蓼科浪漫倶楽部

八ヶ岳の麓に広がる蓼科高原に、熱き思いあふれる浪漫知素人たちが集い、畑を耕し、自然と遊び、人生を謳歌する物語です。

役割語  (bon)

2018-02-12 | 日々雑感、散策、旅行


 耳新しい言葉ですが、“役割語” (やくわりご)というのがあるんですね。
全く知りませんでしたが、金水 敏(きんすい さとし)氏(日本語学者、大阪大教授、
1956年生まれ)という阪大教授が、2000年頃に提唱されたそうで、「役割語小辞典」
(研究社、2014年)が出版されています。

       <役割語>小辞典 (研究社、2014年)
         (ヤフーショップより)

 それで、役割語とは、教授によれば、『ある特定の言葉使い、たとえば、語彙、語法、
言い回し、イントネーション等を聞くと、その言葉から、特定の人物像、たとえば、
年齢、性別、職業、階層、時代、容姿、風貌、性格などを思い浮かべることが出来る時、
その言葉を「役割語」という。 そして、逆に、ある特定の人物を提示されると、その
人物がいかにも使用しそうな言葉使いを思い浮かべることが出来る時も、 それを
「役割語」と呼ぶ。』とあります。

 この定義を具体的なイメージとして、教授が揚げている例をみれば、実は、容易な
事柄なんです。
 例: 英語で“はい、私はその秘密を知っている”という場合、話し手の性別や年齢
に拘らず、“Oh yes,I know that secret.”ですが、これを日本語でいう場合、話者の
人物像によって表現が変わるのです。

 ・そうじゃ、わしが知っておるんじゃ  (老人男性)

 ・そうね、あたしが知っているわ    (女性婦人)

 ・そうだ、俺が知ってるぜ       (若い野性的な男性)

 ・そうさ、僕が知っているよ      (元気な男の子)

 ・そうですわ、私が存じておりますの  (上品な女性)(貴婦人)

 

 さらに、役割語は、年齢や性別でも、幼児語、お嬢様ことば、と広がりがあり、時代
でみれば、武士ことば、公家ことば、遊女ことば、町人ことばがあり、地域では、京
ことば、大阪弁、東北弁、九州弁、土佐弁などさまざまあるのです。

 ちょっと横道にそれますが・・ “わてが知ってま” “拙者が知ってござる” 
“うちら知ってます”などとちょっと変えるだけで、話者の時代や性別や人柄・地域
などが想像できるのですね。
 人称代名詞をとりあげても、日本語には「私」「僕」「オレ」「拙者」「ワシ」
「われわれ」「諸君」「貴様」「それがし」などたくさんあります。これらと「語法」
が組み合わさって人物像が浮かび上がってくるのですね。

 社会心理学、社会言語学の世界に「ステレオタイプ」(既成観念、思い込み)という
概念があるそうですが、これら役割語のステレオタイプは近年、次第に広まって来てい
るとありました。


 教授は大阪生まれだそうで、役割語のステレオタイプの一例として、大阪弁のイメー
ジについても述べ
られている部分があります。つまり、大阪弁によってあるイメージが
形成されるというのです。 これらは本来そうである、というよりは、歴史的に書物や
ドラマ、マスコミなどにより形成されてきているとされています。
 たくさんありますが、順に拾い読みしてみます。

 ①冗談好き、笑わせ好きのイメージは、やはり、町人の町、商人の町としてのことば
が底辺にあり それらが、たとえば 式亭三馬の「浮世風呂」で広まったとの見方ですし、
②ケチ、守銭奴は、同じく身分的色彩よりも、金銭や取引などの商業語、商人ことば
として効果的であるとし、逆に、大阪弁は ラブシーンや心理の独白などには向かない。
③食いしん坊イメージは、大正末から昭和初期の 大大阪時代の「粉もん」グルメが、
アチャコや桂春団治などによって広まった。 ④派手好きなどもこのあたりの時代のイ
メージからかもしれず、⑤好色、下品などのイメージに至っては、井原西鶴の好色もの、
から戦後の 今東光の春泥尼、野坂昭如らの影響、さらに月亭可朝の「ボインは赤ちゃん
のものだけやおまへんねやで」など多くのヒットで定着してきたと。 ⑥ど根性イメー
ジも、もともとは根性なしであったものが、花登筐の「細うで繁盛記」などによって
大阪=根性もののイメージに、 ⑥暴力・やくざイメージも、「悪名」や日常会話の
河内弁の“やんけ、われ”などの影響、さらに大阪、神戸を舞台にしたやくざ映画の
影響も大きい。 そんなような流れであるようです。 

 端折っていますので、分かりずらいかもしれませんが、テレビやアニメなどのヒット
によって言葉のイメージが作られやすいのですね。 最近では、大阪弁も、ほとんど
使っている人はいないと思われるような コテコテの大阪弁“でんがな”“まんがな”を、
テレビバラエティー番組などで、わざと使ったりしていることがあります。

 日常生活の中で使われる地方方言(リアル方言)とテレビを通じて広められたコテコテ
の方言(ヴァーチャル方言)があると言っています。 このような、ヴァーチャル方言の
出現によって、そのイメージもまた変化し、進化して行くのだとありました。

 

 普段、何気なく使っている“ことば”は、それ自体に いろいろなイメージが備わって
いて、状況や場に応じて自然に使い分けているのです。AIが進むにつれて、これらもまた、
上手にプログラムされて行くのでしょうね。



 

 

 


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