インディペンデント紙記者による2006年秋までのイラク占領のレポート。
湾岸戦争後の過酷な経済制裁が(サダムにはダメージを与えず)一般のイラク人を困窮させたことが、失うものは何もない敵意に満ちた危険な人間であふれる崩壊したイラクを帰結したこと(第2章:49頁)、1945年のベルリンではソ連軍は陥落前からベルリンの復興のため密かに担当可能なドイツ人を招集し(140頁)1991年の湾岸戦争では激しい空爆で破壊された発電所などのインフラをフセイン政権は数ヶ月で復旧した(140頁)にもかかわらずバグダッド陥落から3年たっても電力供給は戦前以下の水準でバグダッドでも1日3~4時間しか電気が使えない(141、289~290頁等)、治安は最悪の状態で今やイラクは内戦状態で全くの無法地帯・・・こういったことが、サダム政権を嫌っていたイラク人を反米に向かわせているという指摘には納得します。
アメリカのシンクタンクが2006年2月に行ったイラク人の意識調査でも、米軍に対する攻撃を容認するという答はスンニ派では88%、シーア派でも41%、クルド人で16%だそうです(272頁)。
イラク暫定政府はバグダッドの米軍厳重警備下の「グリーンゾーン」から出ることもできず、近時は著者も、治安が回復しているというアメリカ・イラク暫定政府の見解は全く間違いだろうが今や地方は怖くて行けないから検証できない状態だとか。
昨今のイラクでは、占領、テロに加えて汚職がイラクを破壊しており(282頁)、イラク政府軍に旧式の中古の武器しかわたらないのは米軍が最新兵器が武装勢力の手に渡ることを恐れているためだけでなく13億ドルもあった兵器購入費が国外に持ち出されて消えているためだそうです(291~293頁)。同様に電力省などでも5億ドルが消えており、慢性的な電力不足の一因だとか(293頁)。アメリカ政府とコネのあるアメリカ企業とイラク亡命者たちの政権運営の立派さには泣けてきますね。
第15章で著者が紹介している事例もとても象徴的。イラク警察の重要犯罪取締部門のトップは米兵に自爆者と誤認されて射殺され、タラバニ大統領直属の儀典長はブッシュ大統領との会見のために空港に向かう途中に米軍の装甲車に突っ込まれて負傷して会見に臨めなかった(326頁)。イラクでは誘拐が成長産業になっているが、被害者はほとんど警察に通報しない。その理由は警察に通報してもほとんど何もしてくれないし通報したら誘拐犯が何をしでかすかわからないし、誘拐犯と警察がグルかも知れない(324~325頁)。あるイラク人医師が誘拐され、珍しく警察の検問で引っかかり誘拐犯が逮捕され誘拐グループは数え切れないほどの誘拐事件を自供したが、その誘拐犯の1人は現役の幹部警察官だった上、なんと誘拐犯を米軍の憲兵グループが警察から引き取り、釈放したといいます(329~332頁)。これでは誰も米軍やイラク政府を信用しませんね。
こういったディテールが生々しいというか説得力のあって、読み応えのあるレポートでした。
原題:THE OCCUPATION : War and Resistance in Iraq
パトリック・コバーン 訳:大沼安史
緑風出版 2007年5月25日発行 (原書は2006年)
湾岸戦争後の過酷な経済制裁が(サダムにはダメージを与えず)一般のイラク人を困窮させたことが、失うものは何もない敵意に満ちた危険な人間であふれる崩壊したイラクを帰結したこと(第2章:49頁)、1945年のベルリンではソ連軍は陥落前からベルリンの復興のため密かに担当可能なドイツ人を招集し(140頁)1991年の湾岸戦争では激しい空爆で破壊された発電所などのインフラをフセイン政権は数ヶ月で復旧した(140頁)にもかかわらずバグダッド陥落から3年たっても電力供給は戦前以下の水準でバグダッドでも1日3~4時間しか電気が使えない(141、289~290頁等)、治安は最悪の状態で今やイラクは内戦状態で全くの無法地帯・・・こういったことが、サダム政権を嫌っていたイラク人を反米に向かわせているという指摘には納得します。
アメリカのシンクタンクが2006年2月に行ったイラク人の意識調査でも、米軍に対する攻撃を容認するという答はスンニ派では88%、シーア派でも41%、クルド人で16%だそうです(272頁)。
イラク暫定政府はバグダッドの米軍厳重警備下の「グリーンゾーン」から出ることもできず、近時は著者も、治安が回復しているというアメリカ・イラク暫定政府の見解は全く間違いだろうが今や地方は怖くて行けないから検証できない状態だとか。
昨今のイラクでは、占領、テロに加えて汚職がイラクを破壊しており(282頁)、イラク政府軍に旧式の中古の武器しかわたらないのは米軍が最新兵器が武装勢力の手に渡ることを恐れているためだけでなく13億ドルもあった兵器購入費が国外に持ち出されて消えているためだそうです(291~293頁)。同様に電力省などでも5億ドルが消えており、慢性的な電力不足の一因だとか(293頁)。アメリカ政府とコネのあるアメリカ企業とイラク亡命者たちの政権運営の立派さには泣けてきますね。
第15章で著者が紹介している事例もとても象徴的。イラク警察の重要犯罪取締部門のトップは米兵に自爆者と誤認されて射殺され、タラバニ大統領直属の儀典長はブッシュ大統領との会見のために空港に向かう途中に米軍の装甲車に突っ込まれて負傷して会見に臨めなかった(326頁)。イラクでは誘拐が成長産業になっているが、被害者はほとんど警察に通報しない。その理由は警察に通報してもほとんど何もしてくれないし通報したら誘拐犯が何をしでかすかわからないし、誘拐犯と警察がグルかも知れない(324~325頁)。あるイラク人医師が誘拐され、珍しく警察の検問で引っかかり誘拐犯が逮捕され誘拐グループは数え切れないほどの誘拐事件を自供したが、その誘拐犯の1人は現役の幹部警察官だった上、なんと誘拐犯を米軍の憲兵グループが警察から引き取り、釈放したといいます(329~332頁)。これでは誰も米軍やイラク政府を信用しませんね。
こういったディテールが生々しいというか説得力のあって、読み応えのあるレポートでした。
原題:THE OCCUPATION : War and Resistance in Iraq
パトリック・コバーン 訳:大沼安史
緑風出版 2007年5月25日発行 (原書は2006年)