森友・加計問題をうやむやにすべく(と想像される)、大義なく国会冒頭に解散に打って出た安倍首相。都議選で自民党を撃破した勢いを駆って希望の党を設立した小池百合子。党勢回復の見込みが立たない野党第一党民進党の実質的な解党とも言える捨て身の希望合流を決めた前原新代表。
これで、それまでの与党有利の状況から、一気に情勢が流動化、自民党は危機感を強め、勝敗ラインを自公で過半数獲得と、実質惨敗に近いラインまで下げました。
しかし、全会一致で希望の党への合流を決めた民進党候補者に対し、小池百合子希望の党代表の「全員受け入れる気はさらさらない。排除いたします」発言で、またまた一気に情勢が流動化。というか、希望の党の液状化とも言える崩壊が始まりました。そもそも埋立地ともいえない砂上の楼閣だったのかもしれません。躍進どころか、公示前の57議席から50議席に減らし、大半は民進党出身者です。
排除されるとされたリベラル系議員は反発、枝野幸男が立憲民主党を設立しました。旧来の民主党、民進党は、改憲論者から護憲派、自民党出身者から労組を支持基盤とする者までいて、意見が異なりすぎる党内事情からまとまりを欠き、内紛を繰り返してきましたが、今回、あえて「立憲」を党名に加えることで、旗幟を鮮明にしました。これにより、筋を通したとの評価を受け、投票まで短期間にもかかわらず、一気に支持を集め、解散前の15議席から55議席まで躍進しました。
とここまでが、今回の衆院選の大方の総括でしょう。しかし、今回の希望の党の自壊は、排除発言だけの問題だったのでしょうか。一部のマスコミでは既に言われていますが、希望の党の自民党との違いの分かりづらさということも大いにあったのではないかと思います。
日本新党で政界入りした小池百合子は、その後、新進党、自由党、保守党、自民党と経ての今があります。その経歴を見てもそうですし、主張も改憲や安全保障問題などについては、自民党と大きく変わるところがありません。それでも自民党と差別化しなければならないため、消費税増税の凍結を打ち出しました。しかし、何の財源の手当てもないことを指摘されると、企業の内部留保に課税するとの私案を表明しました。内部留保は、法人税を納めたあとの利益ですので、理不尽な二重課税となります。そもそも、東京都知事がなぜ国政に?という疑問があった上に、自民党と何が違うの?本当に野党なの?という根本的疑問が底流にあったと思います。
東京都知事選、東京都議選でも、それは同じだったのですが、小池百合子の戦略が巧みだったのか、有権者に見る目がなかったのか、見事に引っかかってしまったということだと思います。
その結果が、一時は崩壊寸前だった安倍政権が、まさかの自公で2/3の大勝です。普通これだけ勝てば、喜色満面ですが、安倍首相が神妙な面持ちで花をつけていたのは、小選挙区制という制度の中での、野党の自滅に勝因があったということをよく承知しているからでしょう。
小選挙区制では、一人しか当選できません。中選挙区制と違って、死に票が多くなります。与党に対する野党が、乱立すれば、与党を利するのは当然です。今回、小池百合子は、自身の力を過信し、第1党にはなれなくても、与党を過半数割れに追い込んだ上で、巨大な野党第1党に躍り出て、政界のキャスティングボードを握ろうと企んでいたと思いますが、結果は、日本をますます混迷に追い込んだだけです。
立憲民主党は、筋を通して躍進したとはいえ、所詮55議席です。自民党と主張が同じ希望と手を組むことはあり得ませんし、そうすると、結局、巨大与党の思うがままになります。
本当は、自民党の中にも、旧民主党や現立憲民主党に近い議員もいるはずですし、公明党も本来は中道の平和志向の党です。こうした矛盾が解決されないまま、与野党の党勢が固定され、あれだけ疑惑だらけの安倍首相が歴代最長を視野に入れています。
これは、安倍一強で、それに対する勢力がない自民党自体にも問題があります。かつての自民党であれば、各派閥の領袖が競い合って、もっと緊張感があったからです。それが、小選挙区制になり、公認権や金を党執行部が握るようになってから派閥は力を失い、党執行部、その頂点に立つ総裁の力が突出するようになりました。これは、権力闘争に打ち勝って総理に登りつめた小泉元首相の功罪でもあるかもしれませんね。かつての派閥争いに終止符を打つ、官邸中心の人事、極めつけは郵政解散で、党に楯突くことが出来ないような体制にしました。
その結果が、安倍首相のようなレベルでも、これだけの長期政権を出来るような体制を作ってしまったとも言えます。
ということで、今回の選挙で、暫く日本の混迷は続くことになるでしょう。
今更ですが、小池百合子が今回反省すべきは、自分の発言で云々ということではなく、自分の野心で事を起こそうとしたことですね。本当に日本のことを思って、立ち上がったのであれば、自民党を割り、民進党を割り、本当の意味での政界再編を目指すべきでした。しかし、所詮彼女は、自分の野心のためにやっていただけなので、今回の結果になったのだと思います。
私心を捨てるのは難しいと思いますが、本当に良い仕事は、私心を捨てたところにしかないと思います。今回の選挙の戦犯は、希望が勝った負けたなどという小さなことではなく、混迷をますます深めた小池百合子であることは間違いありません。