伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

いのちはなぜ大切なのか

2007-11-04 09:05:06 | 人文・社会科学系
 ホスピスで終末期医療に携わる医師の立場から、昨今の学校で行われている「命の授業」への違和感を切り口に生と死の認識、死を前にして穏やかでいられるための心の支えについて論じた本。
 学校で流行の「命のバトン」の話(命は自分一人でできたものでなく多くの祖先・父母から受け継がれた大事なものというパターン)について、両親から虐待されたり関係が悪化している子どもにそんなこと言っても絵空事にしか聞こえないだろうし子供を産まない人への脅迫にも通じる(27~33頁)とかいうのは、そうなんだけどでも教育の場でどうすりゃいいのって気もします。
 命の大切さは、例えばあと6ヵ月の命と言われれば実感できるのは事実だが、残念ながらこれは長くは続けられない、それが長くなると患者も家族も疲れてボロボロになる(17~24頁)という指摘は、さすが終末医療の経験に根ざすものと思えますが。
 著者は、命の授業の必要性は結局人や自分を傷つけないようにすることが目的で、人が傷つけるのは希望通りにならない現実の苦しみが原因、努力しても原因を取り除けないことがあるがその時にどうするか、人が穏やかでいられる心の支えは「将来の夢」「大切な人との関係」「自分の自由」があること、人が自己肯定感を持てることが大事でそのためにも自由・自分のことを決められる自由が大事、支えられ方は個別性が高く試行錯誤しながら見つけ出していくしかないと論を進めていきます。
 要するに、マニュアル的な一般解はない、特定の答や万人向けの答を押し付けずに一人ひとりと向き合って考え続けようってことで、それは正しいと思います。同時にその実践は難しいですが。


小澤竹俊 ちくまプリマー新書 2007年9月10日発行
コメント
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