初めて予選プールを突破し、ベスト8進出を果たした日本は、準々決勝の南アフリカ戦では「ブライトンの奇跡」再びとはならず、残念ながら3対26の完敗に終わりました。既に1週間前のことになりますが、虚脱感ですぐに感想を書くことが出来ませんでした。
南アフリカの出足鋭いディフェンスは、裏を返せば完全にオフサイドと言えるほど前がかりなもので、試合中何度も「オフサイドだろぉ~」と叫んでしまいましたが、1回くらいしかペナルティは取られませんでした。そして、今泉清さんが翌日のコラムで書いていたように、いかに反則をしようとも、レフリーに取られなければそれは反則ではないということです。残念ながらそれが事実です。
しかし、それだけ南アフリカを本気にさせたということも言えるでしょう。日本も直前の南アフリカ戦では手の内を見せず、いろいろ新しい試みをしましたが、反則すれすれの南アフリカの出足の前に効果をあげませんでした。しかし、南アフリカも日本に脅威を感じていたに違いなく、その証拠に数々のミスを犯しました。しかし、日本もそのミスを突くこともできませんでした。今大会で日本の強みとなっていたフォワード、スクラムでも、南アフリカがパワーで上回ったことが大きかったですね。今大会の日本は、スピーディーなボール回しと強力なスクラムが強みとなっていましたが、その両方を消されてはなかなか勝機は掴めません。
しかし、今大会で日本は大きなものを手に入れ、また、世界に認めさせたことは大きな成果でした。直前まであまり盛り上がりが感じられず、心配されましたが、ふたを開けてみれば、各地で大観衆を集め、世界からは日本のファンのホストぶりに賞賛が寄せられ、視聴率もとんでもない数字を叩き出しました。日本代表の戦いぶりが大いに寄与したことは間違いないでしょうね。
今回のW杯開催で俄かラグビーファンが増えたと言われています。それはそれで結構なことです。何とかラグビー人気がもっともっと広がってくれるといいですね。
前にも書いたことがあるかもしれませんが、私自身は俄かファンではありません。高校時代に体育の授業でラグビーがあり、クラス対抗のラグビー大会があるほどラグビー熱が高かったのです。クラスメイトのラグビー部員から、1セン飛ばし、2セン飛ばし(2人いるセンターのいずれかを飛ばしてパスするプレー)、カンペイ(バックスへの展開にフルバックが参加するプレー。菅平〔すがだいら〕の合宿中に生まれたので、カンペイというらしいです)などのサインプレーを教わり、素人ながら本格的にプレーをしていました。上着は本物のラグビージャージが指定の体操着となっていたくらいです。
そして、大学に入った頃は、早明戦、早慶戦も大人気でしたが、何よりもスクールウォーズのモデルにもなっている伏見工業出身の平尾、大八木率いる同志社大が大学選手権3連覇の全盛期で、ラグビーが大いに盛り上がっていた時期です。ですから私も、オフサイド、ノッコン、スローフォワード、ノットリリースザボール、オーバーザトップ、コラプシング、ノットストレートなど基本的なルールは知っていますが、大雑把に言えば、待ち伏せ禁止のオフサイドくらいしかルールがないサッカーと比べると、相当ルールは難しく、この点が人気の浸透を阻んでいたということが言えるでしょうね。ある程度ルールを知っているつもりの私でも、まだ新しいルールを知ることがあるくらいです。
ルールもそうですが、プレーもどんどん進化し、以前とは異なってきています。例えば、ラインアウト(タッチに出たあと、ボールを投げ入れてゲームを再開するプレー)では、今はリフティングという形で、ジャンパーを高く持ち上げますが、以前はそれは認められていませんでしたので、背の高い選手がいるチームが圧倒的に有利でした。また、選手層で早明に劣る慶応大学の下半身低く入るタックルが「魂のタックル」と称されましたが、今では、走っている踵を払って倒すアンクルタックルや、一人が上半身を抱え込み一人が下半身を倒しにかかるダブルタックル、上半身を掴んで倒し自分も立ったまま次のプレーに移るタックルなど多様になっています。
それもこれも、ラグビーという競技がどんどん進化し、高度化しているからでしょう。かつて、フォワードは大柄でスクラムを組む人というイメージでしたが、今では、走れないフォワードは存在価値がなくなっています。ウィングだってただ走るだけの人ではなく、松島も福岡も献身的にディフェンスをしましたし、サモア戦ではモールにも参加していきました。
昨日、ラグビー発祥の国イングランドが3連覇を狙う世界ランク1位の絶対王者ニュージーランドを破ったのも、そうしたラグビーの進化の延長線上に位置づけられるでしょう。イングランドは、前回大会で日本を率いた名将エディー・ジョーンズは、組合せが決まった2年半前からこの日に向けて準備をしていたということです。イングランドも世界ランク2位の実力がありますが、それにしても、ニュージーランド相手にあれだけ圧倒したというのは、相手の強みを徹底的に消したからということが言えます。
しかし、イングランドも、日本も、ハードワーク出来る厳しいトレーニングが前提になっています。しかし、それさえ出来れば、まだまだいろんな可能性があるということが分かった今大会ではないかと思います。
まだ、今日準決勝の2試合目、決勝が横浜であります。まだまだ楽しみたいですね。