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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ダリ全画集 第1部、第2部

2007-11-26 07:35:29 | 趣味の本・暇つぶし本
 サルヴァドール・ダリについての解説付き画集。「全画集」と題するだけに2巻組通し頁で780頁、図版1648点(全部がダリの絵の図版というわけではありませんが)という大著(それにもかかわらず定価6900円というのはさすがタッシェン社というべきでしょうね)。2002年6月発行で絶版になっていたものをタッシェン社創立25周年記念事業の一環としてリニューアル再刊したそうです。
 ダリについては、君主制への信奉/憧憬、戦争・ヒトラーへの姿勢、上流社会へのすり寄り等その生き方には共感を持てませんし、絵や芸術についての傲慢で饒舌な語りを読まされると興ざめしてしまいます。著者の熱意によりダリの出版物からの引用や絵の背景が説明されますが、少なくともダリに関してはそういうのを聞かない方が絵として楽しめると、私は思います。
 元々そう思っていたんですが、ダリが広島への原爆投下に衝撃を受けて「精神分析学のダリ」から「核物理学のダリ」に変貌したとされ、それが要するに物体の浮遊と爆発(破片化)が描かれるようになったことだとなると、複雑な思いを持ちます。強烈な爆発力に感銘を受けたということですね。その下で殺戮された人々は目に入らないみたい。ダリは元々反戦の姿勢はとっていませんが、それでもスペイン内乱(市民戦争)を受けて描いたといわれる「戦争の顔」(第1部336頁)はどくろに満ちていて殺人への批判・嫌悪が感じられるのに、原爆に衝撃を受けて描いたとされる絵はいずれも美しく殺人のにおいがしないのは、祖国と日本の違いでしょうか。
 また、習作・デッサンも含めこれまで知らなかった作品を続けて見ると、ダリが絵を量産し、同じモチーフを少しずつ入れ替えて書き続けていた様子がよくわかります。商業デザインや興行への傾倒(ディズニー映画にまで手を伸ばしていたんですね)とあわせ、アンドレ・ブルトンからドル亡者(Avida Dollars:Salvador Daliのアナグラム=綴り換え)と嘲笑されたのも納得できます。
 そういう生き方というか姿勢には共感できないダリですが、描写力というか、絵の技巧のレベルの高さは、おそらくは自ら絵筆を取ってみたことがある者は誰しも、憧れ/驚異を感じると思います。
 作成年を追って見ていくと、時期により、ピカソ、ミレー、フェルメール、マグリッド、モロー、ベラスケス、ミケランジェロの影響というか意識していたことがよくわかりますし、晩年はかなり画風というかタッチが変わっていることも新発見でした。


ロベール・デシャルヌ、ジル・ネレ タッシェン社 2007年9月発行
コメント
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