イヴァンジェリスト(evangelist)という言葉がある。これは、辞書によると「福音伝道者」あるいは「在家の伝道者」となっている。あえて日本風に云うと、琵琶法師に近いようなものだろうか。街角や、なにかの集会での演奏・歌などを通して布教活動をして、幾ばくかの喜捨を得、それを生活の糧にしていた人達がいたのだ。ブルースの歴史を考える上で、このイヴァンジェリスト達の演奏は見落とせない。このブログで取り上げた中でも、ウィリー・ジョンソン、ワシントン・フィリップス、さらにゲーリー・デイヴィスなどもそれに当たるだろうし、ブルースマンの中にもゴスペルを演奏する人も多い。
今回取り上げるフォアハンド夫妻―A・C・フォアハンド&ブラインド・マミー・フォアハンド(A.C Forehand & Blind Mamie Forehand)も、メンフィスで活動し、同地で歴史的録音を残した イヴァンジェリストと言える。
オーストリアのWOLFというレーベルから出ていたLP『Country Gospel Guitar Classics(1927-51)』。ここに収められている1927年の5曲が二人の残した全ての録音らしい。その内の2曲が下の写真のLP、Folkways,RBF19『Country Gospel song』にも入っていて、サム・チャータースによる解説によると、1927/2/25金曜日にメンフィスでA・C・フォアハンド(Vo & g)がまず2曲録音し、よく月曜(28日)にマミー・フォアハンドを連れて来て再度3曲を録った、とある。奥さんのマミー・フォアハンドは、トライアングルのようなものを鳴らしながら、線は細いが素朴に歌い、A・Cはスライド奏法で見事なバッキングをしている。このマミー・フォアハンドの使っている打楽器についてチャータースは、インディアン・テンプル・ベル(an Indian temple bell)のようなライト・ベル(the Light bell)と書いている。なので、鉦というよりもハンドベルのようなものだったのかもしれない。
二人の詳しい生没年は分かっていない。インターネットなどで調べたところ、A・C・フォアハンドは、1890年頃ジョージア州生まれで1972年にメンフィスで亡くなり、マミー・フォアハンドは1895年頃アラバマ州生まれで1936年頃メンフィスで亡くなったらしい。
ゴスペルを聴くと、いつも思う事がある。それは、宗教の持つ「排他性」と「寛容性」だ。相反することだが、事実として眼前にある。宗教対立から紛争になり多くの犠牲者が出ることも事実だし、慈善活動を献身的に勤める宗教者がいることも又事実だ。おそらく、宗派に分かれ強い組織が成立すると排他性が強くなるのだろう。すぐれた宗教者は組織を否定し一人祈り活動する、そんな気もする。日本でも親鸞のように、寺を持たず教団組織を作ることを否定した人もいる。が、歴史とは皮肉なもので、後の浄土真宗は「講」という地域に根ざした組織を作ることによって信者を獲得し、生き延びてきた。
街角にひとり立ち、見知らぬ人に歌いかけたイヴァンジェリスト。宗教の基本はそこにあるようにも思うが、どうだろう。