最近、芸能人の不倫騒動がよく話題になっています。不倫は今に始まったことではないですが、文春砲と言われるように、マスコミの追及が以前より激しくなっているのかもしれませんし、より大きな反響を呼びそうな(ビジネスになりそうな)ターゲットを狙っているからかもしれません。
不倫自体は特段不思議なことではありません。生物学的には、一人でも多く自分の遺伝子を残そうとするのが自然であり、人間が夫婦関係を築くようになったのは、進化の過程でその方が生存に有利だったからに過ぎないと言われています。脳が大きくなり、十分に育つ前に生まざるを得ないため、人間の子どもは生まれてから1年以上立つことが出来ません。その間、母親が一人で子どもを育てるのは容易なことではありません。そこで夫婦関係を築くことで、父親と一緒に子どもを育てるようになったということです。同じ霊長類の中でも人間にもっとも近いチンパンジーは、乱婚(言い方が悪いですが)であり、ゴリラは一頭のオスが複数のメスと群れを作ることが一般的で、人間とはまったく違う形態です。鳥でも、繁殖期だけつがいになる種もいれば、生涯にわたりつがい関係を維持する種もいるなど、いずれにしても、それぞれ進化の過程で形成されたものであり、生物学的に見れば、一夫一妻制の種が配偶者以外の個体と関係を持つこと(いわゆる不倫)は、善でも、悪でもありません。
人間においても、一夫多妻が認められている国もありますが、一般的には一夫一妻制であり、日本においても同様です。しかし、不倫をしたからと言って刑事罰に問われるわけではなく、民法の「不貞行為」を問われ、離婚原因になるとともに、不倫相手ともども損害賠償責任が生じるだけです。つまり、この責任を果たせば、週刊誌やワイドショーが騒ごうが、他人からとやかく言われる筋合いはないことです。私も、芸能人の不倫騒動自体に大して興味はありません。
しかし、イメージが重要な芸能人の場合は、それだけでは済みません。イメージの悪化に伴い失うものが多すぎます。私が不思議に思うのは、なぜそれほどのリスクを冒して同じことを繰り返すのか、ということです。俳優の東出昌大さん、アンジャッシュの渡部建さん、ジャニーズの近藤真彦さん、不倫ではありませんが交通事故現場から逃げた伊藤健太郎さん。彼らは、多くのテレビコマーシャルや番組、映画、舞台などに出演していた人気芸能人です。その人気の源泉は、彼らの芸にもあるでしょうが、もっとも重要なのは、言うまでもなくイメージです。そのイメージの失墜により、彼らはその仕事のほとんどを失っただけでなく、損害賠償責任を負います。そして、今後もこれまでのような仕事を出来ることは非常に難しいと言われています。彼らとて、そういうことは想定出来たと思うのですが、それなのに何故?というのは素朴な疑問です。
単純な理由としては、いわゆる「勘違い」ということが考えられます。自分の人気を実力と勘違いして、何があっても大丈夫と思ってしまったのかもしれません。若くして人気者となり、周囲からもちやほやされ、それを諭す人も少なくなったように見える東出昌大さんや伊藤健太郎さんは、そうした面もあるかもしれません。
しかし、この二人とて、そうした要素はあったかもしれませんが、それだけとは思えませんし、渡部建さんや近藤真彦さんは、十分に大人で経験もあり、単なる「勘違い」とはとても思えません。では何故なのかと言うと、人間には、様々な「認知バイアス」があるからだと思います。バイアスとは、偏りとがゆがみということで、人間の思考、判断には、自分に都合良く物事を見たり、直近の出来事に左右されたり、さまざまな偏り、ゆがみがあるということです。何度も同じことが繰り返されているにもかかわらず、自分に都合が悪いことは見ずに、自分はこれまでも大丈夫だったので、大丈夫だろうという「認知バイアス」にはまってしまったのではないかと思います。
私は芸能人ではありませんし、不倫をするつもりもありませんが、認知バイアスは様々な場面で起こり得ることですので、こうした事例も単なるゴシップとして見るのではなく、他山の石としたいですね。