文化逍遥。

良質な文化の紹介。

NHK、ETV特集『隠されたトラウマ~精神障害兵士8000人の記録』

2018年08月28日 | 日記・エッセイ・コラム
 毎年夏になると、戦争関連の優れたドキュメンタリーを放送するETV特集。今年も、記録や証言を時間をかけて収集し緻密に精査・編集された作品が放送されている。特に、8/25(土)夜11時から放送された『隠されたトラウマ~精神障害兵士8000人の記録』は、良く出来ていた。

 戦闘によって精神に障害を負い、痙攣を起こしたり歩行が困難になり内地に送還され入院していた兵士たちの記録。兵士たちが入院していたのは、現在の千葉県市川市にあった「国府台(こうのだい)病院」で、カルテなどは戦後焼却命令が出ていたが医師達の尽力で秘密裏にドラム缶に詰められ保存されていたという。8000人分の診療記録だが、極めて貴重な史料だ。もともと素朴な生活をしていた庶民が、殺し殺される極限状態に急に置かれるわけだから、精神的に正常ではいられるわけもない。軍は戦争を遂行する上で、それを極秘にしていたのだ。8000人分というのは氷山の極一角にすぎないだろうが、今に伝わっていることは奇跡的だ。重要文化財として管理すべきレベルの史料だ。

 戦闘機からの機銃掃射を被弾した場合などでは、人の体は粉々に飛び散り、内臓の破片が周囲に飛び散って残っただけだったとも言われてる。敵機を撃墜するだけの威力を持った機関砲から出る銃弾をまともに浴びればそうなるのも必然だ。それを目の当たりにして精神の均衡を保てるわけもない。補給さえも断たれた南方などでは、おそらく精神障害兵士達は置き去りにされたか、あるいは大声を出すものなどは秘密裏に銃殺されたかもしれない。現代兵器による戦闘とはそういう残虐さを内に含んでいる。

 こういう番組を夜の遅い時間に、1時間の枠で放映するのはもったいない。おそらく、かなりな部分が編集の段階で割愛されていると思われる。NHKも、やろうとおもえばやれるんだから、わけのわからないテレビドラマなどは止めて、良い番組を良い時間帯にしっかり放映してもらいたい。

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坂口尚著『石の花1~5』講談社漫画文庫

2018年08月24日 | 本と雑誌
 坂口尚(ひさし)は、1946年東京まれ。1963年に手塚治虫の「虫プロ」に入社。その時16~17歳で、まだ定時制高校に在籍していたが、その後仕事との両立が出来なくなり学校はやめたという。作画およびストーリーの構成力は抜群で、この人の作品を読むと、自分が大学の文学部を卒業していることが恥ずかしくなる。1995年、急性心不全により49歳で亡くなったのが惜しまれる。



 『石の花』は、1941年に旧ユーゴスラビアがナチスドイツやイタリアなどに分割統治されてから、チトー率いるパルチザンによって解放されるまでを描いたコミック作品で、初出は1986年『月刊コミックトム』(潮出版社)。5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つといわれる複雑な国家だったユーゴスラビア。それが1990年以降の内戦を経て、今は分離独立。しかし、内部には依然紛争の種が燻り続けている。ヨーロッパ、特に東ヨーロッパから中東の地理や宗教のことはなかなか理解しにくい。たとえば、カトリックと東方正教会の教義が具体的にどのように異なるのか、なぜその違いが市民戦争にまで行きつくのか。おそらく、対立する利害関係がそこにはあるのだろう。この作品を読み直すのは、今回が3回目くらいだ。読むたびに勉強になる。

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わたしのレコード棚―ブルース59、Magic Sam

2018年08月19日 | わたしのレコード棚
 今年に入ってから、ブルースのセッションに参加しているが、他の人達はシカゴなどのモダンな都市部のブルースを演奏する。なので、参考にしようと思い、LPの棚からマジック・サムのライブ盤を引っ張り出してきて聴いている。わたしからすると、やはりソウルあるいはロックに近い8ビートのリズムで、本質的にカントリー系のブルースとは異質なものと感じる。



 マジック・サム(Magic Sam)は、本名Sam Maghett。1937年2月にミシシッピ州グレナダに生まれ、1969年12月1日にシカゴで亡くなっている。シカゴのウェストサイドで活躍。心臓麻痺で急死したらしいが、まだ32歳の若さだった。優れた演奏テクニックと、ストラトキャスターを駆使した斬新な音質、ギターとの一体感、それらで聴く者を捉える事にたけている。が、それが為に命を削ったように感じる。正直言って、1969年すなわち亡くなった年のライブなど聴くと「この音を出し続けるのは、体に重いだろう」と、感じるし、聴衆に載せられてさらにエキサイトしてゆく演奏は痛々しささえ感じる。

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水木しげる著『コミック昭和史1~8』

2018年08月14日 | 本と雑誌
 今年も、広島と長崎の原爆忌が過ぎ、8月15日がやってくる。酷暑の中での長崎の追悼式典では、国連事務総長のスピーチが心に残った。
 そして、8月8日には翁長雄志(たけし)沖縄県知事が67歳で亡くなった。もともとは自民党の沖縄県連会長で、辺野古移転も容認していたというが、政府のあまりに一方的な対応に反発して基地移転を容認しない人の中心的存在になったという。この人は1950年沖縄生まれで、1975年に法政大学の法学部を卒業している。わたしが同校に入学したのが1977年で、すでに翁長氏は卒業した後だし、わたしは文学部だったので知りえることはない。が、市ヶ谷の校舎などは同じで、当時の混乱したキャンパス状況はさほど変っていなかったはずだ。70年安保闘争の余韻が残り、移転問題があり、さらに新左翼の各セクトのせめぎ合いの末の内ゲバ、挙句に死者まで出た。わたしは、5年間在籍していたが、後期の試験が行われたのは1回だけだった。そんな中で青春時代を過ごした沖縄出身の保守政治家が政府に対抗し、癌を患い志半ばで急逝せねばならなかった人生を改めて想い、ご冥福をお祈りしたい。
 実は、もう一人法政大学の法学部を近い時期に卒業した保守の政治家がいる。菅義偉(よしひで)官房長官だ。1948年秋田県生まれで、1973年に卒業しているので、地方出身の翁長氏と境遇が似ており、あるいは学内での面識があったのかもしれない。10日に行われた翁長氏の通夜にもわざわざ沖縄まで行き参加しているのも、あるいはそのためかとも思う。

 沖縄経済は、すでに基地依存度が5%程度だと云われている。観光客が増え、住みやすい気候なので移住者も多く人口は増えている。実際この夏の気象情報などみていると、本州が連日猛暑日を記録しているのに、沖縄は31~2度でとどまっている。これは、アフリカなどでも赤道直下よりもその南北周辺が暑くなり砂漠化するのと同じで、地球規模のフェーン現象らしい。そんなことも考えあわせて、今後の米軍基地の在り方を根本的なところから考えなおしてみたい。



 さて、そんなわけで、平成最後の夏に「昭和」という時代をもう一度考えてみようと思い、水木しげる著『コミック昭和史1~8』を本棚から出してきて読み直していた。著者自身南太平洋に従軍し、左腕を失い帰還するという経験をしている。これはそんな経験を中心に自伝的にまとめられた歴史漫画だ。読んでいるのは講談社のコミック文庫だが、単行本は1988年にコミック社から出ている。なので、書かれたのは1980年代と思われる。つまり、古い史料を参照して書かれている部分も多いので、今となっては史実と少しずれていると言わざるをえない個所もある。が、全体に良くまとめられ、今でも十分読む価値のある長編漫画といえる。

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弦交換ーエレキ12弦(アッシュ)

2018年08月11日 | ギター
 前回に続き、弦の話。
 9月のブルース・セッションではエレキの12弦ギターを使ってみようと思い、練習していたら弦がヘタってきた。仕方なくサウンドハウスに注文して送ってもらった。



 今までは1弦で008のアニーボールを使っていたが、少し細いのでワンランク太くして009にしてみた。ボトルネック奏法では太いほうがいいのだが、いかんせん12弦ギターだとチューニングを変えるのに時間がかかるので、どうしてもノーマルチューニングを中心にセットしたい。ダダーリオだと010のセットがあるが、ちょっときついかな。次に注文する時には、ダダーリオの010のセットにしてみるか。


 左が今回弦を張り換えたアッシュボディの12弦ギター。右はアルダーボディのもので、008のアニーボールが張ってある。使って見た感じは、ピッチも安定しているし、全体に指に馴染み良い感じだ。こういうものが、通販で簡単に手に入るのはありがたい。

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弦交換ーHeritage

2018年08月07日 | ギター
 久々に、メインギターであるギブソンのヘリテージの弦交換をした。
 ブルース系のギタリストは、わたしを含めてあまり弦を交換しない人が多い。特にアコースティックギターでは、高音を多く含んだ新しい弦よりも、少し古くなった方が落ち着きのあるブルースっぽい音になる。なので、切れない限りはあまり交換しない。有名どころではライ・クーダーなどが、噂では、1年ほど弦交換しないらしい。ちなみに、わたしはコーティング弦では2年以上は使っている。
 それはともかく、今回はダダーリオのコーティング弦EXP26(011-052)を張ってみた。交換する前は、エリクサーのコーティング弦だった。ボトルネックで弾いた時に、余計なノイズが生じにくいので最近はコーティング弦を選ぶことが多い。値は張るが、長く使えるので結局は同じようなもんだろう。それだけに、3弦あたりが早くに切れるとガクっとする。人によっては3弦は緩めないらしいが、3弦はけっこう張力が強いのでネックに悪影響がでそうで、気が引ける。最近は、やはりダダーリオからフォスファーブロンズ弦で、表面を平らにした「Flat Top」のEFT~シリーズも出ている。これも使って見たが、フィンガーノイズはほとんど出ないものの、音の切れが悪い感じでしっくりこなかった。



 さて、使った感想。やっぱ、なんだかんだ言ってもダダーリオ。ピッチの安定性は抜群。チューニングしていって、ピタリと音が合うとホッとする。音質的には、コーティングされているためか余計な高音が抑えられていて、すぐに使える、感じだ。逆に云えば、マーチン系の「鈴鳴り」というような音質を好む人には、どうかな、とも感じる。エリクサーより少し安いし、今度からこれにするかなあ。まあ、しばらく使い込んでからまた考えたい。

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2017年アメリカ映画『ウィンド・リバー』

2018年08月02日 | 映画
 7/31(火)、千葉劇場にて。午前10時からの上映に入ったが半分ほど席は埋まっていおり、千葉劇場にしてはけっこう混んでいた。暑いので午前中に観よう、と考えるのは皆同じか。監督・脚本は、テイラー・シェリダン。





 基本的にはサスペンス映画と云えるだろうが、非常に良く出来た作品だった。
 アメリカ中西部、酷寒の森林地帯の中にある「Wind River(ウィンド・リバー)」と呼ばれる先住民居留区で起きた強姦、殺人事件を追うFBIの若い女性捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)と、その捜査に協力するハンターであり遺体の第一発見者でもあるコリー(ジェレミー・レナー)。映画は、二人が事件の真相を追う中で、アメリカ社会から取り残され心身ともに疲弊した先住民達の現実や、辺境の地で働く白人労働者の鬱屈し荒んだ精神性を描いてゆく。

 実際に起こった事件を基に作品化されたという。映画の冒頭では道路標識が大きく映し出され、そこには「Wind River Indian reservation」と表示されている。「インディアン特別保留地」、閉鎖性と差別が今でも横行する土地であることを暗示して映画は始まる。そして、行く手を阻む雪に閉ざされた森林や山々などの映像、緊迫感が最後まで途切れず107分の上映時間が短く感じるほど。あえて、難を言えば、加害者側があまりに「心」を失った非人間的状態に描かれていたように感じたことだったが、いずれにしろ、アメリカの暗部を描いた佳作と言える。

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