文化逍遥。

良質な文化の紹介。

わたしのレコード棚ーブルース101 Sonny Boy Williamson #1

2020年08月27日 | わたしのレコード棚
 初代サニー・ボーイ・ウィリアムソン(Sonny Boy Williamson #1)は、本名ジョン・リー・ウィリアムソン(John Lee Williamson)。生年は資料によりまちまちで、下のLPジャケット裏の解説では1912年、『The Big Book Of Blues』では1914年、『The Story Of Pre-War Blues』では 1916年としている。月日は3/30で確からしい。生地はテネシー州ジャクソンで、メンフィスなどでハープ(10穴ハーモニカ)を修行した後、1934年頃シカゴへ。1937年以降ブルーバードレーベルなどに120曲を超える録音を残している。初期のシカゴブルースを形成した中心人物の一人、と言えるだろう。前回紹介したジャズ・ジラム同様、ビッグ・ビル・ブルーンジーなどがギターでバッキングを務め、ピアノのジョン・デイビスなどと共に、ご機嫌な都市部のブルースを演奏し歌っている。
 亡くなったのは、1948年というから戦後すぐの頃で、6月1日シカゴのサウスサイドのクラブから自宅へ帰る途中にアイスピックで刺された、という。まだ、30代中頃だったことになる。その後、この人の人気にあやかったのか、2代目サニー・ボーイ・ウィリアムソン(Sonny Boy Williamson #2)本名ライス・ミラー(Rice Miller)が出て、初代とはかなり違うスタイルのハープを吹き、人気が出るようになる。今では、サニー・ボーイ・ウィリアムソンと言えば、こちらのライス・ミラーの方を指すようだ。念のために書いておくと、ライス・ミラーの生年は1910年で、初代サニー・ボーイよりも歳が上だった。まあ、その辺りが芸人の「したたかさ」と言えるのかもしれない。


 アーホーリー・レーベルのLP、BC3。1937年から1944年にかけての16曲を収録。ブルースファンとしては、このビッグ・ビル・ブルーンジー(右)と一緒に収まったLPのジャケットの写真を見ただけで胸に迫り来るものがある。シカゴブルースの源流と言ってもいい一枚。この人のハープとヴォーカルのバランスは絶妙で、その点では、これからも先もサニー・ボーイ・ウィリアムソンを超えるハーピストは出ないのではないか、そんな気がする。


 ドキュメント・レーベルのCD5059。コンプリートレコーディング・シリーズのヴォリューム5で、上のLPより後期の1945年から死の前年の1947年まで24曲を収録。

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わたしのレコード棚ーブルース100 Jazz Gillum

2020年08月24日 | わたしのレコード棚
 ジャズ・ジラム(William"Jazz"Gillum)は、わたしの最も好きなハーピスト(10穴ハーモニカプレイヤー)・ヴォーカリスト。生まれは、1904年9/11ミシシッピー州インディアノーラで、シカゴには1923年頃に出てきたという。そのシカゴでは、ウォシュボード・サムやビッグ・ビル・ブルーンジーらと共に活躍し、ブルーバードレーベルのレスター・メルローズに見出されて多くの録音を残している。技術的には後のシカゴ・ブルースのハーピストとはかなり異なり、シンプルだが一音一音を大切にする音使いは、郷愁を誘われる。ジャズ・ジラムの吹くハープの音を聴いていると、汽車に乗ってどこか遠くに連れて行ってくれるような気さえしてくるのだ。現在のハーピスト達は、曲のキイそのままではなく、4度か5度上のハープを使うことが多い。たとえばCのキーではFやGのハーモニカを使う。これは、ハーモニカを吸ったときに出す音の方がコントロールしやすく、ベントもしやすいためだ。が、ジラムは、曲のキーと同じハーモニカでストレートに演奏したと言われている。ジラムの吹くハープの音色には、その方が合っていたと思われる。
 その後、1942年には陸軍に入った。戦後は、再びブルーバードやヴィクターで録音するも、すでにモダンなシカゴブルースがもてはやされる時代になっており、脚光を浴びることはなかった。1966年3月29日、シカゴで銃撃にあい、命を落としている。


 ドキュメント・レーベルのCD5197。ジャケットには「1936-1949」となっているが、このCDにはヴォリューム1として、1936年4月から1938年12月までの録音23曲を収録。ギターは全曲でブルーンジーが、38年の録音ではジョージ・バーンズ(George Barnes)という人がエレキ・ギターで加わり見事なバッキングをしている。余談だが、ブルースのギターリストたちはエレキギターを使い始めるのが早く、しかもそれを使いこなしていたことに驚かされる。手元の資料ではリッケンバッカーがフライパンと呼ばれるエレキ・ギターを開発したのが30年代初頭で、ギブソンがES-150(後にチャーリー・クリスチャンモデルと呼ばれるもの)を商品化したのが‘36年となっている。当時の流通事情を考えれば、ほぼ発売と同時に使い始めたことになる。ブルーンジーも’40年頃にはエレキギターを使っていたと思われるし、たいしたもんだ。


 こちらは、上のCDより後の時期の録音を収めたLP、ウルフ・レーベルのWBJ002。’46~’47年では、ウィリー・レイシー(Willie Lacey)という人がエレキギターを担当している。詳しいことはわからないが、この人もうまい人で時代を先取りしたようなピッキングに驚かされる。

同、裏面。


 ジャケット裏の写真を大きくしたもの。右の写真、写っているのは左からジャズ・ジラム、ビッグ・ビル・ブルーンジー、レスター・メルローズとその下にいるのがウォシュボード・サム、ピアニストのルーズベルト・サイクス、セントルイス・ジミー。
 芸名に“ジャズ”と称しているように、リズムは重いシャッフルではなく、4ビートに近い。ウォシュボード・サムやビッグ・ビル・ブルーンジーの安定した4ビートリズムに乗って奏でられるヴォーカルとハープ。ブルース・セッションに参加しているハーピストの何人かに「ジャズ・ジラムって知ってる?」と聞いてみたことがあるが、知っている人はいなかった。実に、もったいないことだ。

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わたしのレコード棚ーブルース99『Mississippi Blues & Gospel』

2020年08月20日 | わたしのレコード棚
 オーストリアのDOCUMENTレーベルのフィールドレコーディング・シリーズからの一枚、DOCD-5320『Mississippi Blues & Gospel』。アラン・ローマックスなどにより1934-1942年に録音されたものを編集、25曲を収録。このシリーズについては、すでに何枚かをこのブログでも紹介している。農場(Plantation)や収容所(State Penitentiary)などで簡易的な録音装置で録音されたものなので音質的には聞きづらいところも多い。が、このCDも、特にブルースギターを弾く者にとっては、極めて重要な曲を収録しているので紹介しておきたい。



 注目すべきは、ウィリアム・ブラウン(William Brown)の1942年7/16にアーカンソー州サディー・ベック農場(Sadie Beck's Plantation)で録音された3曲だ。このウィリアム・ブラウンについては、以前は、サン・ハウスなどと活動したデルタブルースの名手ウィリー・ブラウンと同一人物と考えられていたが、今では、別人というのが通説になっている。聴き比べてみても、声の質もリズムの取り方も異なるように感じられる。生没年など、詳しい事跡は分かっていない。
 さて、その3曲とは以下の通り。
1.Mississippi Blues
2.East St.Louis Blues
3.Ragged And Dirty
 この中でも「Mississippi Blues」は、ギターパートだけを教則本などで取り上げられることが多い名曲だが、原曲は6分を超える長い曲で語りに近い歌も入る。ピアノの音をギターに置き換えたとも言われるが、1942年にこんなにも複雑で、洒落たヴォイシングがどうして出来たのか、ギターを弾く者の端くれとしては、驚きと賞賛しかない。余談だが、わたしがコピーした限りでは3フレットにカポを付けてのAモードで、キーはCになる。さらに、ブギウギ調の間奏のところでは1弦12フレットを左手小指で押さえ続けて弾く。ここのギターブレイクは教則本には載っているのを見たことがないので、参考までに。
 あとは、ブッカ・ホワイト(Buukka White)が、パーチマン・ファームで1939年5/23に残した2曲も貴重な録音。「Sic 'Em Dog's On」と「Po Boy」で、やはり、ギターの教則本で取り上げられることの多い曲だ。ブッカ・ホワイトは、戦後のフォークリバイバル・ブームで「再発見」され、バンドでの演奏なども残している。が、やはり戦前の演奏を聴くと、なにか別物の・・つまり、聴衆やプロデューサーに拘束されていない自由な場での魂のこもったブルースを演奏しているように感じられる。

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残暑

2020年08月17日 | 日記
 今年は梅雨が長かったが、8月に入って急に気温が上がってきた。このところ千葉でも35度前後の気温が続き、厳しい暑さが続いている。我が家は、千葉市でも海からの風が入るところなので昼間の気温はさほど上がらず、関東の内陸部のように40度近くになることはほとんどない。エアコンを入れていない部屋の寒暖計で33度位だ。しかし、夜は気温が下がらない。ここ数日の最低気温は、28度ほど。なので、どうしてもエアコンを入れて休むことになる。個人的にはエアコンを入れて寝るのは嫌いなのだが、この暑さではいかんともしがたい。暦の上では、立秋は過ぎているので「残暑」ということになる。元気に秋を迎えたいが・・すでにかなり夏バテ気味。

 この暑さの中でも、千葉競輪の建て替え工事は続いていて、かなりドームが出来てきた。「危険な暑さ」と言われていても、高所で作業をする人達もいるのだった。


7/19撮影。


8/16撮影。

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わたしのレコード棚ーブルース98 Jesse Fuller

2020年08月13日 | わたしのレコード棚
 「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」で有名なジェッシー・フラー(Jesse Fuller)は、1896年3月12日にジョージア州ジョーンズボロ(Jonesboro)で生まれ、1976年1月29日カリフォルニア州オークランドで亡くなっている。ブルースに限らず、レパートリーも多く、黒人フォークシンガーというべき人。実際、「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」などは、いわゆる3コードのブルース進行の曲ではなく、少し複雑なコード進行になっている。その為か、ブルースファンからは敬遠されることもあるようだ。いずれにしろ、優れたミュージシャンであることは間違いはない。
 LPのライナーノーツなどによると、東部ジョージアでの暮らしは、随分と苦しいものだったらしい。父親のことは何も分からず、生きるために様々な職を転々とする日々を送ったという。1917年頃にカリフォルニアに移動して、1920年代には当時のサイレント映画のエキストラなどもしたという。音楽には元々才能があったのだろう、各地方で親しんでいたフォークソングなどを自分なりに消化していったようだ。ただし、演奏して収入を得るようなことは少なく、パーティーやストリートなどでチップを稼ぐ程度で、あくまで小遣い稼ぎだったらしい。自分で、曲を作り歌って収入を得るようになったのは、50歳を過ぎたころからだという。「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」を書いたのも1954年で58歳ころのことになり、本格的なレコーディングを始めたのは1955年で、60歳近くになってからということになる。さらに、ニューポート・フォーク・フェスティヴァルに出たのは、1964年で68歳ころのことになる。その頃には、ヨーロッパへツアーに出たりしている。若死にするブルースマンも多いが、老年になって活躍するブルースマンも結構いる。その違いは何なのか、自分も老年と言える歳になり、是非とも知りたいところだ。


 イギリスのACEレーベルのLP、CH226。もとは、FANTASYレーベルから1963年に出たもの。
 ジェッシー・フラーは、いわゆる「ワンマンバンド」で、12弦ギターを弾きながら同時に他の楽器を演奏する。下の写真はLPの裏にあるものだが、左に写っているのが「フットデラ(fotdella)」と呼ばれる、フラーオリジナルの楽器。ピアノ線を張った箱に、ハンマーをつけ、右足で踏みながら低音を出す、言ってみれば「足踏みベース」とでもいったところ。さらに、左足ではドラムスで使うシンバルを踏み鳴らす。首には、ホルダーにブルースハープ(10穴ハーモニカ)とカズーをセットしヴォーカルの合間に吹き鳴らす。



 これが、実際に演奏しているところ。ヴィデオの映像をデジカメで撮ったので不鮮明なのはお許し願いたい。が、言葉で説明しても、なかなか想像しづらいだろうから、敢えてやってみた。努力だけは認めてもらいたいところ。

 しかしですよ、一口に「ワンマンバンド」と言うけれど、簡単にはできないですよ。わたしなどはギターを弾きながら歌うだけで精一杯なのに、その上、両足まで使って演奏するなんて「驚き」と言うしかない。ブルースマンの中には、もしもこの人が音楽教育を受けていたら世界的なミュージシャンになっていたかもしてない、と感じる人が何人かいる。ジェッシー・フラーも、その一人だ。まあ、音楽教育を受けずにいたので良いブルースが出来た、とも言えるのだが。

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2018年アメリカ映画『パブリック』

2020年08月10日 | 映画
 8/6(木)、千葉劇場にて。監督・脚本・製作・主演は、エミリオ・エステベス。





 アメリカ合衆国のオハイオ州シンシナティ。地理的には、かなり北に位置し、シカゴのように冬は酷寒と言える寒さに襲われる。そんなシンシナティの公共図書館。寒波に襲われた朝、開館前にホームレスが列を作っている。開館と同時に彼らはトイレなどで髭を剃り、歯を磨いている。ニュースでは、夜間に凍死したホームレスのことなどが流れる。町にはホームレス向けのシェルターがあるにはあるが、収容できるキャパシティーが足りず、冷え込む路上で寝たまま凍死する者もいるのだった。そんな状況の中で夜が迫り、シェルターに入れなかったホームレス達は、図書館を臨時のシェルターとして開放するよう求め、占拠の止むなきに及ぶが・・・。

 この映画が、どれほど現実を描いているのかは分からない。が、アメリカにはホームレスが70万人いるとも言われている。特に、リーマンショック後は深刻化したという報道もある。それを考えると、あながち、空想物語でもないのだろう。差別社会の深刻さを知るうえで、一助にはなる作品。

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2018年韓国映画『はちどり』

2020年08月06日 | 映画
 8/4(火)、千葉劇場にて。監督・脚本は、キム・ボラ。繊細な映像で、少女の内面を描いた作品。2時間18分の映画だが、さほど長いとは感じなかった。英題は「House of Hummingbird」。





 1994年のソウル。中学2年、14歳のウニは、餅屋を営むの両親と、兄、姉、5人で暮らしている。団地の9階で狭い部屋での暮らしだが、食事に困ることはなく、生活用品もそろっている。しかし、両親は仲が悪く、姉は口うるさい父を避けつつ男と遊んでいる。兄は受験期でイライラして時にウニを殴ったりする。そんな環境の中で、ウニは自己肯定感が低く、なかなか居場所を見つけられない。恋人や友人の裏切り、学校では「不良」扱いされて、父はやたらと威厳を振り回しているが裏では何をしているかわからず、母は時に精神的に不安定になっている。そんな状況の中で、通っている漢文塾に新たに来た女性教師ヨンジはウニと心を通わせようとしてくれるが・・・。

 38歳の女性監督の作品で、自らの少女時代を重ねたという、自伝的作品か。

 この作品は、韓国社会の歪をも描いているが、多かれ少なかれ、先進国が持つ病理ともいえる。世界人口の中で、栄養が足りているのは三分の一程だという。世界には、飲み水に困る人々もいる。そんな中でも、衣食足りている社会に暮らす人々は、自らの利益を得ることに戦々恐々とし、他人を蹴落とすことばかりしている。この映画は、そんな「先進国」の矛盾をも描いているのかもしれない。良い作品、と感じた。

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「ライト」ブルース・セッション2020/8/1

2020年08月03日 | ライブ
 8/1、千葉のライブハウス「ライト」第一土曜恒例の「ブルース・セッション」に参加してきた。
 新型コロナウィルスの感染者が再び増加する中でのセッションで、正直言って不安もあった。が、参加者も店もしっかりと対策をしたうえで営業を続けていかなければ、人が集まり文化活動が出来る場も、大切な文化そのものも無くなってしまう。そんな危惧もあり、「ライト」のセッションだけは可能な限り参加していきたい、と思っている。幸い「ライト」はマスターが几帳面な人で、考えられる対策は全て施されている。具体的には、入り口での手指消毒、検温、休憩中の換気、など。当然、ステージや客席間などには飛散防止のためのアクリル板なども設けてあり、入場者には演奏中もマスクの着用を義務付けて、千葉市から優良店としての認定も受けている。


 千葉には、「ライト」の他にも、ブルース・セッションやオープン・マイクなどを定期的に行っているライブハウスが複数あり、参加してみたい気持ちもあるのだが、新型コロナウィルスの感染が収束するまでは様子を見るしかない、と感じている。

 さて、この日も参加者は少なめだったが、結構盛り上がった。わたしの演奏曲は、順不同で以下のとおり。
1.Stranger Blues
2.I'm A Steady Rollin' Man
3.Love In Vain
4.Take A Little Walk With Me

5.Dust My Broom
6.夜明け前の静けさの中で(オリジナル曲)

7.Sliding Delta(独奏)
8. Trick Star(オリジナル曲、ギター独奏)

9.Walk On
10.CrossRoad Blues


 左端で歌っているのが、わたし。ギターは、エレキの12弦。皆マスクをしているので「謎の集団」といった感じ。

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