普段「国号」のことなど考えませんし、「日本」というのも、むしろいい名前だ
などと思うこともありますが、それほど関心を持ったことはありません。
ところが、少し前に届いた手元の会報に、『国号考』(渡辺浩氏、東京大学名誉
教授)と題する記事があり、面白い書き出しでしたので改めて、このことについて
考えさせられたのでした。
全文はとてもご紹介できませんから、その言わんとする部分だけを抽出してここ
にご披露させていただきました。
(ネット画像より)
いきなり・・・
『日本国という国号は、独立国として恥ずべきものではないだろうか。』
その理由として、3つ挙げられていて、
- この国号は、この国の固有の言葉ではない。外国語である。自称に自国語を用
いず、わざわざ「中国」の言語つまり漢字で自らを呼んでいる。そして、発音
についても、ニッポンはより現地音に近いそうで、二ホンはそれが訛った発音
である。
- この国の土着の言葉がないわけではない。つまり、「みずほのくに」「やま
と」「あきつしま」ほか、歴とした土着の言葉がある。「ひのもと」は日本を
訓読みにした言葉で土着の言葉ではない。 文字も、中国文字が基ではあるが、
「かな」という独自文字もある。
- 「日本」とは、日の出るところ、つまり東方にあることを自認した名称である。
南北と異なり東西は相対的であり、世界のどの国も東であり西であり中央とい
える。しかるに「東の国」と自己規定しているのは、すぐ西方の大陸、つまり
中国を世界の中心と認めているからだろう。 我が国、わが王朝はそちらから
見て東の方向の周辺ですと認めたのだろう。
(ネット画像より)
天武天皇の時代、倭国から日本が国家として成立してゆく時期にあたり、数次の
遣唐使により、8世紀初めに大唐帝国(中国)から国号を日本とすることが認めら
れていますが、自ら東の周辺の国としているなど、そのような意識下にあったと想
像されます。
『以上のように、形式からしても、意味内容からしても、中国を意識し、中国に
依存し、見方によっては中国に媚びたような国号を、この国では、現在に至るまで
使用しているのである。』
会報記事の作者、渡辺浩氏は、大学の「日本政治思想史」担当の教師として長年
教鞭をとってこられて、学生に刺激を与える目的で、時折このような問題を提起して
各自が自由に政治・歴史・文化等を思考するよう促してきたとあります。
なので、この会報記事でも、上のような議論をどの様に思われるだろうか? と
自問されていて、おそらくはこの議論に論理的に反論することは多分難しいだろう
と思いつつ、しかし言いくるめられた気がして、納得はしにくいかもしれない。
あるいはあまり意味のない愚劣な議論だと思われるかもしれないと自答されても
います。
『この列島の住人たちは、古代以来、中国を意識し、中国から学び、中国をまね、
そして中国と張り合ってきた。』 『これは文字だけでなく、律令制も仏教も中国
由来であり、もっと言えば、豆腐、うどん、饅頭もお茶も箸も菊も牡丹,銀杏など
など中国原産である。 今、漢語を除いたら会話が成り立たず、文字もかけないで
あろう。』
『 明治維新以降は、今度は西洋を世界の文明の中心と見做して、政治・法律・経済・
学問・文化などが成立してきた。 欧州に倣って創設した貴族制度、それに議会制
度・内閣制度・司法制度などと組み合わせて西洋風の国家を急造した。
そして、そうした儀洋風化はその後も衣食住を含めて広く浸透した。列島の中央
の山岳群をわざわざヨーロッパの山脈になぞらえて「アルプス」と呼び、「南アル
プス市」などが生まれる始末である。都の入り口の橋を「虹の橋」ではなく「レイ
ボー・ブリッジ」、代用的な港の入り口を「いりえ橋」ではなく「ベイ・ブリッ
ジ」と呼ぶがごとし。』 『これがこの国の文化であり、歴史なのである。』
まあ、確かに言われてみれば、さもありなんと思える節がたくさんありますが、
さりとてすべてオリジナリティがないというのはいささか性急で、我が国由来の精
神性、民族性は脈々と受け継がれてきていると思います。 正直、勤勉、謙譲、融
和・・などを始めとして、芸術、文学、技術などなど高いオリジナリティに満たさ
れてもいるのです。
余談ながら、ニッポンと二ホンの使い分け、というかそれぞれ固有の呼び方をし
ています。以下に一例を並べてみます。
・ニッポン(NIPPON)表記の例:日本銀行、日本武道館、全日本空輸、近畿日本鉄
道、
日本体育大学、日本郵便、日本電信電話、日本電気、日本通運、日本車輌製造
・二ホン(NIHON)表記の例:日本大学、日本航空、日本経済新聞、日本たばこ産業、
日本相撲協会、日本交通、JR東日本、日本オリンピック委員会、日本ユニシス、
日本共産党
最後に、東京と大阪にある橋の名称と地名になっている日本橋は、東京(及び旧
江戸)の日本橋は"にほんばし"、大阪の日本橋は"にっぽんばし"とそれぞれ読ん
でいます。 にっぽんばし1丁目を略して“ニッポンイチ”(日本一)などといって
います。
日本の国号の起こり 【CGS 日本の歴史 3-6】