例年応募が殺到する東京マラソンですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一般ランナーの出場が中止となりました。来年の出場権を確保できることになったためか、参加費を返却しないという決定にも、思いのほか反対意見はなかったように思います。観客の観戦自粛も求められた中でも、応援する人が大勢いたものの、例年のようなお祭り感がまったくない異例の大会となりました。
それに今大会は、オリンピック代表の最後の一枠を目指す実質的な最終戦とあって、MGCで出場権を逃した大迫、設楽、井上のビッグ3が、最低条件である日本新記録と日本人トップを目指してしのぎを削るという点でも、緊張感いっぱいの異例の大会となりました。
今大会は、2パターンのペースメーカーが設定されましたが、どちらのパターンも大迫の日本記録を上回る設定です。果たしてどれだけの選手がそのペースについていけるのか?
MGCでは、異端児設楽がスタートから飛び出し、逃げ切りを狙いましたが、後半失速し大敗。井上は調整の失敗か、最初から流れに乗れずまさかの最下位。クレバーに試合展開を読んでいたかに見えた大迫も、周囲に合わせすぎたのか、終盤での中村匠吾、服部勇馬との競り合いについていけず3位に沈み、有力候補に残ったとはいえ、代表決定を逃しました。
この結果を踏まえて、この3人がどのようなレースをするのか、興味津々でテレビ観戦です。
スタート直後から、井上大仁は先頭のペースメーカー後ろで積極的にレースを進めます。大迫は、先頭集団に着いていきますが、やや後方に付きます。そして、MGCではスタートから飛び出した設楽悠太は第2集団のペースメーカーに付きました。
井上と設楽は、MGCでの反省を踏まえた走り、大迫はいつも通りのゲームプランという展開でしょうか。
先頭集団が日本記録をはるかに上回るペースで進む中、大迫はスペシャルドリンクを取り損ねて一瞬立ち止まるなど、順調なペースで走る井上とは対照的に、中盤から少しずつ離されていきました。前半自重した設楽は後半出てくるかと思っていましたが、後半に入って逆に第2集団の後方に下がり、爆発する気配が見えません。
あまりのハイペースにペースメーカーも最後は一人になるほどで、井上もアフリカ選手から少し遅れ始めましたが、それでも走りはしっかりしており、解説者も井上の日本記録を更新しての日本人トップでのゴールを予想していました。
しかし、ペースメーカーがいなくなった30km以降、遅れていた大迫がジリジリと前の第2集団に迫ります。そして、第2集団を捉えたカメラから飛び込んできたのは、それまでとは打って変わって、明らかに苦しそうな井上の表情です。まさかまさかの展開です。
ほどなく大迫は、井上らの第2集団に追い付きました。そして、そのまましばらく付いていくのかと思っていました。大迫は、他の日本人が自身の日本記録を破らないか、日本記録を破っても自分自身が負けなければ良いという優位な立場にあり、無理する必要はないからです。
しかし、大迫はペースが落ちている第2集団に付き合うつもりはさらさらなかったようです。すぐに井上の横に並ぶと、井上の表情を確認して、そのまま前に出ていき、他のアフリカ選手も抜いて先頭に立ちました。
大迫は終盤何度も右わき腹を手で押さえるなど、変調があったのは明らかでしたが、ペースダウンすることなく、最終的には、第2集団で競っていた一人には抜かれ、前からこぼれてきた選手一人を抜いて、全体4位ならが、2時間5分29秒と自身の日本記録を21秒更新する新記録でゴールしました。まだ、選考レースは、琵琶湖毎日マラソンを残していますが、ほぼオリンピック代表の座を手中にしました。前回と同じようなレース展開のように見えて、実は中盤での自重も、終盤での粘りも、前回での反省をしっかり踏まえたものでした。見事なレース展開でした。
一方、30kmまで日本記録ペースだった井上は、終盤大失速で2時間9分34秒の26位に沈み、設楽も2時間7分45秒の好記録ながら一度も見せ場を作れず、16位に終わりました。
ということで、注目されたビッグ3中心に書いてきましたが、選手の競争を促進する一連のオリンピック選考の最高の副産物が、今回のビッグ3以外の好記録続出の結果でしょう。
8位 高久龍 2時間6分45秒
9位 上門大祐 2時間6分54秒
10位 定方俊樹 2時間7分 5秒
11位 木村 槙 2時間7分20秒
12位 小椋裕介 2時間7分23秒
13位 下田裕太 2時間7分27秒
14位 菊地賢人 2時間7分31秒
15位 一色恭志 2時間7分39秒
16位 設楽悠太 2時間7分45秒
と、2時間5分台1名、6分台2名、7分台7名と好記録が続出したことです。もちろん、アフリカ選手には後れをとっていますし、ペースメーカーの力もあります。それでも、これまでの日本人の記録では、5分台1名、6分台5名、7分台12名しかいなかったことを考えれば、大躍進です。これまで停滞していたものが、一気に動き出した感があります。やはり競争は大事だということですね。