ルイジアナのピアニスト・ヴォーカリストと言えば、まず思い浮かべるのがこの人プロフェッサー・ロングヘア―(Professor Longhair)。芸名を直訳すれば「長髪教授」となるだろうが、本名はHenry Roeland Byrd。生まれは1918年12月19日ルイジアナ州ボガルーサ(Bogalusa)で、亡くなったのは1980年1月30日同州ニューオリンズだった。若い頃は本名を覚えてもらえず、かなりの長髪だったためか「ロングヘア」というニックネームで呼ばれ、それをそのまま芸名にしたらしい。
LPやCDの解説等を参照してまとめると、生後すぐにニューオリンズへ移動し、その後は一時期ボクシングの選手をしたりしたが、ニューオリンズで様々なミュージシャンと影響を受けあいながら自分の音楽を作り上げていった。例により、戦後は不遇な時期を過ごしギャンブラーなどをしていたとも言うが、ブルース・リヴァイバルで人気が再び出て、各地のコンサートやフェスティヴァルに出演した。
ニューオリンズと言えば、やはりボクサーをしていたピアニストのチャンピオン・ジャック・デュプリーを思い浮かべるが、二人は共に活動をしていたこともあるという。その後、デュプリーはヨーロッパに拠点を移し、リロイ・カーなどシカゴのピアニストに影響を受けた演奏をしている。それに比べロングヘアーは、ルイジアナで生涯を過ごし、「ファンクビート」と呼ばれるようなラテン系のノリを持った演奏で聴衆を沸かせた。
ルイジアナと言えばもとはフランス領で、ルイ14世にちなんだ地名。地理的にも、カリブ海やラテン諸国にも関係が深く、フランス文化と黒人文化、ラテン系文化が融合している。その融合を「Gumboガンボ」と言っている。ガンボというのは、本来、いろいろなスパイスを混ぜ込んだルイジアナのスープのことで、沖縄の「チャンプルー」という言葉が近いかもしれない。広く「ごちゃ混ぜ」という意味でも使われる。
音楽的にも、Zydeco(ザディコ又はザイディコ)やCajun(ケイジャン)といった独特のものがある。ロングヘアも、それらを巧みに取り込んでいて、ブルースという枠にとどまらない、多様性を持ったミュージシャンだった。それについて、ロバート・サンテリは『The Big Book Of Blues』P334プロフェッサー・ロングヘア―の項で、次のように書いている「‥a spicy rhythmic gumbo of blues, jazz, calypso, ragtime, and zydeco, ‥(ブルース、ジャズ、カリプソ、ラグタイム、そしてザディコなどというリズムのスパイスを混ぜ込んだガンボ)」。さすがにうまいことを言うもんだ。
アトランティックレ-ベル原盤7225で、国内盤はワーナーパイオニアから出ていた4582。1949年と1953年の、初期の録音13曲を収録。故中村とうよう氏の解説が付いている。アトランティックは、後にレイ・チャールズで成功するが、ニューヨークを拠点としたR&B中心のレーベルだ。その為か、このアルバムも、どちらかと言うとブルースやブギウギを前面に出しているように感じられる。バックのホーンやドラムスも好演していて、聴きやすく、好盤と言える。
FUELというレーベルのCD302 061 1742。下の画像は、CDの裏面。
ライブ盤で、1976年ニューオリンズ・ジャズ&ヘリテージ・フェスティヴァルからのライブ収録14曲。50代後半の頃の演奏ということになり、亡くなる4年ほど前だが、聴衆を引き込む力は健在。この日は選曲なども自由に出来たようで、バックのパーカッションやベースとの息もあっていて、聴いているとルイジアナのバイユー(湿地帯)にいるような気になってくる。ここに、ドクター・ジョンなどに影響を与えたとも言われる、ルイジアナピアノの原型がある。
1曲目は「Tipitana」となっているが、これはロングヘアの代表曲のひとつでローカルヒットした「Tipitina」の誤りと思われる。3曲目の「Jambalaya」は、ハンク・ウィリアムスのヒット曲。さらに、最後の曲「Bald Head(禿げ頭)」というのは、自分のことではなく、ロングヘアが昔付き合っていたガール・フレンドのことらしい。その彼女もミュージシャンで、ステージに上がる時に照明の当たり方で髪が光り、客席から「Bald Head(禿げー)」と声が掛かったという。それが為にか、彼女はロングヘアの前から姿を消したという。