精神力や気持ちだけで通用するほどプロの世界は甘くありませんが、それでも才能あふれた選手たちが集まるプロの中で頭角を現すには、プロフェッショナルとしての気持ちの在りようが左右することは言うまでもありません。プロとしては小柄な桑田は、それを補うために人一倍練習し、人一倍「考えて」プレーしましたが、それを実行できるのはやはり精神的な強さがあるからです。桑田自身は、世間の人がそういう見方をすることに対し、「練習がイヤになることもあるし、桑田なら当たり前のように出来ると思われることに反発もあります」というようなことも言っています。人間ですから、当然のことです。しかし、そうした諸々の思いを抱えながらも、桑田投手の歩いて来た道は、彼が他の選手よりも強い精神力を持っていることを表しています。
選りすぐりの選手が集まるPL学園の中で一年からエースの座を獲得し、甲子園20勝、ホームラン6本と輝かしい戦歴を残しながら、晴れがましいはずのプロ入り時に大人の思惑で思わぬ悪役に仕立てられてしまいました。しかし、プロに入って2年目には実績を残し、実力で雑音を封じたと思ったら、身内の大人に利用され多額の借金を背負い、「金まみれ」という謂われなき汚名を着せられました。先発・抑えと身を粉にして献身的な働きでチームを優勝に導き再び雑音を封じたと思ったら、靭帯断裂に見舞われました。
しかし、真のファンにとっての判断基準は、「フィールドでのプレー」だけです。私の知り限り、桑田投手ほど走攻守の揃った選手はいませんし、チームのために献身的に働く選手はいませんでした。先日引退した野茂投手同様、「野球が好きだ、野球がうまくなりたい」という純粋な気持ちがなければ出来ない39歳でのメジャー挑戦(ここにもケガからの復活が待ってましたが…)も彼の生き様をよく表しています。
選手としては一流でもそれだけで終わる人も多いでしょうが、桑田投手は今後も指導者としてプロ・アマ含めた野球界に貢献できる人材です。彼の今後の活躍に期待です。また、彼の息子も高校野球にデビューしました。政治家や同族会社と違って、実力勝負の世界であれほどの親を超えるのは大変なことですが、その中で息子が父と同じ道を歩んでいることが、何よりも桑田の生き方の真の姿を表していると思います。