文化逍遥。

良質な文化の紹介。

わたしのレコード棚―ゴスペル、Mahalia Jackson

2018年12月30日 | わたしのレコード棚
 ゴスペルの女王と呼ばれることもあるマヘリア・ジャクソンだが、活躍した時期を考えると、アメリカで商業的に成功した数少ない黒人女性歌手でもある。1911年10月26日ニューオリンズで生まれ、1972年1月28日にシカゴで亡くなっている。彼女がレコードや演奏活動で成功したのは公民権運動の始まる前からで、南部ではバスの座席やトイレが白人用と黒人用に分かれており、ホテルや病院では黒人の利用を拒否していた所もあったのだ。そんな時代に、全米はもとよりヨーロッパや日本でも演奏活動をした。それゆえにか、一部の人達からの評価では、偉大なゴスペルシンガーではなく金銭的成功に固執した商業歌手、ともされている。
 しかし、冷静になって20世紀初頭のアメリカ南部の状況を慮ってみると、彼女の祖父母は奴隷だったともいわれ、父もニューオリンズで差別を受けながら労務者や理髪師として苦しいを生活していたのだ。そんな環境の中で、富に執着せず、純粋に福音に生き歌うことなどまず出来ない相談だろう。そんなわけで、アポロという小さいレーベルに所属していたころの初期の録音と、1954年CBSへ移籍して以降の録音でかなり好みが分かれるようだ。
 わたし個人としては、歌詞の内容はともかく、発声法は歳を重ねるとともに無駄のない歌唱法に変化していき、聴きやすくなっているように感じられる。


 Vogueというドイツのレーベルからの2枚組LPレコード。詳しくはわからないが、アポロ時代の録音を中心にした構成と思われる全23曲。


 1958年のニューポートジャズフェスティバルからのライブ盤SOPN148。映画『真夏の夜のジャズ』の一部にもなっている印象深い録音。伴奏を務めているピアニストのミルドレッド・フォールズ(Mildred Falls)の演奏もすばらしい。
 これと下のLPは、CBSソニーから出ていた国内盤で、歌詞カード・解説が付いている。


 CBSの音源から編集されたLP、SOPN24。


 こちらはDVDで、かなり以前に近くの書店で安売りしていらのを見つけて買ってきたもの。何曲かでジャズのミュ-ジシャンがバックアップをしており、特にギターリストのバーニー・ケッセルがテレキャスターを弾いているのが興味深い。

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2017年スペイン・アルゼンチン映画『家へ帰ろう』

2018年12月26日 | 映画
 12/24(月)、千葉劇場にて。英題は『The Last Suit』で、直訳すれば「最後の背広」。
 監督は、パブロ・ソラルス。主人公アブラハムにミゲル・アンヘル・ソラ。音楽は、フェデリコ・フシド。この作品は、音楽も優れていた。また、千葉劇場の音質の良さを改めて認識した。映画館はスクリーンの後ろにメインとなるスピーカーが隠れているので、通常は見ることが出来ない。なので、推測するしかないが、かなり質の高いものが使われているようだ。小さな映画館だが、上質の音響設備を使うことで、小さいが故の音質の良さを味わえる利点もある。地元にこのような映画館があって、あらためて良かった、と思った。





 筋は単純。1917年ポーランド生まれのユダヤ人の仕立屋アブラハムは、第二次大戦中ドイツ軍からの迫害に会い、戦後は叔母の住むアルゼンチンに移住している。長年、つらい想い出がある生まれ故郷に帰ることは出来なかったが、死を間近に感じる歳になり、戦争中助けてくれた友人に会うためにポーランドに行くことを決心する。そんな旅の中で、様々な人々に出会い、頑なな心も少しずつほぐれてゆくのだった。
 俳優達の細やかな表情が印象に残る佳作。ヨーロッパの映画を観るといつも感じることだが、向こうの俳優さん達は全体にレベルが高い。なにか、与えられた役に対する姿勢が根本的に違うように感じられる。この作品では、ドイツを通過中に出会ったドイツ人女性を演じた俳優さんやワルシャワの病院の看護師を演じた女優さんが印象に残った。

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テレキャスター シンライン

2018年12月23日 | ギター
 4年ほど前に腰のヘルニアを患い、それ以来腰痛も持病になった。長身なこともあって、もともと腰に痛みを感じることも多かったが、還暦過ぎてエレキギターをストラップで下げて弾いていると辛くなってきた。我が家にあるエレキギターは3.6キログラムから4.2キロ位で、重さとしては標準的で、けっして重い方でもないのだが、それでも4キロを超すものは立って弾くのは辛い。若い頃は、まさか自分が歳を取って軽いギターが必要になるとは思ってもみなかった。
 そんなわけで以前から、取り回しが良く、耐久性があり、軽いエレキギターがあったら必要に応じて手に入れておかなくてはならないかな、と感じていた。ESPテクニカルに行ったついでに店長に訊いてみたところ、軽い材を厳選して2.5キロ位のテレキャスターを作れるが40万円程かかる、という。しかし、すでに仕事はやめていて経済的に余裕があるわけではないのでそれは無理だ。安くて必要条件を満たすギターは無いだろう、と考えていた。が、ありました。フェンダージャパンの中古テレキャスター、イシバシ楽器で85000円ほど。ほぼ未使用で、材も作りも納得できるシンライン。


 ピックアップは、フェンダーのものが3個ついている。標準的なテレキャスターのフロントにハムバッカーを付け加えた感じ。材はアッシュで、トップ側を裏から繰り抜く様な感じで削り出し、バックを貼ってある。ブリッジは、3連。スウィッチは5連。音質的には、正直言って線が細く今ひとつ。と云うわけで、家にあるパーツを使い、お金をかけずに大幅に改造を試みた。


 PUやブリッジを外したところ。見てのとおり新品同様で、買った後は使われずにしまわれていたらしい。フレットの減りもない。


 こちらは、完成したところ。ピックアップは、フロントにリンディー・フレイリンのP90。リアにはダンカンのSTK-2という縦にコイルがスタックになっているハムバッカーPU。ブリッジも6連に換え、スウィッチも3連のものにした。ガードは厚さ0.5ミリの塩ビ板を自分でカットした。あまりきれいには仕上がっていないが、近くで見なければわからないだろう。下手なくせに、こういう作業が好きなんだわ。特に、ハンダ付けはなんどやっても綺麗に仕上がらず、一目で素人がやったな、とわかる。文字どおり「下手の横好き」というやつだ。


 全体はこんな感じ。ケースは安物のソフトケースだったので、以前グレコのテレキャスターを入れていたハードケースに入れてある。
 さて、肝心の音質だが、ほぼ思い描いたとおりの音が出た。この状態で本体の重さは2.8キロほど。ボディ内部はかなりなホロウ(空洞)構造なので、随分軽く感じる。大音量を出すとフィードバックしてハウリングを起こすかもしれないが、わたしはそんなに音量を出すわけではないので、まず心配ないだろう。


 「Made in Japan」ではなく、「Crafted in Japan」になっている。少し調べたところ、1997年から2008年まで「ダイナ楽器」というところで、木材加工をフジゲンや寺田楽器に外注して組み立てたものらしい。型式やシリアルナンバーは本体に刻印されていない。イシバシ楽器の表示では型式は「TN85-SPL」で、1998年製となっていた。それが正しいとすると、このギターは、作られた後20年間眠っていたことになる。塗装が馴染んでいるのはそのためか。しっかり弾いてあげたい。

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2017年フランス・ベルギー映画『マイ・サンシャイン』

2018年12月20日 | 映画
 12/19(水)、千葉劇場にて。監督はデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンという女性の監督で、『裸足の季節』という作品で初めてメガフォンを取った人だ。『裸足の季節』は2016年6月に千葉劇場で上映しており、このブログでも同作品を紹介している、読みたい人はこちらからどうぞ
 ロサンジェルスのマイノリティーの多く暮らす地区サウスセントラルで、血のつながらない子ども達を一人で育てているミリー(ハル・ベリー)。隣人のオビー(ダニエル・グレイグ)は白人でいつもケンカ腰だが、その黒人の子供達を見守っている。複雑なコミュニティーの中でも、二人はなんとか生活を保ち、子ども達の未来を開こうとしているかのようだ。時は1992年。スーパーマーケットの店主による黒人少女に対する射殺事件や、警察官による黒人青年に対する暴行事件が起こり、それぞれに軽い刑や無罪判決が出たことにより街は混乱に落ちてゆく。



 1992年のLA暴動に関しては、わたしも記憶に残っている実際にあった事件だ。実際の当時のLAの映像も多く挿入されているが、この映画がどの程度現実を伝えているかはわからない。ほぼ、全編で暴動に包まれる混乱した街が映し出されていて観ているのが辛くなる時もあった。誇張が無いことは無いだろう。制作国がフランス・ベルギーで、アメリカが入っていないのもどういう訳なのだろうか。アメリカ社会の暗部を描いた作品を観る時いつも思うのだが、日本から見ればアメリカはGDP世界一の裕福なイメージが強いが富の偏在が社会秩序の混乱を招いているようだ。そしてそれは、今のままではこの日本も近い将来同じ状況に陥ることは確実と思われる。

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9弦ギター

2018年12月15日 | ギター
 このところ、ギルドの12弦ギターの弦を3本減らして9弦にしたもので練習している。





 4・5・6コースの高音側を外してある。12弦ギター特有の響きはかなり失われるが、こうすることで必要以上の音の拡散が無くなり、音のコントロールも容易になる。わたしはオープンチューニングも使うので、ノーマルからオープンへ移行するのもかなり楽になる。ブルースマンの中にも、ビッグ・ジョー・ウィリアムスという人が9弦に改造したギターを使っている。

 このギルドのF-212という12弦ギター、低音弦側にビビリが出るようになったので、購入したカワセ楽器に持って行って先月調整してもらった。その際、現在の弦高が6弦で3.5ミリ、1弦側で2.5ミリほどあり、さすがに高いのでなんとかもう0.5ミリほどそれぞれ低く出来ないか訊いてみた。が、ブリッジ及びサドルに余裕が無く簡単には出来ないという。ネックをリセットして角度を替え、ブリッジを削れば可能なのだが、10万円位はかかるという。それは、きつい。10万出すなら、適当な他の中古ギターでも探して買うことも出来るしなあ。

 このギターは1970年代の制作と思われるが、その頃はストロークで弾くことが多く、今のようにピックアップを付けてアンプから音を出す方法も無かった。つまり、弦高を高くして音量を確保することが求められていた時代だったのだ。仕方がないが、低い弦高が嫌いな私でも、さすがに3.5ミリは辛い。ボトルネック奏法では高い方がいいのだが、指で弾きこなせなければどうにもならない。弦を細めにするとか、その他自分なりに工夫して弾きこなせるように練習して、来年はこれを使ってライブをやりたい。

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2017年イスラエル・ドイツ映画『彼が愛したケーキ職人』

2018年12月11日 | 映画
 英題は、『The Cakemaker』。監督・脚本は、若手イスラエル人のオフィル・ラウル・グレイツァ。主演のケーキ職人トーマス役にティム・カルクオフ、同性のイスラエル人の恋人オーレン役にロイ・ミラー、オーレンの妻アナト役にサラ・アドラー。ドイツ語、英語、ヘブライ語。
 映画の舞台になっているのは、ドイツのベルリンとイスラエルのエルサレム。おそらく、自分では行く機会も無いだろうし、観光で行く金も無い。なので、せめて映画でベルリンやエルサレムの光景を見ておこう、といった軽い気持ちで12/10(月)に千葉劇場に行った。ところが、これが思いのほか優れた作品だった。



 かつてナチスドイツによるホロコーストの記憶が残るエルサレム。一人の青年ケーキ職人がそこで、死んだ恋人の暮らした街や彼の家族を探し、やがてその妻と知り合い愛し合うようになるが・・・。映画には、そんなストーリーの中に、同性愛、国と国の歴史的関係、そこに暮らす人々の古い因習、そして憎悪、それらの問題を織り込みつつ、やがて破局へと向かってゆく中にも一筋の希望をラストシーンで暗示している。

 古い町並みを丁寧な映像で捉えており、様々な人間像を俳優達は見事に演じている。今年観た映画の中でも、印象に残る佳作だった。

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紅葉とツツジの狂い咲き

2018年12月06日 | 日記・エッセイ・コラム
 12/4(火)は、各地で夏日近くまで気温が上がったが、ここ千葉でも最高気温23度を記録。テレビのニュースで、春から夏に咲くはずの躑躅(ツツジ)が、千葉公園で開花した、と云っていたので昨日(12/5)写真を撮ってきた。


 実物はもう少し紫色がかっていた。ほんの数輪だがこの他にも咲いている枝があった。


 千葉公園の弁天池。後方に見えているのは、千葉都市モノレール。今年もシベリア方面からカモの仲間のキンクロハジロが渡って来始めている。毎年の事だが、冬が深くなる頃には、この池はカモ類などの渡り鳥でいっぱいになる。


 気温23度では、春が来たかと勘違いして北に帰ろうとしたカモもいたカモ。そんな訳は無いか・・。


 今夏の台風による塩害の影響だろうか、今年の紅葉は今ひとつ色付きが良くないように思える。

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2018年日本映画『斬』

2018年12月01日 | 映画
 11/29(木)、千葉劇場にて。

 

 監督は塚本晋也で、自身も剣の達人である浪人役で出演。
 幕末期、江戸近郊のとある農村。そこで百姓仕事の手伝いをして暮らしている文武両道の若い浪人(池松壮亮)。彼は、義に殉じて江戸に向かい幕府の義士となるべく志していた。そして彼を慕う農民の娘(蒼井優)は、静かに彼を見守りつつも不穏な状況に不安を隠せないでいるのだった。そんな頃、同じ志のある浪人がその村にやって来て、共に江戸の向かおうと声をかける。しかし出発の朝、若い浪人は高熱で倒れ、ちょうどその頃村に無頼の者たちが跋扈しはじめて・・・。

 この映画、評価は分かれるところだろう。時代劇としては失敗している、と思った。言葉は農民も武士も全て現代標準語で、その時代を表す考証がほとんどなされていない。あるいは土地の管理をする役人・差配なども、ほとんど登場しない。やたらと音響効果を使い、殺陣のシーンではアングルが目まぐるしく変わり、逆効果に感じた。一方で、義―すなわち理想に忠実に生きようとする時になさねばならぬ行動、この場合は敵を斬る事―の為の殺人を受け入れられず苦しむ人間像を描いている点では、ある程度評価できる、とも感じた。この映画、新撰組隊員の持っていたであろう苦悩を想像して制作された作品なのかもしれない。
 いずれにしろ、血が流れるシーンがかなりリアルに続くので、食事の前には観ない方がいいかも。

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