今年の甲子園は、慶應高校の107年ぶりの優勝で幕を閉じました。プレーももちろん素晴らしかったのですが、神奈川県予選での横浜高校との決勝戦での「誤審騒ぎ」に始まり、「エンジョイベースボール」、「長髪」、「美白王子」など、プレー以外の話題も多かったのが印象的です。中でももっとも賛否を巻き起こしたのが、「応援」でしょう。
もちろん、賛成意見もありますが、どちらかと言えば、「相手への気遣いがない」との批判が大勢のようです。私自身は、この決勝戦を見てはいないのですが、報道で見聞きする限り、相当過熱した応援だったようですし、想像もつきます。
散田ドラゴンズのお手伝いをするようになってから、都合が合えば、八王子市民球場(現スリーボンドスタジアム八王子)で西東京大会を観戦するようになりました。強豪校と普通の高校などが対戦する時は、応援の人数、ブラスバンドやチアリーダーの態勢などで大きな差があり、普通の高校が気の毒になり、そちらを判官びいきしたくなります。しかし、だからといって、こうした状況が「相手への気遣いがない」と批判の対象になることはありません。あくまで「程度の差」だからです。
しかし、これが早稲田実業(あるいは早稲田学院)だと話が違ってきます。所謂高校野球風の応援ではなく、東京六大学リーグで見られる応援となってくるからです。コンバットマーチが流れ、点が入るたびに「紺碧の空」が響き渡り、普通の高校だと雰囲気に飲まれてしまうのが分かり、気の毒になります。ここには応援の「質の差」があります。しかし、気の毒にはなるものの、予選や甲子園でも普通の試合では、そこまで目くじらを立てられることはありません。
それが今回大きな賛否を巻き起こしているのは何故か。それは、慶應高校が107年ぶりの優勝をかけた舞台に立ったことで、「質の差」だけでなく、そこに「程度の差」も加わったからだと思います。慶應はいわずと知れた伝統校ですから、そのOBも数多いわけですが、この「107年ぶり」という状況に、OBたちが過剰な盛り上がりを見せ完全に「程度の差」が出てしまったのだと思います。過去、公立の星・佐賀北ががばい旋風を巻き起こして、強豪広陵と決勝戦を戦った時は、完全に観客を味方につけて、後にプロ入りした好投手野村を擁する広陵を下して優勝したことがありましたが、普通なら甲子園に出るチーム同士で、「程度の差」が出ることはありません。しかし、今回は仙台育英が完全アウェー状態に置かれる「程度の差」があり、そこに通常の高校野球の応援ではない、嵩にかかって畳みかける応援の「質の差」が加わったので、強豪仙台育英と言えども影響されなかったとは言えないと思います。慶應高校出身のTBSの井上アナウンサーが、仙台育英は高いレベルで練習してきており、(応援のせいで負けたと言うのは)失礼だ、という主旨の発言をしていますが、それはこの決勝戦に関しては的外れな気がします(現に春の選抜大会では僅差ではありますが、仙台育英が勝利しているのですから)。
もちろん、どんな応援があったとしても、実力がなければ勝つことは出来ないわけで、試合を戦った選手に罪はありませんが、甲子園での高校野球の応援は、相手チームをリスペクトし、節度をもって行うべきだと私も思います。