文化逍遥。

良質な文化の紹介。

漢詩とブルースの詩、その類似性

2024年06月25日 | 音楽
 かねてより漢詩と古いタイプのブルースの詩には類似性がある、と感じていた。わたしは、比較文化学の研究者ではないので具体的な論証が出来るわけではない。が、異なる文化に共通点を見出せれば、相互理解の一助になることもあるだろう。「突飛なこじ付け」と思われるかもしれないが、無理を承知の上で書いておきたい。

 漢詩と言うと、学校で教わったように、難関試験「科挙」に合格した文人エリートたちがたしなんだ教養のひとつで、それを型にはまった読み下し文にして理解しようとする人も多いかもしれない。が、その中には庶民生活を歌ったものも多く、漢字の知識さえあれば大まかな意味と脚韻の面白さを味わうことが出来る作品も多い。元々、漢詩も「楽府題(がふだい)」といって、歌の歌詞が源といわれる。白楽天(白居易)は、作った詩を自ら庶民の前で歌って聞かせ、意味が通じなければ書き直した、という言い伝えもあるらしい。日本の和歌なども、百人一首大会などでは節をつけて読み上げられている。基本、「詩」は「歌」なのだ。

たとえば「詩仙」と言われる李白の詩に、『山中対酌』というものがある。七言絶句、あるいは研究者によっては七言古詩。脚韻に注目。

両人対酌山花 一杯一杯復一
我酔欲眠君且去 明朝有意抱琴

(読み下し文の一例)
『両人対酌して山花開く 一杯一杯復(ま)た一杯
我酔いて眠らんと欲す 君且(しばら)く去れ 明朝意有らば琴を抱いて来たれ』

読み下し文では分かりづらいが、原文の太字にしたところが韻を踏んでいる。「平仄(ひょうそく)」というイントネーションのこともあるが、ここは日本語で、開(かいkai)、杯(はいhai)、来(らいrai)、と音で読めば音感がつかめる。ざっくばらんに、意訳してみると・・・

『裏山の花が咲いて昔馴染みと酒を酌み交わしている まあまあ一杯 と飲み続けていて切りがない
酔っちゃて眠くなった 君悪いが一旦帰ってくれないか 明日も来るなら琴を持って来て聞かせてくれや』


さて、ここでブルースの詩。ウィリアム・ハリスという人が1928年頃に録音した『kansas City Blues(カンザスシティーブルース)』からの抜き出し・・こちらも脚韻に注目。

I wish I was a catfish in the deep blue sea 青く深い海に住むナマズになりてえなあ
I'd have all these women just fishin' after me 泳ぎ回る娘たちを釣り上げてやるのに・・
(refrain) Then I'd move Kansascity・・・(彼女がカンザスに行っちまったから) 俺も行こうかカンザスへ・・

I wish I was jeybird flyin' in the air 空を飛ぶカケスになりてえもんだ
Build my nest some of these her brown hair あの娘の金髪の頭に俺の巣を作ってやる
(refrain) Then I'd move Kansascity・・・(彼女がカンザスに行っちまったから) 俺も行こうかカンザスへ・・

 下線部が脚韻を踏んでいるところ。この様な古い英詩の形式に沿った詩はモダンブルースではほとんど見かけないが、古いブルースでは珍しくない。『kansas City Blues』では、特に下段の flyin' in the airとしている部分に注目したい。「in the sky」とするのが普通だろうが、そこをあえて in the airとして脚韻を踏んでいる。そこに、わたしは漢詩と共通するものを感じる。中国語も英語も語順が意味を決める言語ということで、言語学的に脚韻を踏みやすいという共通した特徴もあるようだ。

 漢詩とブルース。脚韻の踏み方だけではなく、4連の漢詩「絶句」を8小節ブルース、8連の「律詩」を12あるいは16小節ブルース、と、スタンザ(詩の連)の形式に共通性を見い出すこともできる。

 と、まあ、こういうことは演奏してみないと実感できないところ。逆に言えば、学校で読み方や意味を教わっても、作者の気持ちや情趣までは伝わって来ない。学校で得る知識に価値がない、ということではない。その知識を身に沁み込ませるためには、自ら一歩踏み出して、作品と向き合う必要がある、ということだ。

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御宿海岸2024/6/13

2024年06月18日 | 旅行記
 6月13日(金)、古い友人が誘ってくれたので、車に便乗して千葉県の外房、御宿(おんじゅく)海岸などへ行ってきた。



 白い砂浜は、童謡『月の沙漠』ゆかりの地といわれ、写真には写っていないが、右奥に月の沙漠記念像などがある。もう少しして海水浴のシーズンになると、かなりな賑わいになるだろう。道路の混雑状況によるが、ここまで千葉市の我が家から、所要時間は1時間半から2時間といったところ。


 丘の上にある「メキシコ記念公園」より、勝浦方向を撮影。下に見えているのは、岩和田(いわだ)漁港。

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2023年フランス・ベルギー合作映画『バティモン5 望まれざる者』

2024年06月11日 | 映画
 6/5(水)、千葉劇場にて。監督ラジ・リ。出演アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ。

 パリでは、今年2024年夏にオリンピックが開催される。報道によると、それがために一部の地区で住民が強制退去させられた、と聞く。2023年製作の、この作品はオリンピックとは直接的な関係はないかもしれない。が、行政が警察を動員して住民を強制退去される設定になっていて、その点ではオリンピック開催という行政の都合による住民の強制退去と同じ、と言える。端的に言えば、現代フランス社会の歪みを描いた作品、と言えるだろう。映画の舞台となっているのは、日本の高度成長期に建てられた公団住宅によく似た10階建て程の団地。老朽化が進み、エレベーターなどは故障して長く動かず、通路の照明なども切れ、落書きだらけで住民の心の荒廃も感じられる。しかし、そこでは、確かに人々が生活しているのだった。
 映画の最後、住む家を失った黒人青年が市長の家に乗り込み破壊と放火を試み、帰宅した市長に「住む場を奪われた者の気持ちを味合わせてやる・・」と、泣きながら叫ぶシーンがある。それは、かつて植民地として国を奪われた者の言葉の様にも聞こえた。観ていて、つらいシーンも多かったが、見る価値のある作品、と感じた。



以下は、千葉劇場のホームページより引用
『パリ郊外で移民家族が多く暮らす地区を一掃しようとする行政と住民たちの衝突を緊迫感たっぷりに描き、大都会パリの知られざる暗部を浮き彫りにした社会派ドラマ。パリ郊外に立ち並ぶいくつもの団地には労働者階級の移民家族たちが多く暮らしているが、このエリアの一画=バティモン5では再開発のために老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められている。そんな中、前任者の急逝で臨時市長となったピエールは、自身の信念のもと、バティモン5の復興と治安を改善する政策の強行を決意。だがその横暴なやり方に住民たちは猛反発、やがて、これまで移民たちに寄り添い、ケアスタッフとして長年働いていたアビーたちを中心とした住民側と、市長を中心とした行政側が、ある事件をきっかけについに衝突。やがて激しい抗争へと発展していく。(2023年製作/105分/G/フランス・ベルギー合作)』

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ダイナミックマイク、LEWITT「MTP440DM」

2024年06月04日 | 楽器・エッセイ
 昨年、シュアーのヴォーカル用ダイナミックマイク「ベータ58」が故障して、ベーリンガーの安めのヴォーカル・マイクを買って使っていた。が、やはりシュアーの奥行きのある音質には届かず、ベータ57のグリルを換えてヴォーカル用に使うことにして、楽器用のダイナミックマイクをサウンドハウスで適当なものを物色して購入した。入手したのは、オーストリアのメーカーLEWITTの「MTP440DM」。シュアーのベータ57にしようか迷ったが、他のメーカーを試してみたくなり、こちらに決めた。11000円ほど。


LEWITTの「MTP440DM」。クリヤーな音質で、またアンプからの音圧にも耐えられるので、エレキギターの録音にも適している。付属のホルダーも使いやすい。


全体にこんな感じで録音している。


こちらは、シュアーのベータ57の先端部グリルをヴォーカル用に換えたもの。グリルは、ベータ58のものを捨てずにとってあったので、それを転用。35年くらい使っている。現在、BETA58用グリルボールだけでも5000円程する。捨てずにとっておいて良かった。

 ヴォーカル用と楽器用、その違いはマイク本体にあるというよりも、先端についているグリルがポップガードになっているかいないか、だ。ポップガードというのは、「パピプペポ」などの発音時に口から出る風圧に、対応するためのスクリーン。これがあるとないでは、かなり違う。楽器用マイクをヴォーカルで使う場合は、別にポップガードなどを使えばよい。あるいは、その方が音質的には良いかもしれないが、セッティングなどに手間とお金がかかる。目的にあったものを選んで使うことで、シンプルで持続性のある活動が出来る。

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