前作の「イリアム」が長大な挙げ句に読み終わってもほとんどの謎が解決されずに、続巻の「オリュンポス」に委ねられていることを、「イリアム」を読んだとき(2006年9月)に嘆きましたが、この「オリュンポス」を読み終わっても、人類とヴォイニックス・キャリバニの戦いやトロイア戦争・オリュンポスの神々の戦いにはけりがつけられるものの、上位神のプロスペロー、エアリアル、キャリバン、セテボスらについてはほとんどわからないし決着もないまま。特にシコラックスとセテボスと「静寂」の関係が何の説明もないのはあんまり。
謎解きの類も、量子宇宙論の用語を並べてごまかしているだけでほとんど説明になっていないように思えます。話の設定が矛盾だらけなのは訳者自身があとがきと註解で指摘しています。壮大な物語の設定を楽しめればいいという読み手には楽しめると思いますが、緻密なタイプの人はやめた方がよさそうです。私も「イリアム」を読んでしまったから結末を知りたいと思って、さらに長い「オリュンポス」も読みましたが、まだこの続編が出るとしたら、今度はパスします。
訳者の指摘とは別に、「イリアム」であれほど人間のファックスや再生院に嫌悪感を示していたハーマンたちが、何の抵抗もなくファックスし再生院の復活を望んでいるのも違和感を持ちました。
そして何と言ってもオリュンポスの下巻で地球に暗黒時代をもたらした災厄をユダヤ人の受難とイスラム狂信者のテロ(ルビコン・ウィルスと潜水艦「アッラーの剣」に登載されたブラックホール爆弾)、「ハーン帝国」の支配と書かれたあたりから、もうまじめに読む気失せました。「文明の衝突」とか「悪の枢軸」とか言っている人達のための慰みだったんですね。下巻だけで休日まるまる2日かかったんだけどなあ・・・。
これを読む前に「英詩のわかり方」を読んでいたんで助かりましたが、ギリシャ神話+プルースト+イギリス文学、特に詩とシェークスピアの引用に満ちた衒学趣味的作品です(上巻では少し少なかったんですが下巻ではまた大量に出てきます)。未来の地球においてさえラストでシェークスピアが最高の天才と位置づけていますし。その意味ではスペース・オペラではなくてイギリス文学SFという新しい(たぶん読みたい人は稀な)ジャンルを開拓しているというべきかもしれません。

原題:OLYMPOS
ダン・シモンズ 訳:酒井昭伸
早川書房 2007年3月31日発行 (原書は2005年)
謎解きの類も、量子宇宙論の用語を並べてごまかしているだけでほとんど説明になっていないように思えます。話の設定が矛盾だらけなのは訳者自身があとがきと註解で指摘しています。壮大な物語の設定を楽しめればいいという読み手には楽しめると思いますが、緻密なタイプの人はやめた方がよさそうです。私も「イリアム」を読んでしまったから結末を知りたいと思って、さらに長い「オリュンポス」も読みましたが、まだこの続編が出るとしたら、今度はパスします。
訳者の指摘とは別に、「イリアム」であれほど人間のファックスや再生院に嫌悪感を示していたハーマンたちが、何の抵抗もなくファックスし再生院の復活を望んでいるのも違和感を持ちました。
そして何と言ってもオリュンポスの下巻で地球に暗黒時代をもたらした災厄をユダヤ人の受難とイスラム狂信者のテロ(ルビコン・ウィルスと潜水艦「アッラーの剣」に登載されたブラックホール爆弾)、「ハーン帝国」の支配と書かれたあたりから、もうまじめに読む気失せました。「文明の衝突」とか「悪の枢軸」とか言っている人達のための慰みだったんですね。下巻だけで休日まるまる2日かかったんだけどなあ・・・。
これを読む前に「英詩のわかり方」を読んでいたんで助かりましたが、ギリシャ神話+プルースト+イギリス文学、特に詩とシェークスピアの引用に満ちた衒学趣味的作品です(上巻では少し少なかったんですが下巻ではまた大量に出てきます)。未来の地球においてさえラストでシェークスピアが最高の天才と位置づけていますし。その意味ではスペース・オペラではなくてイギリス文学SFという新しい(たぶん読みたい人は稀な)ジャンルを開拓しているというべきかもしれません。

原題:OLYMPOS
ダン・シモンズ 訳:酒井昭伸
早川書房 2007年3月31日発行 (原書は2005年)