予想されていたこととはいえ、改めて目の当たりにすると、すごいことになっています。
小泉政権時代の構造改革が自民党の逆風になったかというとそういうことではないと思います。小泉政権の政策がすべて良しとは言いませんが、今までのやり方ではダメだ、変えなければならないという方向性は正しく、国民もそれをある程度支持していたのだと思います。自民党の中の反小泉勢力は、地方が疲弊したとして小泉政権時代の施策を否定しましたが、昔みたいに公共事業を増やすやり方でいいのかと言うと、決してそんなことはないと国民も気づいているのだと思います。カンフル剤として人が少ない地方に箱もの、道路などの公共事業を増やしても孫子の代に負担を残すだけです。問題は、今回の選挙戦で首長連合が話題となりましたが、地方への権限・財源の移譲など、地方が自ら活性化するための方策を推し進められなかったからです。そうした根本論に手を付けず、小泉政権が獲得した296議席(民意)を背景にしながら、小泉政権の政策が悪い、悪いと平気で言いだす人たち(自民党)を信用できないというのは、素朴な感情だと思います。
その後の、路線の定まらない中での政権投げ出しも自民への不支持の要因として、大きかったと思いますが、投げ出し自体も全ての原因ではないでしょう。佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎という数少ない例外を除けば、日本の総理大臣は長くやりたいと思っても、せいぜい2年で交代するのが普通でした。それはそれでどうかと思いますが、それくらい政権獲得のエネルギーがすさまじく、多士済々だったのが自民党だったわけです。
ところが、小泉後は、大本命・長期政権視された安倍晋三が、国民が国に対して強い不安を抱くようなやめ方とし、後を引き取る人がおらず、父と違ってまったく欲がなかった福田康夫が引き継いだものの、衆参のねじれで行き詰るとあまりに人の好すぎる身の引き方をし、巡り巡って、よりによって、首相の座が欲しくて欲しくて仕方がなかっただけの麻生太郎がついにその座についてしまいました。これも本質的な原因ではないでしょうが、今回の大地殻変動のトリガーになったのは確かです。
最大の原因は、首相になることが目的だった麻生太郎に政権を任せるしかなかった自民党、もしくは自民党的なるものに国民が愛想を尽かしたことです。麻生太郎より有能な政治家は自民党にもたくさんいます。しかし、瀕死の重傷になりながら、それを前面に押し出すことができなかったのです。これはもうだめだと国民が見限ったということです。小泉さんがすべていいとは言いませんが、郵政民営化を政治家としての信念として、ずっと貫き通しブレはありませんでした(変人とは言われましたが)。一方、麻生さんは首相としてあの手を額にかざしての格好つけの挨拶がしたいだけではないかというくらい、政治家としての理念は見えませんでした(おまけに、まったく恥ずかしいくらいの知性のなさ、失言の数々…)。それが、CMや演説では平気な顔して「私たちにお任せください。」「責任を持ちます。」と言い放っているのです。私は特定の支持政党はありませんが、今のような難しい時代に、こんな能天気なおじさんに政権は任せられないというのが、正直な感想です。また、そうしたおじさんを大多数の支持で、選挙の顔として選んでしまう自民党が信じられないというのが今回の結果の最大の原因でしょう。
しかし、こうしたことも、つい先日の東京都議会議員選挙のときまでは真剣に認識されていませんでした。それは自民党だけでなく、民主党にもです(民主党も風がこれだけすさまじいものだったら、もっと準備が進み、後半自民党につけいられることもなかったと思います)。これまでの例で言えば、40日間という長い選挙戦(による中だるみ)、報道によるアナウンス効果によって揺り戻しがありましたが、今回はブレがありませんでした。さすがに民主党も、この結果に浮かれているだけではいられないと思います。それが、55年体制以降の最初の政権交代だった1993年との違いだと思います。国民が確信をもって政権交代を実現した今回の政権では、本当に政策の結果が問われます。しっかりした政治をしてもらいたいものです。関心を失うことはありませんが、安心して野球のことばかり語れる世の中にしてもらいたいものです。