7月に入りました。明日2日は、七十二候の「半夏生」なんですね。令和3年も半分過ぎて
しまいました。梅雨前線が停滞し全国的に雨模様で関東では豪雨の予報が出ています。
このところ、東京の新型コロナ新規感染者数は増加傾向にあり穏やかではありません。
脳科学とAIといえば、近年AI(人工知能)の分野で更なる進化を目指した研究が
進められています。 4~5年前の、AI(AlphaGo)が世界トップクラスのプロ囲碁
棋士に勝利したというニュースは、AIの実力が大きく向上したことが証明されたの
でした。
これは、AIが行う機械学習、とりわけ深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる
機能によって実現され画期的な技術としてAI発展の大きな原動力となっています。
しかし、技術の欲求は留まるところを知らず、更なる進展を求めいよいよ脳科学
分野に開発の眼が向けられてきたのです。 すなわち、深層学習では、膨大な量の
データを学習させることが必要ですが、このような「深層学習では到達できない人
工知能を実現するために、脳の機能を手本にしたアルゴリズムの開発が強く認識さ
れ、ここに脳科学とAIの接点がうまれました。」(つくばサイエンス)というのです。
NTTデータ経営研究所の「脳科学とAIの融合」ページから要約しますと、「脳は
複雑な世界を認識し、価値を学習し、極めて多量の選択肢の中から意思決定を行う
など高度な情報処理を担う臓器である。 その情報表現は、大脳皮質に150億程度
存在すると推定されている神経細胞「ニューロン」が担っている。」そして近年、
以下の3つの要因が大きく進展したとしています。
すなわち「① 脳の状態をセンシングし、膨大な生データから意味のある高度な
情報表現を取り出す解析技術が発達した ② 脳の情報表現に介入する技術により、
情報表現と認知状態の因果的な関係を見出すことができるようになってきた ③
機械学習、特にニューラルネットワークの分野で、脳の情報処理アーキテクチャに
近いデザインでモデルを作り、シミュレートすることができるようになった」
と難しいですが、つまるところ、脳で何がどのように処理されているかの研究『脳
科学』における脳の情報処理に関わる各種の技術を取り入れようとしているのですね。
例えば、脳状態を脳血液中のヘモグロビンの酸化還元状態(BOLD信号)から脳情
報を計測できる『fMRI』(機能的磁気共鳴画像)の発明が大きく寄与しているという。
fMRIの原理は、健康長寿ネットのページから以下を引用しました。(図参照)
fMRI の原理図 (健康長寿ネットHPより)
すなわち『神経細胞が活動するとき、その神経細胞に酸素を供給するために、酸
素と結びついた「酸素ヘモグロビン」が流入してくることにより、磁場を乱してい
た「脱酸素ヘモグロビン」が少なくなって、弱められていたMRI信号の強さが回復
して強くなる』これを計測するのです。
fMRIによって得られる脳画像
(ウイキペディアより)
しかし、この方法は、実際の脳の活動に比べて時間的にも、空間解像度的にもは
るかに粗いものであるそうですが、それでも、機械学習をはじめとした解析技術の
発展により「運動意図」や「感覚体験」「認知状態」などを脳の情報から読み取る
ことができるようになったのです。
これらの技術を活用して、AIの更なる進化を目指し、その応用範囲を広げ、かつ
より知的活動分野への適用を目指しているというのですね。
このような技術の流れにあって、ここで紹介したいのは医療分野における活用へ
の取り組み事例です。
川人光男氏(ATR脳情報通信総合研究所長、富山県立大学特任教授)の記事にお
ける指摘がまさしく現代において取り組むべき課題の一つとして重要であると思う
からです。
(厚労省HPより、赤線を付加しました。)
精神疾患(上のグラフの赤線部分:統合失調症、気分障害、ストレス障害など)
の患者数が増加傾向にあり すでに350万人に達し、今や5大疾病(がん、心臓疾患、
脳卒中、糖尿病、精神疾患)に取り上げられているにもかかわらず、その診断(し
たがってその治療)は科学的手法によらず、医師の問診により行われている現状に
あるのです。
たとえば、「うつ病は、抑うつ気分、喜びの減弱、体重減少や増加など9項目の
うち 5つ以上が当てはまるかなど、医師の問診によって診断される」のだそうです。
「がんでは遺伝子検査、心臓疾患では心電図、糖尿病では血糖値など生物学的・生
理学的な検査とバイオマーカーが診断と治療選択に重要な役割を果たしますが、精
神科にはそれに対応するものがない」とあり、「複数の医師の診断がどれほど一致
するかを評価する『カッパ係数』(0~1)も、認知症 0.78、ストレス障害 0.67
に比べて、うつ病 0.28と低いのが実態」なのだそうです。
(参考:中外医学、精神医学より)『臨床医学は身体医学と精神医学に大きく分けられるが、
精神医学は精神の 異常、不健康を対象として、予防、診療、リハビリテーションなどを行う医
学分野であり、 身体医学の疾患や症状は、イメージや理解が容易であるが、 精神医学の疾患
や症状は見聞体験に乏しく、抽象的で主観的なものが多い ため、イメージや理解がなかなか困
難である.特に統合失調症がそうである。身体医学のような客観的診断法が少なく、診断は面接
を主としていて、客観性に乏しい.』
で、川人氏は、「脳科学に基づく精神医学の新しい取り組み」として、2018年から
戦略的国際脳科学研究推進プログラムにより多数の精神科学者、精神医学者それに
AI技術者により、精神疾患の脳データベース、脳回路マーカそして革新的治療法な
どの開発を行い、このほどベンチャー企業を立ち上げ、診断補助回路マーカ、層別
化マーカ、ニューロフィードバック治療の承認を得、実用化に成功し今年中にうつ
病診断補助に使える医療機器プログラムとして申請する予定だとあります。
内容が専門的でかつ難しく、理解できるまでに至っておりませんが、大体どのよ
うなことなのかを記事から追ってみました。
「被験者がボーっとした状態における、感覚刺激、運動、認知課題がない環境で
全脳の活動を数分間にわたりfMRIで計測し、脳を数百個の領域に分割して、領域間
のBOLD 信号の時間相関を計算する。こうして得られた数万個の安静時脳機能結合
によって決まる脳の(基準となる)設計図は、神経線維の走行で決まる解剖学的な
領域間結合と7~8割一致する。それらから、知能指数、記憶力、年齢、個人認証など
が予測できる上に、精神疾患で異常になることが分かる」とあります。
十分理解できない上に、専門用語が並んで、とてもご紹介?にはならず恐縮の
極みですが、川人氏が研究を行っておられるATRは、㈱国際電気通信基礎技術研究所
で、けいはんな学園都市にある研究所です。 私も現役の頃に時々見学のお邪魔
したことがありますが、このような脳科学の研究の先端にあるとは恥ずかしながら
知りませんでした。
(参考) ㈱NTTデータ経営研究所シニアマネージャー茨木拓也氏の記事から以下にほんの
一部を抜粋しました。
『被験者が「右に行きたいと思っている」か「左に行きたいと思っているか」)と関連付けて、
モデル化が行えるようになり、そうした機械学習による解析やモデリングは脳科学の世界にも
急速に普及している。人間にはとても理解できない多様な脳活動パターンのデータを、人工の
脳の学習機能を用いて理解するようなアプローチである。』
『「飲みものを取って口元に運びたい」という運動意図を読み取ってロボットアームを動す
「ブレインマシンインターフェース(BMI)」や、広告動画を視聴中の脳活動情報から知覚内容
を単語として解読することができる脳情報解読技術、すなわち「脳情報を読み取る技術」は上述
のようなセンシングと機械学習双方の発展により実現された。』
さらに、『脳の情報を読み取るだけでは社会的な恩恵も少ない。臨床医学の世界において診断
技術のみが発達しても何も処方ができないようなものである。この問題の解決に大いに役立つ
のが脳情報表現への介入、すなわち「脳情報に書き込む技術」である。』
お疲れさまでした。
S氏から頂いたリクエスト曲 ニーノ・ロータの サントラです。
ロミオとジュリエット(1968年) テーマ曲 Romeo and Juliet