文化逍遥。

良質な文化の紹介。

2023年日本映画『大いなる不在』

2024年07月23日 | 映画
 7/17(水)千葉劇場にて。監督近浦啓、出演森山未來、藤竜也。

 人の心のあり様を表すのに「知・情・意」と言われる。すなわち「知性」「感情」「意志」で、それらの調和がとれた状態が「心の安定」と、いうことになる。

 藤竜也が演じる老教授は、かつて「感情」に溺れ家庭を捨て昔の恋人との生活に走り、老いた今、認知症で「知性」を失い「意志」も方向性を無くして、全てが崩壊してゆく。映画の画面は、あえて色調を抑え静かに現在と過去とを往復する。藤竜也の老練な演技はさすがだった。が、認知症だった母の介護と看取りをした経験から言うと、劇中、認知症の人の描き方や介護施設の様子などに違和感を感じた。俳優陣の頑張りが好感を持てる作品なだけに、その点が残念でもあった。



以下は、千葉劇場のホームページより引用。
『卓(森山未來)は、ある日、小さい頃に自分と母を捨てた父(藤竜也)が警察に捕まったという連絡を受ける。妻と共に久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義理の母は行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが―。第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で藤竜也がシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞。(2023年製作/133分/G/日本)』

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2023年アメリカ映画『ホールドオーバーズ』

2024年07月02日 | 映画
 6/26(水)千葉劇場にて。『Holdovers(ホールドオーバーズ)』とは、辞書によれば「残留者」の意で、アメリカでは「落第して留年した者」の意味もあるらしい。ここは、古風な言葉だが「居残り」とでもいったところ。監督アレクサンダー・ペイン。出演、先生役にポール・ジアマッティ、料理長役にダバイン・ジョイ・ランドルフ、生徒役にドミニク・セッサ。

 半世紀ほど前の、マサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。クリスマス休暇で、ほとんどの学生や学校関係者が帰郷してゆく。が、3人の人物がクリスマスから年末年始を学校の中で過ごさねばならなくなっていた。親の都合によって帰る場が無くなった生徒、彼を監督・保護する教師、そして、食事の世話をする料理長。3人は、それぞれ心に深い傷を負い、トラウマに苦しんでいたのだが・・・。

 「グリ-フケア(深い悲しみからの回復)をテーマにした文学的な作品」と思った。登場する人物は多くなく、セリフの多くがこの3人の人物によって語られる。特に、先生役のポール・ジアマッティという俳優さんのいぶし銀の様な演技が心に残った。佳作といえる。
 


 以下は、千葉劇場のホームページより転載
『「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
物語の舞台は、1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。この高校で古代史の非常勤教師を務めるポール・ハナムはみんなからの嫌われ者。そして一人息子を亡くした料理長のメアリー・ラム、優秀だがトラブルメーカーのアンガス・タリー。それぞれ異なる事情を抱える3人が、クリスマスと年末を共に過ごすことに…。誰もいない学校のなか、ちょっとした冒険や災難を通じて、3人の間には小さな繋がりが生まれていく。第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した。(2023年製作/133分/アメリカ)』



映画とは関係ないけど、おまけで、梅雨時に咲く千葉公園の蓮。6/26(水)午前に撮影。

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2023年フランス・ベルギー合作映画『バティモン5 望まれざる者』

2024年06月11日 | 映画
 6/5(水)、千葉劇場にて。監督ラジ・リ。出演アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ。

 パリでは、今年2024年夏にオリンピックが開催される。報道によると、それがために一部の地区で住民が強制退去させられた、と聞く。2023年製作の、この作品はオリンピックとは直接的な関係はないかもしれない。が、行政が警察を動員して住民を強制退去される設定になっていて、その点ではオリンピック開催という行政の都合による住民の強制退去と同じ、と言える。端的に言えば、現代フランス社会の歪みを描いた作品、と言えるだろう。映画の舞台となっているのは、日本の高度成長期に建てられた公団住宅によく似た10階建て程の団地。老朽化が進み、エレベーターなどは故障して長く動かず、通路の照明なども切れ、落書きだらけで住民の心の荒廃も感じられる。しかし、そこでは、確かに人々が生活しているのだった。
 映画の最後、住む家を失った黒人青年が市長の家に乗り込み破壊と放火を試み、帰宅した市長に「住む場を奪われた者の気持ちを味合わせてやる・・」と、泣きながら叫ぶシーンがある。それは、かつて植民地として国を奪われた者の言葉の様にも聞こえた。観ていて、つらいシーンも多かったが、見る価値のある作品、と感じた。



以下は、千葉劇場のホームページより引用
『パリ郊外で移民家族が多く暮らす地区を一掃しようとする行政と住民たちの衝突を緊迫感たっぷりに描き、大都会パリの知られざる暗部を浮き彫りにした社会派ドラマ。パリ郊外に立ち並ぶいくつもの団地には労働者階級の移民家族たちが多く暮らしているが、このエリアの一画=バティモン5では再開発のために老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められている。そんな中、前任者の急逝で臨時市長となったピエールは、自身の信念のもと、バティモン5の復興と治安を改善する政策の強行を決意。だがその横暴なやり方に住民たちは猛反発、やがて、これまで移民たちに寄り添い、ケアスタッフとして長年働いていたアビーたちを中心とした住民側と、市長を中心とした行政側が、ある事件をきっかけについに衝突。やがて激しい抗争へと発展していく。(2023年製作/105分/G/フランス・ベルギー合作)』

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2023年アメリカ・イタリア合作映画『プリシラ』

2024年05月07日 | 映画
 4/30(火)千葉劇場にて。監督はソフィア・コッポラ、出演ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ。
 
 悲しい映画だった。音楽的才能がありながらも、必要以上に周囲に持ち上げられ、自分を見失う中で薬物に頼るようになってゆくエルビス・プレスリー。その妻プリシラは、彼を支えようとするが・・そうしようとすればするほど心は離れてゆく。主演のケイリー・スピーニーは、14歳の少女期から母になるまでの女性を演じ切り秀逸。

 閑話休題ー50年程も前の話。高校2年生のころ、隣の席の女子が某アイドル演歌歌手の熱狂的なファンだった。今で言う「追っかけ」だが、ある時、あまりにうるさいので「(そのひとだって)オシッコもウンチもする人間だろ」と言うと「え~、しないよ」と言われて啞然とした。生身の人間として大切にされているのではなく、作り上げられた偶像として崇拝されている。こんな「追っかけ」の前では、トイレに行くこともできない。おそらく、周囲のスタッフたちも、そんなファンの心理を利用して利益を上げるためにタレントを利用するのだろう。本来は、才能があり芸の力で生きていける人達が、自分の知らないところで金儲けの種にされている・・たまったもんじゃないだろう。多くのタレントたちが、そのギャップに苦しみ、アルコールや薬物に依存するようになって、命を縮めてゆく。エルビス・プレスリーもそんな一人だったような気がする。彼も薬が無ければ眠れず、薬物の乱用と過食に苦しみ、42歳で亡くなったのだった。



以下は、千葉劇場のホームページより引用。

『エルビス・プレスリーの元妻プリシラが1985年に発表した回想録「私のエルヴィス」をもとに、世界的スターと恋に落ちた少女の波乱の日々を描いたドラマ。14歳の少女プリシラはスーパースターのエルビス・プレスリーと出会い、恋に落ちる。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅でエルビスと一緒に暮らし始める。これまで経験したことのない華やかで魅惑的な世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼のそばでともに過ごし彼の色に染まることが全てだったが……。(2023年製作/113分/PG12/アメリカ・イタリア合作/DCP)』

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2023年日本映画『パーフェクトデイズ』

2024年04月09日 | 映画
 4/6(土)千葉劇場にて。監督はヴィム・ヴェンダース。この作品は、渋谷区内17か所の公共トイレを刷新する日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のアピールを、当初の目的として制作されたらしい。東京の下町にある古びたモルタルアパートに暮らす、寡黙な初老の清掃員平山を、役所広司が好演している。

 老子の教えに「知足」というものがある。この場合の「足」は満足の「足」で、「足(た)るを知る」という意味だが、それは、利益追求型の社会の中で、別の場所・空間に生きるということにもなる。さすがは、ヴィム・ヴェンダースと思わせる映像で、変哲もない主人公の平山の日常が、足るを知る中で豊かな生活を送っているように映し出される。そこに隠された社会の問題や差別は棚上げされるが、そこはこの際目を瞑っておこう。

 ストーリーの無い映像作品で、カメラは、ひたすら街の風景や多様な人々の姿を追ってゆく。そこに退屈を感じる人は、ひどい映画、と思うかもしれない。が、わたしは観ていて飽きることは無く、映画館でゆっくりと鑑賞するに値する作品、と感じた。



 余談だが、歌手の石川さゆりが主人公の通うスナックの女将を演じており、客の一人を演じたあがた森魚が弾くギターで歌う「朝日のあたる家」の浅川マキバージョンは良かった。あがた森魚本人が、実際にギターを弾いているかは、わからない。が、スタジオミュージシャンが弾いているようには聞こえなかったので、おそらく本人がギターを弾いていたように感じた。わたしは、石川さゆりの表現力は、もっと高く評価されてもいいと思っている。

以下は千葉劇場のホームページより引用。
『「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。トイレの清掃員として働く平山は、淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。第76回カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞受賞。(2023年製作/124分/G/日本/DCP)』

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2022年韓国映画『梟フクロウ』

2024年02月13日 | 映画
 2/10(土)千葉劇場にて。監督はアン・テジン。主演はリュ・ジュンヨル。

 韓国の映画やテレビドラマを見ていると、過度とも言えるヒロイズムやロマンティシズムを感じてしまい、個人的には敬遠しているところがある。この作品にも、その傾向は感じられたが、サスペンス仕立てのスピード感にあふれた構成で、なかなか見ごたえがあった。
 時代は17世紀中頃、中国大陸では明から清へと時代が移り、陸続きの朝鮮王朝にも大きな時代の波が打ち寄せている。権謀術数が渦巻く朝廷内で、権力に利用されるために採用された、眼には障害を持つ優れた鍼灸医。しかし、彼は闇の中ではわずかに見えていることを誰にも言わず、それを護身の術としていたのだった。やがて彼の眼前で、夜の闇に紛れて殺人が行われるが・・。

 題名の『梟フクロウ』について、感じたことを書いておこう。猛禽類のフクロウは昼間は木陰で眠り、夜、優れた視力を駆使して獲物を狙う。この作品の主人公が、夜陰でのみ目が利くのにそれを譬えたのだろう。さらに、最後に大きな権力に向かって尖った嘴を向ける・・そんな姿をも譬えたのかもしれない。
 ちなみに、フクロウの視力は人間の10倍ともいわれる。が、これは自然な生活をしている人の場合で、都市部でパソコンやスマホを1日中見ている人間と比較すれば、おそらく数十倍と思われる。視力検査の時3メートル離れたところのスプリットなどを見て測るが、仮にフクロウだったら、夜でも30メートル離れて読み取れることになる。すごい視力だ。




以下は、千葉劇場のホームページより転載。

『17世紀・朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」に記された“怪奇の死”にまつわる謎を題材に、史実に残された最大の謎に迫るサスペンス・スリラー。盲目の天才鍼医ギョンスは、病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。しかし、ある夜、王の子の死を‟目撃“し、恐ろしくも悍ましい真実に直面する。見えない男は、常闇に何を見たのか―?追われる身となった彼は、制御不能な狂気が迫るなか、昼夜に隠された謎を暴くために闇常闇を駆ける。絶望までのタイムリミットは、朝日が昇るまで―。‟盲目の目撃者”が謎めいた死の真相を暴くために常闇を奔走する予測不可能な物語は、圧倒的な没入感と、緊張感をもたらし、息もできないほどの狂気が支配する118分は、観る者すべての五感を麻痺させる。2023年韓国映画賞《25冠》最多受賞。』

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2022年キルギス・日本・オランダ・フランス合作映画『父は憶えている』

2023年12月12日 | 映画
 12/9(土)、千葉劇場にて。監督は、アクタン・アリム・クバト。出演アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ。

 天山山脈を遠くに臨むキルギスの小さな村を舞台に、近代化と古い慣習、そして宗教的束縛、葛藤する人々。それらを、静かに語る作品になっている。山脈の向こう側は中国になるだろう。村を流れる川には、山からの、少し白濁した冷たそうな水が流れている。その流れが、人々の素朴な暮らしが太古の昔から続いていることを表現している。

 とても地味な作品で、映画に娯楽性を求める人には、とてもお勧めできない。が、遥かな遠い国に暮らす人々の生活を多少なりとも知りえる作品、と感じた。岩波ホールが閉館した今、このような作品を上映してくれる千葉劇場には、ただただ感謝しかない。



以下は、千葉劇場のホームページより転載。
『母国キルギスのインターネットニュースで見つけた実話に着想を得て、出稼ぎ先のロシアで記憶と言葉を失い故郷へ帰ってきた父とその家族を描いたヒューマンドラマ。23年前にロシアへ出稼ぎに行ったまま行方がわからなくなっていたザールクが、キルギスの村に帰ってきた。家族や村人たちは記憶と言葉を失った彼の姿に動揺するが、そこにザールクの妻であるウムスナイの姿はなかった。周囲の心配をよそに、ザールクは村にあふれるゴミを黙々と片付ける。そんなザールクに、村の権力者による圧力や、近代化の波にのまれていく故郷の姿が否応なく迫る。2022年・第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品。(2022年製作/105分/キルギス・日本・オランダ・フランス合作/DCP)』

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2022年アメリカ映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』

2023年11月28日 | 映画
 11/24(金)千葉劇場にて。監督はアナ・リリ・アミリプール。主演はチョン・ジョンソで、1994年ソウル生まれの韓国の女優さんだそうだが、英語の発音は自然でアメリカの人かと思った。長年隔離された部屋で拘束され表情をなくした若い女性が、人との交わりから表情と言葉を取り戻してゆく、そんな難しい役どころだが見事に演じ切っていて感心させられた。

 異形あるいは異能な者に対する排斥、そして差別。そして、それに救いの手を差し伸べるのは、いつも場末に暮らす異端な者達なのだった。この映画、舞台となっているのはジャズ発祥の地とも言われるニューオリンズで、2005年のハリーケーン・カトリーナで壊滅的な被害を受けたところだ。その現在の様子が見られそうなので、内容は期待せずに観に行ったのだが、良い作品だった。ハッピーエンドに至る過程が、あまりに楽観的だったようにも感じるが、それが観終わった後にカタルシスにもなり救いにもなる。ただ、テクノポップというのだろうか、電子楽器を使った機械的な音楽には閉口した。




以下は、千葉劇場のHPより引用。
『カノジョの名前は〈モナ・リザ〉。だけど、決して微笑まない―。12年もの間、精神病院に隔離されていた〈モナ・リザ〉。ある赤い満月の夜、突如驚くべき特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出した彼女が辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでワケありすぎる人々と出会い、〈モナ・リザ〉はその特殊なパワーを発揮し始める。果たして、彼女はいったい何者なのか?まるで月に導かれるように、〈モナ・リザ〉が切り開く新たな世界とは──。「次世代のタランティーノ」と大注目された、アナ・リリ・アミリプール監督最新作。(2022年製作/106分/アメリカ/DCP)』

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2023年日本映画『福田村事件』

2023年10月03日 | 映画
 10/2(月)千葉劇場にて。NHKなどでも紹介され話題になったためか、異例のロングラン上映になっている。わたしは、この事件に関しては、千葉県流山市にあった地方出版の崙書房から出ていた辻野 弥生著『福田村事件 : 関東大震災知られざる悲劇』(初版2013年7月)を読んでいたので概要は知っていた。

 デマに翻弄される民衆を描いた労作。この作品、観終わって「重要な二つのポイントが描き切れていない」と感じた。一つは、登場する千葉県の農民も、香川県からの行商人達も、ほぼ標準語だったこと。100年前の震災当時、双方の当事者達は、ほとんど言葉が通じなかったと言われている。それが事件を生じさせる大きな一因だった、と指摘されており、そこを描けなければ作品として不完全と言わざるを得ない。なぜ時代考証を重視しなかったのか、せめて千葉出身の房総方言を知る俳優さんを使って欲しかった、残念だ。もう一点は、加害者側のその後の裁判や刑期が異常に簡単なもので短く、恩赦を理由にさらに短期間で出所したこと、そこを簡単な字幕で終わらせていたことだった。個人的には、この事こそが事件の最も重視すべき点と考えている。事件後の加害者、そして多くを語らなかった残された被害者のこと、そこに焦点を当てた作品にしてほしかった。




以下は、千葉劇場のホームページより転載。
『「A」「A2」「i 新聞記者ドキュメント」など、数々の社会派ドキュメンタリー作品を手がけてきた森達也が自身初の劇映画作品として、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件・福田村事件を題材にメガホンを取ったドラマ。1923年、澤田智一は教師をしていた日本統治下の京城(現・ソウル)を離れ、妻の静子とともに故郷の千葉県福田村に帰ってくる。澤田は日本軍が朝鮮で犯した虐殺事件の目撃者であったが、静子にもその事実を隠していた。その年の9月1日、関東地方を大地震が襲う。多くの人びとが大混乱となり、流言飛語が飛び交う9月6日、香川から関東へやってきた沼部新助率いる行商団15名は次の地に向かうために利根川の渡し場に向かう。沼部と渡し守の小さな口論に端を発した行き違いにより、興奮した村民の集団心理に火がつき、後に歴史に葬られる大虐殺が起こってしまう。澤田夫妻役を井浦新、田中麗奈が演じるほか、永山瑛太、東出昌大、柄本明らが顔をそろえる。(2023年製作/137分/PG12/日本/DCP)』

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2022年フランス映画『パリ タクシー』

2023年05月30日 | 映画
 5/28(日)、千葉劇場にて。監督は、クリスチャン・カリオン。
 映画のあらすじや出演者に関しては、リーフレット下にホームページからコピーペーストしておいた。興味深かったのは、歴史と先端技術が混在するパリの景色や、1950年代のフランスの男尊女卑の描写だった。あくまで、映画という作品の中で表現されたことなので、それが現実にどれほど近いのかはわからない。しかし、理解の一助にはなるだろう。ストーリーは、はぼ予想した通りで、特にラストシーンは「やっぱりそうなるのか」とも思ったが、それでも涙を誘われるのは監督の力か。



「無愛想なタクシー運転手シャルルは、金も休みもなく免停寸前で、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼は92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送ることに。終活に向かうというマドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。そしてそのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かしていく。終活に向かうマダムを乗せたタクシー運転手が、彼女の人生をめぐるパリ横断の旅に巻き込まれていく姿を描いたヒューマンドラマ。」(千葉劇場のHPより)

「不愛想な上にすぐにカッとなるが、家族への熱い愛にあふれているシャルルを演じるのは、フランスを代表する大人気コメディアンのダニー・ブーン。『フランス特殊部隊 RAID』でセザール賞を受賞、本作のクリスチャン・カリオン監督作『戦場のアリア』ではセザール賞助演男優賞にノミネートされるなど、演技派俳優としても高く評価されている。「微笑むたびに人は若返る」など、思わず書き留めておきたくなる言葉で人を魅了するマドレーヌには、最もキャリアの長いシャンソン歌手のリーヌ・ルノー。エイズアクティビストと尊厳死法制化への活動の長年にわたる功績を称えられ、2022年には仏最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を受賞した。俳優としては、『女はみんな生きている』他でセザール賞助演女優賞に3度ノミネートされ、幅広い分野で活躍する国民的スター。
ブーンとルノーは実生活でも親交が深く、ルノーは「ダニーは私の息子よ」と公言している。本編中のシャルルとマドレーヌと同じく、彼ら2人も貧しい労働者階級出身で、ルノーは「これは私の遺言になる映画よ」と宣言しての本作への出演となった。」(作品の公式HPより)

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2022年ポーランド・イタリア合作映画『EO』

2023年05月16日 | 映画
 5/14(日)、千葉劇場にて。監督はイエジー・スコリモフスキ。

 ポーランドのあるサーカス団。そこで働く女性カサンドラに大切にされ、共に暮らしていたEO(イーオー)と名付けられたロバ。ある日、動物虐待の疑いをかけられ、サーカス団から引き離されてしまう。映画は、ポーランドからイタリアへと放浪するEOの目を通して、人間の行いの不条理と愚かさを表現してゆく。

 映像表現は見事なものだった。が、リーフレットの様な真っ赤に染まった映像や点滅が多く、あるいは電子音楽を多く使ったりしていて、目まい持ちのわたしには乗り物酔いの様な気分になって観ているのが辛いシーンも多かった。おそらくは、異質なものから見た世界を表現しようとしたのだろうが「ちょっとやりすぎかな」とも感じた。


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2021年韓国映画『オマージュ』

2023年03月21日 | 映画
 3/14(火)、千葉劇場にて。監督は、シン・スウォン。『オマージュHommage』はフランス語で、「尊敬」あるいは敬意をこめた言葉「賛辞」を意味するというが、ここでは韓国の女性監督の嚆矢となった女性に対する哀悼の意も込められているようだ。
 地味な作品だが、映画の内容と共に、韓国の社会あるいは家族の側面が垣間見えて、興味深かった。



 以下は、千葉劇場の案内より引用。
『映画の修復プロ映画の修復プロジェクトに携わることになった女性映画監督が、修復作業を通して自分の人生と向き合い、新たな一歩を踏み出す姿を描いた韓国の人間ドラマ。ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督の女性ジワンは、60年代に活動した女性監督ホン・ジェウォンが残した映画「女判事」の修復プロジェクトの仕事を引き受ける。作業を進めているとフィルムの一部が失われていることがわかり、ジワンはホン監督の家族や関係者を訪ね、失われたフィルムの真相を探っていく。その過程で今よりもずっと女性が活躍することが困難だった時代の真実を知り、修復が進むにつれて自分自身の人生も見つめ直していくことになる。主人公ジワン役は、「パラサイト 半地下の家族」で家政婦を演じたイ・ジョンウン。2021年』

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2020年イギリス映画『ドリーム・ホース』

2023年01月17日 | 映画
 1/10(土)、千葉劇場にて。監督は、ユーロス・リン。


 以下は、千葉劇場の作品案内より・・
「イギリス・ウェールズを舞台に、片田舎の小さなコミュニティでで起きた実話をもとに描いたヒューマンドラマ。ウェールズの谷あいにある小さな村。無気力な夫と暮らすジャンは、パートと親の介護だけの単調な毎日に飽き飽きしていた。そんなある日、クラブで共同馬主の話を聞いた彼女は強く興味をもち、競走馬の飼育を決意。勝ったことはないが血統の良い牝馬を貯金をはたいて購入し、飼育資金を集めるため村の人々に馬主組合の結成を呼びかける。産まれた子馬は「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けられ、奇跡的にレースを勝ち進んで村の人々の人生にも変化をもたらしていく。主人公ジャンを「ヘレディタリー 継承」のトニ・コレット、夫をドラマ「HOMELAND」のダミアン・ルイスが演じた。」

 日本では「イギリス」というが、正式には「United Kingdom of Great Britain and North Ireland」で「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」となる。長いので、英語圏ではUKと略されることが多いようだ。以前は、これにスコットランドとウェールズが加わっていたように思うが、省略されたのだろうか。とにかく、この映画の舞台となっているウェールズ地方は、ケルト色の強い独立気質を持ったところで、ウェールズ語という英語とはかなり離れた言語を持つ所だ。この作品を観て改めてそれを実感した。
 そして案内の中にある「ウェールズの谷あいにある小さな村」は、セリフの中にあったが、貧しく「人にはそこに暮らしていることを話すのをためらう」様な地域。仕事も少なく、自堕落な生活を送る人も少なくない。そうした地域性を頭に入れて観ていると、英国の特殊性が見えてくる。映画としても楽しめる作品だが、複雑な歴史と混迷を抱えたイギリス社会の側面が見えてきて興味深かった。

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2022年日本映画『宮松と山下』

2022年11月23日 | 映画
11/22(火)、千葉劇場にて。


 記憶を亡くし、京都撮影所でエキストラを演じ続ける孤独な中年男を香川照之が演じている。何かと話題が多い人だが、演技力は基礎がしっかりしている、と感じた。妹役の、中越典子も好演している。

 人の記憶の危うさ、現実と仮想の曖昧さ、そして自己同一性(アイデンティティ)のはかなさ。それらを考えさせてくれ、ある意味自分を見つめ直す契機にもなる作品で、観て良かったと感じた。

 監督は、集団「5月」と言うらしく、佐藤雅彦・関友太郎・平瀬謙太朗らの共同監督という。意外だったのは、製作幹事が大手広告代理店の電通だったことだ。作品としてテーマは重く、映像も全体に暗いものに仕上がっていて、アイドルなども出てこない。一般大衆向けに売上を狙ったものとは感じられず、広告代理店が制作に関わったにしては、映画館でしか味わえない良さを持った作品に仕上がっている。

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2022年日本映画『夜明けまでバス停で』

2022年10月24日 | 映画
 10/22(金)千葉劇場にて。監督は高橋伴明、脚本は梶原阿貴。



 2020年の冬、深夜、東京新宿に程近い渋谷区幡ヶ谷のバス停にある小さな椅子に座って仮眠をとっていたホームレスの女性が襲われて亡くなる事件があった。女性は、スーパーなどの店頭で出張販売の仕事に携わっていたようだ。が、コロナ禍で仕事を失いアパートを出なければならなくなりホームレスとなった、と報道されていた。若い頃は劇団に所属して俳優を目指していたとも。本来なら生活保護を申請すべき事案だが、彼女は他に助けを求めることが出来ない人だったようだ。
 わたしも長年にわたりフリーランスで仕事をして、その危うさは良く分かっている。「フリーランス」と言っても、その実態は良くて「下請け」、時に「孫請け」あるいは「ひ孫請け」で、仕事量が減れば単価は下がり、手取りのお金も確実に減ってゆく。私の場合は状況に恵まれたので困窮する事は無かったが、それは「たまたま」に過ぎない。そしてコロナ禍の前に廃業していたことも偶然にすぎない。そして、わたしも「助けて」とは言えない人間だ。この女性の事件は他人ごとではなく、身につまされたのだった。

 映画は、この事件を題材にとった作品で、ホームレスになる女性を板谷由夏が演じている。現実に起こった事件は、この作品よりもはるかに深刻で、救いのないものだったように思うが、監督の高橋伴明はソフトに仕上げてラストシーンは救いのある構成になっている。公園で出会うホームレス達も、親切で人間味のある人達に描かれている。そこは、賛否の分かれるところだろう。わたしの感想は・・というと・・「観てのお楽しみ」ということで、あえて書かないことにしよう。


下の写真は、10/23午後、鱗雲が空一面に広がっていたので自宅の2階から撮影したもの。上層に冷たい空気が入ると、この様な雲が出るらしい。気温が下がる前触れ、ということだろう。

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