文化逍遥。

良質な文化の紹介。

2014年スペイン映画『サクロモンテの丘』

2017年02月27日 | 映画
 2/24(金)、千葉劇場にて。副題は「ロマの洞窟フラメンコ」。監督は、チェス・グティエレス。


 久々に買った映画の有料パンフレット、800円。

 最近、テレビやラジオから流れてくる音楽を聞くと、その多くがあまりに軽薄で心が寒くなることが多い。言葉は取ってつけたような浮薄さ、音はデジタル処理された機械的なもの。正直言って、耳を覆いたくなる。これも、加齢のなせるものかと、諦めていた。若い世代にはそれなりの価値観と云うものがあるのだろう。が、やはり、失ってはならないものがある。文化が、それに接した人の人格形成に貢献する。それが本物ということだ。
 この映画は、その本当の文化を伝えてくれている。スペイン南部グラナダ、アルハンブラ宮殿の北側に広がる丘陵地帯にあるというサクロモンテ。丘の中腹、天然の洞窟を利用して暮らすロマの人々。そこに世代を超えて伝えられる、歌・踊り・ギター。踊り手を中心に追っているのは少し残念だが、カメラワークも素晴らしく、完成度の高いドキュメンタリー映画に仕上がっている。



 1991年に日本コロンビアから出たCD『真夜中のグラナダ洞穴フラメンコ』の解説書。裏表紙にあたる写真左側に写っているのがサクロモンテの丘。見てわかるとおり、「洞窟」と云っても原始的な生活をしているわけではなく、自然な地形を利用して作られた町だ。



 1993年9月、東京の青山劇場で行われた「クリスティーナ・オヨス舞踊団」公演を見に行った時に買ったパンフレット。クリスティーナ・オヨスは、スペインの国宝とも言われる人で、その踊りには圧倒された。もう20年以上前にもなるが、公演終了後、隣に座っていた見ず知らずの年配の女性が一言わたしに云った「すばらしかったですねえ」。今回、この映画を観て、あの時のことが思い起こされた。

 フラメンコ・ファンに限らず、お奨めの作品。

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国立演芸場2月中席

2017年02月23日 | 落語
 2/20(月)、三宅坂の国立演芸場へ行ってきた。



 前半は落語で、蝶花楼馬楽は『時そば』、林家正雀は『紙入れ』、金原亭馬生は『稽古家』。さすがベテラン陣、落とし所を心得た話しぶり。この中席では漫才など色ものの芸人さんが出ていないので、金原亭世之介と古今亭菊春は二人で漫才をこなしていた。中入りの休憩をはさんで後半は「鹿芝居」。これは、「噺家芝居」の洒落。要は、座興と云うか余興というか、本来の芸の他に客に楽しんで貰うためのものだろう。年に一回、ここ国立演芸場で芝居好きな噺家さん達が集まって行われているようだ。今回は、古典落語の『らくだ』を題材として、『たらちね』の要素を加えて昔の長屋の様子をおもしろ可笑しく仕上げたもの。一見、ふざけているだけのようにも見えるが、計算された舞台づくりがなされ、芸達者が集まればこそ出来る芝居だ。入場料はいつも通りで、税込2100円。歌舞伎などに比べれば、舞台装置や裏方の人数は違うものの、それでもかなり割安。庶民が気安く楽しめるお芝居で、10日間11回(夜席1回)の興行は全て満席だったというし、これからも続けてほしい、と思った。

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千葉市美術館所蔵浮世絵名品展

2017年02月19日 | アート・文化
 2/17(金)、千葉市中央区役所に所用があり出かけたので、同じ建物の上階にある市立美術館に寄った。
 千葉市美術館は、江戸期の浮世絵などを中心に所蔵しており、今回の展示はその中から「春を寿(ことほ)ぐ」というテーマに因んだ作品が選ばれている。中でも葛飾北斎の有名な作品「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」や、東洲斎写楽の「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」は、迫力があった。



 江戸の当時、量産された多色刷り木版画は、鑑賞するためというよりも襖の破れた部分の上に糊で貼ったりして使ったらしい。云わば、主に補修のために使う目的で買い求められたらしい。それゆえ、完全な形で今に残るものは数も少ない、ということになる。しかし、襖に「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」などの木版画を貼って暮らしていたとは、なんという贅沢。うらやましい限りだ。

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三木卓著『裸足と貝殻』

2017年02月17日 | 本と雑誌
 このところの眼精疲労で、映画鑑賞や読書を控えていた。が、やはり本は読みたい。図書館には、数は多くないが「大活字本シリーズ」という文字を大きくした本のコーナーがあるので、その中から選んで読んでいる。読みやすく、目には楽なので、大いに助かっている。今回は、そんな大活字本シリーズの中から借りて読んだ一冊。三木卓著『裸足と貝殻』。単行本では500ページほどの小説だが、活字が大きくなるのでページが増えて上・中・下の3分冊になる。

 第二次世界大戦の敗戦にともない、旧満州から引揚船で母の郷里である静岡へ向かう少年「豊三」。満足に食事も摂れない中で、豊三一家は血縁の薄い親類を頼らざるを得ない。やがて、なんとか静岡での暮らしも落ち着き、豊三は地元の小学五年生に編入する。戦後の複雑で混乱した政治状況に翻弄されながらも、少しずつ大人になり、新制中学を卒業するまでの日々を綴った自伝的小説。
 やはり、この人の心理描写はすばらしい。読んでいて、思わず感心させられる。一方で、やはり大人から思い起こした少年時代なので、話がまとまり過ぎているようにも思われた。1999年、第51回読売文学賞受賞作。

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尺八、2尺3寸管

2017年02月12日 | 楽器・エッセイ
 最近、下手ながらも尺八を吹いていると、なんとか音になってきた。続けてみるもんだ。

 そうなると、低い音の出る長めの尺八が欲しくなり、2尺3寸のものを買った。基準となる長さが1尺8寸なので「尺八」と云うが、音の高低により異なる長さがある。たとえて言えば、サクソフォンにも低い方のバリトン・サックスからテナー、アルト、そしてソプラノ・サックスといったように担当する音域により使い分けられるのようなものだ。基準となる1尺8寸管の全ての孔を塞いだ音がDで、1寸異なるごとに半音変わる。たとえば、1尺7寸管だとD♯、1尺9寸管はD♭(C♯)になる。ただし、これは極めて大事なことだが、もとより西洋音楽の音程に合わせて作られた楽器ではないのでA音=440hzというようなピッチがあらかじめ決められているわけではない。あくまで目安。現在では、伝統音楽以外の楽器と共演する時などは西洋音階に合わせるため、音により微調整をして演奏する。具体的には、メリ・カリと呼ばれるもので、首というか顔を上下させて音程を微妙に変える。わたしは、もちろんそこまで出来ない。1寸異なるごとに半音変わる、というのもあくまで大よそのこと。今では、その誤差を可能な範囲で修正した「正律管」というタイプも出ている。



 長さの比較のため1尺8寸管の尺八と並べた写真を撮ってみた。右が今度買った管。正律管なので実際の長さは2尺4寸近くある。基準音はAになり、1孔からラA-ドC-レD-ミE-ソG-ラAとなる。つまり、1孔からだとマイナーのペンタトニック、2孔からだとメジャーのペンタトニックになる。半音等を出す時には、孔を塞ぐ範囲を変えて、半開などにする。
 今回入手した尺八の材質は「合竹」と云われるもので、竹を原材料にした合板。最近は、楓などの木材を使ったものも出ていて、本物の竹に比べるとかなり安く手に入る。本物の竹で2尺3寸だと、安いものでも20万円近くはするだろう。合竹では、その4分の1くらいで、木だと5分の1くらいの値段になる。ちなみに、写真左の尺八は市原市の福田さんという制作家の手による竹のものだが、展示中に乾燥により亀裂が入ったものを修復・調整して安く売りだされていたもの。それをさらに値引きして譲ってもらった。3万円で少しおつりが来るくらいだったか。わたしには、それで十二分だ。

 2尺3寸の長さでも音は出しにくくはなく、予想していたほど重くなかった。しかし、孔まで遠いのでおさえにくく、吹口に対する口の位置がずれやすい。孔の位置をもっと吹口に近くすれば良い、と思うかもしれないが、それだと音が合わなくなる。手の長い人でないと無理そうだ。がんばって練習したい。


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わたしのレコード棚―ブルース32、Huddie Ledbetter、

2017年02月07日 | わたしのレコード棚
 Huddie Ledbetter、ヒューディー・レッドベター。ブルースマンというより、もっと広く民俗音楽家、つまり言葉の元の意味でフォーク・シンガーと云えるミュージシャン。巷に漂っているような口伝えの唄を拾い自分なりにアレンジしたり、大衆の言葉を拾いつつ唄にしたりして12弦ギターで演奏し続けた。一般的には愛称の「レッドベリー、Leadbelly」という名の方が通っている。その名の意味は「麦わら帽子のオヤジ」という程のもので、ビッグ・ビル・ブルーンジーによると、「麦わら帽をかぶった労務者の頭だった」かららしい(『ブルース・ギタリスト』p179より)。また、若い頃刑務所から脱走して、逃亡中には「ウォルター・ボイド-Walter Boyd」と名乗っていたという。

 そんなこんなで、波乱の生涯を送った人だった。我が家にある音源と共に、時代に沿って見直してみたい。

 生年については諸説あるが、1885年~1889年頃で、生地はルイジアナだったらしい。生来、気が荒く、自信家でトラブルが多かったという。1916年にテキサスで最初の投獄、数ヵ月後脱獄。その後もトラブルを起こして、1930年には10年の刑を受けてルイジアナの州立刑務所に収監される。そこにいた時、民俗音楽研究家のローマックス親子によって録音が行われた。


 そのローマックスによる録音。DOCUMENTから出ているCD『Field Recordings・Volume 5: Louisiana,Texas,Bahamas(1933-1940)』。左上の囚人服を着ている写真がレッドベター。1933~1934年録音のメドレー曲など7曲を収録。この収録の後、ローマックス親子が録音を州知事に聞かせ、なんとか釈放されたという。


 COLUMBIAから出たLP『Ledbelly』。ルイジアナの州立刑務所を出た後、1935年、ARCでの録音、16曲。
 その後1930年代の終わり頃、酒におぼれ、再び暴力を振るうようになったためニューヨークの拘置所に入ったという。1940年春、釈放。それからは気質が変わり、マンハッタンの住人となり、音楽集団「The Headline Singers」の一員として活動した。


 RCA(bluebird)オリジナルのドイツBMGのCD。1940年、ニューヨーク録音。全16曲で、その内8曲でゴスペルグループのThe Golden Gate Jubilee Quartet が共演している。


 FolkwaysのCD『The Original Vision』。レッドベターとウッディ・ガスリーを中心に、1940~1947年の録音20曲。他に、「The Headline Singers」として活動していたと思われる当時のメンバーが参加している。具体的には、サニー・テリー、ブラウニー・マギー、シスコ・ヒューストン、など。フォーク・ファンには極めて貴重な録音と云えるだろう。

 1949年秋ヨーロッパツアー中に病に倒れ、同年12月ニューヨークで亡くなっている。

 とにかく、この人の後の音楽への影響は少なくない。特にフォーク、ロックなどへの影響はとても大きい。CCRの「ミッドナイトスペシャル、Midnight Special」などもこの人のオリジナルなのだ。また、12弦ギターを使った独自のプレイは、現代のギター・プレーヤー、たとえばレオ・コッケなどにもかなりな影響を与えていると感じる。録音は古いし、ノイズも多く、ミスタッチも含まれるが、生きた言葉と生きた音を今に伝えてくれている。

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わたしのレコード棚―ブルース31、Richard "Hacksaw" Harney

2017年02月01日 | わたしのレコード棚
最近、聴きなおしているCDの中から一枚。Genesというレーベルから出た1972録音のCD、GCD-9909『Richard "Hacksaw" Harney―Sweet Man』。



 Richard "Hacksaw" Harney、リチャード“ハックソー”ハーニー。ほとんど知られていないのは残念だが、ブルース・ラグタイムギターの歴史を語る上で忘れてはならない人、と個人的には思っている。この人のギターはうまいだけでなく、何とも言えぬ深い味わいがある。ただ、このCDに入っている10曲中、歌っているのは2曲だけで、ヴォーカルはあまりうまいとは言えない。そのあたりが、あまり注目されなかった理由かもしれない。若い頃は、兄と「Pet and Can」というコンビでメンフィスを中心に他のミュージシャンのバッキングをつとめていたという。ボクサーをしていた時期もあるらしく、“ハックソー”(金鋸)はリングネームだったらしい。

 1902年ミシシッピーの生まれというが、ギタースタイルはブラインド・ブレイクやブラインド・レモン・ジェファーソンなどの影響も感じられ、多くのスタイルを吸収したように聞こえる。それゆえ、この人の録音を聴くとブルースを地域で分けて考えるのはあまり意味が無いのではないか、とさえ感じられる。亡くなったのは、1973年12月。


Documentレーベルから出ている『Memphis Blues』というオムニバス盤。この中で、Pet and Can(Maylon and Richard Harney)として、Walter RhodesとPearl Dicksonというヴォーカリストのバックをギターデュオで計4曲(ともに1927年録音)つとめている。


Yazooのヴィデオ『Good Mornin' Blues』。この中で、『Guitar Rag』というギターソロ1曲だけだが“ハックソー”ハーニーの動画が見られる。全編のナレーションはB.B.King。


『Gibson's Fabulous Flat-top Guitars』という本の中、80ページにあるギブソンのJ-200というギターをかまえた写真。1971年、ヴァージニア州ヴィエンナで行われたナショナル・フォーク・フェスシヴァルNational Folk Festivalからのワンショット。ただし、このギターが本人の所有しているものかどうかは不明。

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