(つまり単独行で)挑むことにした。

日程:2013年9月中旬某日 2泊3日
 1日目:折立→太郎平小屋→薬師沢小屋(泊)
 2日目:薬師沢小屋→雲ノ平→高天原山荘・温泉(泊)
 3日目:高天原山荘→大東新道→薬師沢小屋→太郎平小屋→折立
人数:単独行
天候:快晴
距離:約37km
最大標高差:約1240m

持ち物
秋登山の一般的な持ち物だが…
服装:上は、速乾性のTシャツ(肌着として)、長袖(ジップアップタイプ)、モンベルの「ライトシェルジャケット」(行動時のアウターとして)、薄手のフリース(防寒用)、以上4枚を着たり脱いだりして調整。
食料:2泊とも小屋泊だから自炊道具は必要なかったが、コーヒーを淹れたり、昼飯を自分でこさえたかったので、バーナーやコッヘルの他、ペーパードリップのコーヒー一式、リフィルタイプのインスタント麺尾西・アルファ米シリーズなどを登山ではおなじみの品々、そして缶ビールを携行した。なお缶ビールは各小屋で販売されている(350ml缶が600円)。



ルートの距離や標高差などにつきましては、上地図をクリックしてルートラボをご参照あれ。

今回私が辿ったルートの難易度は、百名山を目指すような登山家の皆さんにしてみれば、一部を除けばそんなに大騒ぎするほどのものではないかと思われる。しかし素人の私が単独で踏破できたことは、自分としては大手柄であり、一大快挙でもある。その時の様子を思い浮かべながら記事を書いていたら、興奮のあまりに内容がどんどん膨らんでしまった。そこで、スタートから温泉に入って下山するまでの登山記を、全7回に分けて記事をアップすることにした。もし同じルートを目指して高天原温泉へ目指そうと考えている登山の初級者や中級者がいるならば、この冗長な記事が、いずれの日にか実行されるであろう山行のささやかな一助になれば幸いである。一方で、登山愛好者の方からは「無駄に長いし、大袈裟に表現しすぎだ」と嘲笑されてしまうかもしれないが、「はじめてのおつかい」で親からのミッションを遂行すべく泣きベソをかきながらお店へ向かう幼な子を見守るつもりで、どうかお付き合い願いたい。




【7:10 折立駐車場】
前日に都内で仕事を早めに終え、納車されたばかりの新車で関越道・上信越道・北陸道を飛ばして富山市内にて一泊。早朝(5:50)にホテルをチェックアウトし、途中のコンビニでこの日の昼飯を購入して、有峰林道(※)の亀谷ゲートにて通行料金1800円を支払う。本当はもっと早く行動したいのだが、有峰林道の料金所が開くのは6時からなので、車中泊やテント泊が苦手な私はゲートが開く時間に合わせる他ない。一丁前な料金を徴収する道路だけあって、林道とはいえ全面舗装されており、トンネルで険しい地形をたやすくクリアしてゆくので、一部の工事区間を除けばとても運転しやすい。ゲートから30~40分で折立駐車場に到着した。一見すると駐車台数が多いように見えるが、意外にも空きスペースが多く、幸いにも登山口からかなり近い場所に車をとめることができた。
(※)折立駐車場へ車で向かう際には、有料の有峰林道を通る必要がある。通行に際しては林道入口のゲートで料金を支払わなければならないが、このゲートのオープン時間は朝6時から夜7時までとなっており、それ以外は閉鎖されてしまう。従って朝6時より前にゲート内へ入っていたければ、前日の夜7時までにゲートを通過し、車中やテントなどで夜を明かさねばならない。また下山後の帰路は、夜7時までにゲートを通過できるよう、早めに駐車場を出発しなければならない。たとえば、折立から亀谷ゲートまでの所要時間は30~40分なので、折立を18:20頃までに出発しないと亀谷ゲートを通過できない。


 
登山道入口にはバス停が立っているが、毎日運行されるのは夏のみで、9月中旬は週末しか運行されない。この日の晩に山小屋で出会った方に伺ったお話によれば、その方は電車で最寄り駅まで行き、そこから事前に予約していたタクシーでこの折立まで乗ってきたそうだが、ここへ到達する間にメーターはぐるぐる回り、結局福沢諭吉が1枚飛んでいったという。
折立にはトイレが2箇所あるので、用をたすには苦労しない。また自販機もあるので、下山後に喉を潤すこともできる。なおこの自販機の販売価格は、500mlPETが170円、350ml缶が130円で、それほど悪い設定ではない。
登山届はここではなく、先の太郎平小屋にて提出する。


 
【7:30 折立 (1350m) 登山開始】
登山道入口には、昭和38年の冬、薬師岳へ目指そうとした際に猛吹雪にあって遭難してしまった愛知大学山岳部員の供養塔が建立されている。登山初心者の私は今回の登山に当たってまずここで合掌し、一緒に己の安全を祈願した。


 
樹林帯の中をひたすら登る。スタートから20分ほど経ったところで一旦短い坂を下り、泥々な区間を丸太で通過してから再び上り坂へとりかかる。日頃の運動不足が祟って、もうこの時点で、パッキンが腐食した蛇口のように汗が体中からピューピュー噴き出始めた。


 
【8:18 アラレちゃん】
このルートの名物である「アラレちゃん」の看板を通過。現在のアラレちゃんは5代目なんだそうだ。ここからは薬師岳が綺麗に眺められる。偶々近くにイタチと思しき小動物のフンがあったので、周囲に誰もいないことを確認した上で、アラレちゃんになったつもりで「ほよよ~」と言いながら木の枝でフンをツンツクツンと突いてみたが、いい年してバカな真似をしたことがあまりに虚しくなったので、フンが付いた枝を投げ捨てて早々に立ち去った。



森林の中をひたすら登る。岩盤が剥き出しになっている箇所もあり、雨の日にはツルツル滑りそうだが、この日はこの上ない快晴だったので、何の心配もなく通過。スタートからこの辺りまでの間に、6パーティー13人を追い抜かす。平日だからか、天気はいいのに登山者の数は少なめだ。


 

【8:43/50 三角点 (1870.6m)】
折立と太郎平小屋の中間地点にあたる三角点。ベンチがあるので7分休憩。この三角点以降の景色は樹林帯から徐々に抜け、笹ヤブの中の所々にシラビソが生えるような植生へと移ってゆく。



三角点を過ぎてちょっと進むと、全体的に傾斜している岩盤の上を歩く。ここも雨の日だったら滑っちゃいそうだ。この岩盤区間を抜けると、木道が続くようになる。


 
奥へ延々と伸びる木道。この上なく開放的な景色が続く。途中で振り返ると、有峰湖が台風一過の青空を映してコバルトブルーに輝いていた。


 
ちょっと下ってマツ林や笹薮の中を通り抜けてゆく。道幅は広く取られているので、藪漕ぎをすることは無く、快適に歩ける。マツの枝には距離標が括りつけられていた。


 
【9:25 折立から5.0km地点(三角点より1.4km)(2011m)】
この辺りが森林限界。三角点以降はこんな感じで細かく距離標が立てられており、いま自分がどの辺りを歩いているか、進捗状況が把握できて便利だ。またこの付近では石畳のような路面になり、登山道の管理が行き届いていて、関係各位のご尽力に頭が下がる思いだが、石の上はゴツゴツしているためにちょっと歩きにくい。


 
整備された石畳の登山道。実に快適だ。振り返ると彼方に広がる平野に市街地が見える。滑川あるいは魚津方面だろうか。


 
【9:53/10:03 五光岩ベンチ (2189m)】
三角点以降は随所にベンチが設けられており、休憩する場所選びにも苦労はしないのだが、それらの中でも景色が群を抜いてよかった「五光岩ベンチ」で10分間休憩することにした。路傍に立つ標識によれば、ここは三角点より2.4km、太郎平まで2.0kmとのこと。



左右にゆったりと裾を広げる薬師岳が眼前に聳える。


 
画像左(上):南東方向の彼方に聳えるあの山は白山だろう。
画像右(下):薬師岳から視線を左へ移すと、稜線の間から剣岳がその特徴的な頂きを覗かせていた。


 
雲一つない青空の下、爽快な高地の木道を軽快に進む。いくら歩いてもちっとも疲れない。むしろ、いつまでも歩いていたいほどだ。
前方に小屋が見えてきたぞ!


 
太郎平の手前では、綿毛のようなチングルマの穂があたり一面を埋め尽くしていた。開花時期には可憐な白い花が見渡す限り広がっていたのだろう。


 
【10:40/11:25 太郎平小屋 (2330m)】
折立から3時間10分で、この日に歩くべき行程の中間地点である太郎平小屋に到達できた。標準タイムは5時間だから、かなり快調だ。小屋には登山相談所があったり、警察の臨時派出所があったりと、界隈の登山活動の拠点でもある。また登山届を提出するのもこの小屋である。小屋の窓口には、薬師沢小屋で宿泊予定の人はここで一声かけてほしい旨が告知されているので、それに従い、登山届の提出とともに、その旨を申し上げた。


 
小屋の裏手には水場があり、ポンプアップされた水がタンクから垂れ流されていた。ここで給水することも可能だが、チップ入れが括りつけられていたので、利用の際には小銭が必要なのだろう。その奥には綺麗なバイオトイレも完備されている。


 
小屋前の広場からは薬師岳が綺麗に眺望できた。そよ風が吹いて涼しく、3時間登り続けて熱くなった体には、半袖1枚が実に心地よい。上空ではツバメが飛び交っていた。



小屋では温かいラーメンが食えるらしいが…



私はコンビニで買ったおにぎりを頬張ってエネルギーを補給した。


その2へ続く
コメント (7)
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塩原 福渡温泉 松楓楼松屋

2013年11月16日 | 栃木県
 
塩原温泉で年1回、9月上旬に行われる「塩原古式湯まつり」では協賛旅館のお風呂が一日限定で無料利用することができる「温泉ふるまい」というイベントも開催されますが、その有り難いふるまいにあやかって、今年(2013年)は前回まで連続で取り上げてきた共同浴場の他、福渡温泉の「松楓楼松屋」(ホテル松屋)でも一浴してまいりました。こちらのお宿はおそらく福渡温泉エリアでは最も大きな旅館ではないでしょうか(間違っていたらゴメンなさい)。
立派な玄関では常時スタッフが待機しており、近づいてくる私の姿を確認するや、そのうちのお一人がササっと出てきて、スマートに対応してくださいました。「温泉ふるまい」での利用ですから無料入浴となるわけですが、そんな事情であってもスタッフの皆さんは快く丁寧に挨拶してくださり、しかもお風呂の手前まで案内までしてくださいました。いやはや恐れいります。


 
カーペット敷きの廊下を歩いて浴室へ。その途中には福渡温泉名物の露天風呂「岩の湯」や「天狗の湯」へ出られる通用扉がありました。


●内湯
 
白基調の室内の随所に木材を組み込んだ和風テイストの脱衣室は、建物の規模と比すればややコンパクトな感を受けますが、さすがに旅館だけあって清潔感が漲っており、どこもかしもこピッカピカです。洗面台にはアメニティー類も一通り揃っています。



室内に掲示されている湯使いに関する説明です。これによれば、約1キロ上流の箒川河川敷で自然湧出する60℃の源泉を引湯し、加水せずに空冷によって各浴槽へ分配している、このため浴槽の大きさによって温度が異なり、また雨天時には温度低下や濁りが見られる場合もある、かけ流しではあるが、槽内の温度を均一にするため及びゴミを除去するために循環を併用している、とのことです。


 
広々している浴室は箒川に面して大きなガラス張りとなっており、高い天井も手伝って非常に気持ちの良い開放的な空間です。洗い場は浴室の左右に分かれて配置されており、計11基(右側に7基、左側に4基)のシャワー付き混合水栓が設置されています。こまめにスタッフが目を配ってるのか、桶や腰掛けが整然と並べられていました。


 
浴槽には蓬色の小さな丸いタイルが敷き詰められており、柱の傍に突き出ている湯口の他、浴槽中央の底からも湯面が盛り上がるほどの量のお湯が投入されています。浴槽縁からは静々とした溢湯が見られますが、投入量と溢れ出る量が釣り合っていないので、脱衣室に掲示されていたように、かけ流しと循環を併用しているものと思われます。



大きなガラス窓の真下には箒川が右から左に向かって流れており、対岸には福渡の名所である「岩の湯」が一望できました。


●露天風呂

続きまして、渡り廊下を歩いて露天風呂へと向かいます。能の舞台を思わせる、いかにも和風な雰囲気ですね。


 
箒川を臨む露天風呂は、浴槽も、それを覆う屋根も総て木造。入浴ゾーンの後背に設けられている休憩スペースも、ベンチやデッキチェアを含めて全部木製で徹底されています。
「岩の湯」や「不動の湯」へ向かう途中、吊り橋を渡る所の左側に落ち着いた佇まいの露天風呂が目に入ってきますが、その露天こそこのお風呂であります。


 
露天風呂にはカランがありませんが、そのかわり、隅っこにはこのような「あがり湯」が用意されていました。試しに私もこのお湯を体にかけてみましたが、この日だけなのか、ややぬるくて土っぽい匂いがしました。このお湯は温泉なのでしょうか。


 
浴槽の縁からお湯が静々とオーバーフローしており、人が湯船に入るとしっかり溢れ出ますが、内湯同様、湯口から注がれる量と溢れ出る量が釣り合っていないので、かけ流しと循環を併用しているものと想像されます。それでも、この日の露天風呂の湯加減は41℃くらいの長湯仕様に設定されており、木のぬくもりと山の緑に囲まれた雰囲気の良い環境で、心地良い湯加減のお湯に浸かっていたら、いつまでもここで時間を忘れて過ごしていたくなりました。
さてお湯に関するインプレッションですが、上述のように、源泉はここから1キロほど上流にある塩湧橋の下、箒川の右岸にある源泉から引湯しているんだそうでして、加水せずに空冷で温度調整しているものの、半循環を実施しているようです。それゆえなのか、弱いツルスベ浴感を有しているものの、無色透明無味無臭でいまひとつ掴みどころがなく、福渡の湯なのにこれといった特徴がありませんでした。なお消毒臭は感じられませんでした。

湯使いやお湯のクオリティに拘る方には面白みに欠けるでしょうが、館内は綺麗で上品、ホスピタリティも良いので、雰囲気重視の方にとっては受けが良いだろうと思われます。


 
湯上がりにクールダウンがてら、源泉がある塩湧橋まで歩いていたところ、橋の下の太い配管にサルの群れを発見、私が近づくと対岸へ逃げていってしまいました。同じ栃木県でも日光のサルは人に慣れちゃっていますが、塩原はまだ人間に対して恐怖心を抱いているのかな。


福渡区源泉(右岸)
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.1℃ pH6.5 850.0L/min(自然湧出) 溶存物質1.414g/kg 成分総計1.519g/kg
Na+:321.6mg(74.75mval%), Ca++:74.1mg(19.77mval%),
Cl-:376.3mg(55.97mval%), SO4--:237.4mg(26.07mval%), HCO3-:197.2mg(17.04mval%), Br-:1.4mg,
H2SiO3:148.3mg, HBO2;25.3mg, CO2:104.6mg, H2S:0.2mg,
循環装置使用(槽内温度均衡及びゴミ除去のため)

西那須野駅および那須塩原駅よりJRバス関東の塩原温泉バスターミナル行のバスで塩原福渡バス停下車
栃木県那須塩原市塩原168  地図
0287-32-2003
ホームページ

日帰り入浴13:30~17:00
1000円(今回は「温泉ふるまい」により無料で入浴)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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塩原 畑下温泉 某所S (そして「塩原渓谷フリーきっぷ」)

2013年11月15日 | 栃木県
 
前々回前回に引き続き、2013年の「塩原古式湯まつり」における「温泉ふるまい」で無料開放された共同浴場を巡ってまいります。今回は前回までの古町温泉エリアを抜け、箒川に沿って若干下流側にある畑下温泉へと向かいます。古町地区や門前地区を抜けた箒川はすぐ下流で南へ大きく湾曲しますが、その川の流れと国道とによって挟まれた半島状のエリアに民家や中小規模の旅館が軒先を寄せ合っているのが畑下温泉でありまして、拙ブログでも以前に「ホテルぬりや」さんを日帰り入浴で取り上げております。国道から温泉街へと下りる道沿いに高く聳える源泉枡からは、畑下温泉の余り湯が道路へ捨てられていました。


 
畑下温泉エリアには「高砂の湯」など、地元住民専用の共同浴場がいくつかありますが、2013年の「温泉ふるまい」で一般開放されたのは、旅館が集まる一角で周囲の大きな建物の間に身を潜めるようにひっそりと佇んでいる「Sの湯」です(今回も本文中では名称を伏せますが、画像では写しておりますので、どの浴場がお知りになりたい方は画像をご参照ください)。
この小ぢんまりした湯屋の魅力に惹かれてか、この日の一般開放が開始された時間には温泉ファンが一気に押し寄せ、順番待ちするほどの混雑が発生したようですが、私が訪れた昼下がりにはそんな熱狂も一段落し、入口の扉に「温泉ふるまい」の案内が貼り出されている他は、いつもの浴場と同じような静かな空気が辺りを包んでいました。念のため、目の前にある旅館のフロントへ「前の「Sの湯」に入浴させてください」と声をかけてから、共同浴場の戸を開けます。


 
入ってすぐ左右に分かれて脱衣室がありました。特に男女の区分は明記されていませんが、地元の方の間では区分に関して暗黙の了解があるのかもしれません。いずれの脱衣室とも2人以上同時に着替えたら窮屈さを覚えそうなほどコンパクトなスペースでして、ただ単に棚が括り付けられているだけですが、棚の各段にはなぜか段ボールが敷かれていました。ゴミ除けなのか結露除けなのか…。
脱衣室と浴室の間には仕切りが無く、浴槽はひとつのみの混浴です。浴室内には洗い場用の水栓が無く、かけ湯するなら桶で湯船のお湯を直接汲む他ありません。このようなコンパクトさ、そして必要最低限の備品しか無いところが、いかにも利用者の限定されている地元民専用浴場らしい佇まいであります。


 
浴槽は古めかしいコンクリ造で2~3人サイズ。長年に及ぶ温泉成分の付着により、浴槽内部は黒ずんでいました。奥の壁から突き出たパイプよりお湯がトポトポと注がれています。そのパイプは成分析出のトゲトゲによって覆われており、またお湯が湯面に落とされる周囲もサンゴ礁のような細かな凹凸が出来上っていました。湯口から吐出されたばかりのお湯は直に触れないほど熱く、そのままでは入浴に適さないため、ホースの水で適当に加水して温度調整しています。それでも源泉投入量はしっかりキープされていますから、体を湯船に沈めた時に伝わってきた鮮度感は抜群でした。湯船のお湯は浴槽縁の切り欠けから排湯されていますが、私が湯船に入ったら一気に溢れ出て、浴室内が洪水状態になってしまいました。

室内が薄暗かったのではっきりとしたことは言えませんが、お湯の色は薄い黄色系(橙色系?)の笹濁りで、湯中では橙色の浮遊物が少ないながらもユラユラしています。お湯を口に含むと薄い塩味と明瞭な金気味、そして重曹味に弱い土気味が舌に伝わり、金気や土気の匂いとともに、パラフィンのような硫酸塩的味覚と臭覚、そして何かが焦げたような匂いやそれと関係する苦味も感じられました。ツルスベ浴感がメインですが、キシキシも混在しており、湯中で肌を擦ると両者が拮抗していました。名湯の名に相応しいシャキッとした浴感が実に気持ちよく、熱いお湯で体が逆上せそうになりながらも、その浴感の良さの虜になってしまい、なかなかこのお風呂から出ることができませんでした。こんな素晴らしいお湯を一般開放してくださった地元の方々に感謝です。


温泉分析表掲示なし

栃木県那須塩原市の畑下温泉地区某所(地図による場所の特定は控えさせていただきます)

2013年の「温泉ふるまい」における一般開放時間は9:00~17:00
備品類なし(桶などはいくつか備え付けあり)

私の好み:★★★


●塩原渓谷フリーきっぷ
塩原温泉へ足を運ぶ際、普段は自分の車でアクセスしますが、今回は趣向を変えて、西那須野駅までJRに乗り、西那須野駅からは路線バスを利用して塩原温泉郷の各地を巡りました。
西那須野駅から塩原温泉まで路線バスで単純往復すると1800円の運賃を要するのですが、JRバス関東で発売されている「塩原渓谷フリーきっぷ」(1600円)を購入すれば、単純往復するだけでも200円安く上がりますし、2日間有効でフリーエリア内は乗降自由ですから、バスを利用して湯めぐりや観光名所巡りする場合には非常に便利です。




西那須野駅で電車を降り、改札を出てから、新幹線の高架下にあるJRバス関東の西那須野支店にて「塩原渓谷フリーきっぷ」を購入しました。支店でなくとも車内でも購入できるそうですが、支店窓口で購入すればバス時刻表のコピーがいただけます。バスの券とはいえJRですから、券面のデザインは国鉄やJRで一昔前まで売られていた企画乗車券を彷彿とさせてくれるものですね。券面右下には入鋏用のM字の文様が描かれていますが、これを使うことってあるのでしょうか。
裏面にはフリー区間および各観光名所とバス停の位置関係が図説されています。バス停間の距離も記されており、かなり実用的で役立ちました。なおこの券にはかつて「おみやげ品割引券」も付随していたようですが、現在はありません。



雨がそぼ降る西那須野駅前よりバスに乗車です。この路線には常に長尺車が使用されるようですが、その長い車体に反してこの時の利用客は10人を下回っており、せっかくの輸送力を持て余していました(繁忙期には長尺車ならではの輸送力が発揮されるのでしょう)。



約45分で塩原温泉バスターミナルに到着です。
昼間のバスは那須塩原駅発着となり、西那須野駅も経由しますので、「塩原渓谷フリーきっぷ」には那須塩原発着の設定もあります。詳しくはJRバス関東のHPをご参照あれ。
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塩原 古町温泉 某所A

2013年11月14日 | 栃木県

前回に引き続き、2013年の「塩原古式湯まつり」の「温泉ふるまい」にて一般開放された共同浴場を巡ってまいります。今回は前回の某所Hと同じく古町温泉地区にある共同浴場「某所A」を取り上げます。今回も本文中では浴場名を伏せさせていただきますが、画像にはしっかり名前が写っていますし、周辺の風景からもそのロケーションが推測できるかと思いますので、来年以降に湯めぐりなさる方は画像を参考になさってください。


 
「温泉ふるまい」に際して、外来者にもわかるよう、ご丁寧に浴場名を大きく表示したネームプレートが掲げられていました。普段は掲示されておらず、これが無ければ青いトタンの倉庫にしか見えないでしょう。地元の方のご親切に心から感謝申し上げます。


 
扉を開けると、川に沿って奥へ細長い湯屋の中は、仕切りを挟んで奥と手前に浴室が分かれており、手前側が男湯となっていました。


 
脱衣ゾーンと入浴ゾーンが一体となった古典的な浴場スタイルです。この鄙びた風情が何とも言えませんね。室内に洗い場用のカランが無いため、桶で湯船のお湯を直接汲んでかけ湯することになりますが、湯船と脱衣ゾーンのスノコが接近しているため、スノコを濡らさないよう、場所に気をつけながらかけ湯しました。地域のための共同浴場ですから入浴用の備品類は殆どありませんが、ケロリン桶のみ3つ備え付けられています。


 
コンクリの浴槽は5~6人サイズ。浴槽周りのコンクリは温泉成分の付着によって、全体的にアイボリー色に覆われていました。画像を見ますと、浴槽脇に据えられている枡からお湯が落とされているように思われますが、この枡に湛えられているのは冷水でして、源泉のままでは熱すぎるお湯を冷ますため、この枡から流下する水によって常時加水されているようです。では、お湯はどこから供給されるのかと言えば、この枡の直下にある浴槽内の側壁にあいた穴より吐出されており、迂闊にその穴を素手で触ろうとしたら、あまりの熱さで火傷しそうになりました。清らかな冷水とブレンドされた浴槽のお湯は、常時は脱衣ゾーン側に設けられた浴槽縁の切り欠けより排湯されていますが、私が湯船に入ると切り欠けのみならず全ての縁よりお湯がザバーっと溢れ出ていきました。

お湯は薄っすら貝汁濁りで、湯中ではクリーム色や褐色の浮遊物がチラホラ見受けられます。金気臭とともに何かを燻したような匂いが漂い、重炭酸土類泉的な味(土類味・金気味・炭酸味のミックス)が感じられます。前回取り上げた某所H浴場よりも炭酸味はかなり弱く、金気も幾分マイルドでしたが、ほろ苦みはしっかり前面に出ていたようでした。
加水されているとはいえ、結構熱めの湯加減となっていて、私と同じく「温泉ふるまい」を目当てに訪れた外来客の皆さんは、その熱さゆえ、湯船に浸かっても早々に出ていってしまいましたが、私としては浴感が何とも心地よく、茹で上がって少々朦朧としてしまいましたが、じっくり長湯させていただきました。風情といいお湯といい、文句のつけようがない、素晴らしい共同浴場でした。


温泉分析表の掲示なし

栃木県那須塩原市の古町温泉地区某所(地図による場所の特定は控えさせていただきます)

2013年の開放時間は10:00~17:00
備品類なし

私の好み:★★★
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塩原 古町温泉 某所H

2013年11月13日 | 栃木県
塩原温泉では「塩原古式湯まつり」と称するお祭りが年に1回、9月上旬に開催されるのですが、この祭事の一環として「温泉ふるまい」というイベントも行われ、1日限定で協賛旅館のお風呂に無料で入れる他、地元民専用の共同浴場の一部が外来客にも無料開放されます。今年(2013年)の協賛旅館には普段日帰り入浴を受け入れていないお宿も含まれていたので、この好機に入浴してみようかとも考えたのですが、旅館ならばお金を払って宿泊すればそのお風呂に入れますが、地元民専用の浴場はこのチャンスを逃すと、お金を払ったって入浴することはできませんから、今回は地元民専用の共同浴場に的を絞って巡ってみることにしました。

なお前回記事にて塩原古町温泉の「民宿本陣」に宿泊したことを述べましたが、これは「温泉ふるまい」の恩恵をただ一方的に享受するのではなく、外来利用者として当地にお金を落とすことが礼儀になるだろうと考えたからであります。共同浴場は地元の方の有志によって成立しているのであり、その志し(つまり資金)は、観光業を主な生業とする当地においては宿泊や飲食による収入が原資となっているわけですから、当地で宿泊および飲食することが、間接的に共同浴場へ寸志を納めることにつながるだろうという発想であり、願いでもあります。もちろん、これはあくまで私個人の独り善がりな思考ですので、当日にお財布を開くことなく利用なさった方がいらっしゃったとしても、どうかお気になさいませぬよう…。

2013年の「温泉ふるまい」で開放された共同浴場は、古町地区で2ヶ所、畑下地区で1ヶ所の計3ヶ所でした。開放される浴場はHP上で告知される他、現地観光案内所でも教えてくださいます。今回はその全てを巡ってまいりましたが、まずは古町地区某所にある「Hの湯」から訪問してみることにしました。検索エンジンに引っかからないよう、記事の中では実名を伏せておきますが、画像では浴場名の扁額をしっかり写していますので、来年以降に湯めぐりなさる方は画像を参考になさってください。


 
タイトルでは「某所H」と表記しましたが、決して某所でエッチなことをするという意味ではなく、もちろん浴用名の頭文字を取ったまでのことです。場所としては決してそんなエロいことなんて出来そうにもないほど、比較的初見の方でもわかりやすい場所に位置しています。自慢じゃありませんが、私は地図を見ずに一発で行き当てましたよ。


 
2階建ての公民館の1階に浴場があり、入口扉の前ではアサガオの蔓が緑のブラインドを作っていました。入口の上には浴場名が揮毫されている扁額が掛かっています。普段は閉じられている入口の扉も、この日に限ってはしっかり開放されていました。ありがたくお邪魔させていただきます。


 
脱衣室・浴室とも一室しかないため、いずれも男女を問わず一緒に利用することになります(つまり混浴です)。公民館に付帯する地域住民のための共同浴場らしく、脱衣室内には地域のお知らせがたくさん貼り出されていました。また壁には清掃当番のスケジュールを表したホワイトボードがかかっていました。


 
利用客が限定されている地元民専用の共同浴場にしては、浴室は結構広く、浴槽をもう少し大きくできたら、真ん中に仕切り塀を立てて男女別にしても良さそうなほどのスペースがあります。
側壁上部には化成品の白い耐湿内壁材が用いられ、下部はモルタルの上に小豆色の塗装、床にはビルの屋上に用いるような緑色の防水塗装が施されています。室内の左右に分かれて洗い場があり、カランが計3組(お湯と水の水栓)が設置されています(シャワーはありません)。なお水栓からは源泉のお湯は出てきました。


 

浴槽も共同浴場にしては比較的大きな造りで、同時に5~6人は入れそうな容量があります。コンクリ製で、元々は緑色に塗装されていたものと思われますが、温泉成分の付着によって槽内は赤茶色に、あるいは赤黒く染まっていました。
コックが付いた配管や、その直下の槽内にある投入口より源泉がふんだんに供給されており、赤黒く染まった縁から惜しげも無く大量にオーバーフローしていました。源泉のままではちょっと熱いので、先客の方は加水していましたが、当然ながら循環など行われていない完全放流式の湯使いであり、お湯の鮮度感は抜群です。

お湯は貝汁濁りで、湯中には赤茶色の浮遊物がチラホラ舞っています。お湯からは金気や鉱物油的な匂いの他に何かが焦げたような渋い匂いも漂っており、口に含むと重炭酸土類泉的な土類味と金気味に炭酸味、そして焦げたような苦味や渋味が感じられました。浴感としては重曹泉的なツルサラ感がメインで、ギシギシとした引っ掛かりも拮抗しているものの、ツルサラ感の方が優勢のようでした。湯上がりには炭酸泉で体感できるような、体の芯からジワジワと感じられる温浴効果が得られ、発汗も長く続きますが、にもかかわらず外気に触れた時の清涼感も同時にあり、一浴でいろんな感覚が楽しめるのが面白いところです。共同浴場のお湯って、変な小細工が無い分、お湯の良さがダイレクトに伝わってきますよね。


温泉分析書掲示なし

栃木県那須塩原市の古町温泉地区某所(地図による特定は控えさせていただきます)

2013年の開放時間は11:00~15:00でした。
備品類なし

私の好み:★★★
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