伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ウィキッド 上下 誰も知らない、もう一つのオズの物語

2007-11-15 08:17:51 | 物語・ファンタジー・SF
 ブロードウェイ・ミュージカルとなった(ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでもその一部を上演している)「ウィキッド」の原作。「オズの魔法使い」の「西の悪い魔女」を主人公にしたファンタジーです。
 農民への布教に情熱を燃やす牧師と身持ちの悪い貴族の跡取り娘の間に産まれた緑の肌を持つ少女エルファバ(エルフィー)は、都会の大学で知り合った仲間たちとどこかなじめず距離を置きつつ、言葉を話す<山羊>のディラモンド先生に師事して言葉を話す<動物>の地位向上をめざす研究を進めますが、ディラモンド先生が暗殺され、学長から呼ばれて政府のスパイとなることを求められたのを機会に魔法使いへの面会を求めて<動物>差別の撤回を訴えますが拒否され、反政府活動家(テロリストと言ってもいい)になり、その過程で性関係を結んだ昔の仲間が殺され、殺された仲間とその妻への負い目から赦しを求めて放浪し、赦しを得損ねてついには魔女になっていくことになります。
 ヒットしたミュージカルの原作ということで手にしたので読みやすい作品かと思いましたが、主人公エルファバの内面はちょっとわかりにくく、ドタバタさせながらも意外に宗教とか悪についての観念的な問いかけが多く、読み通すのはけっこう骨が折れました(上下2巻で680頁ほどありますし)。
 エルファバが<動物>の差別・虐待に敏感というかテロリストへの道を歩んだのは、自らが肌の色故に差別されてきたからと思えますが、そのエルファバと放浪してからのエルファバが今ひとつ結びつかない感じで、どこかしっくりしません。また、エルファバが、父(生物学的には父でないようですが)が妹にプレゼントした靴にどこまでもこだわることにも、その父自身を放置して立ち去る姿と合わせ読むと、なんか釈然としないものが残ります。
 エルファバの人と距離を置いた突き放した態度や憎まれ口の中の哀しさにうまく共感できるかどうかが、この作品の評価の分かれ目になるでしょうね。


原題:Wicked:The Life and Times of the Wicked Witch of the West
グレゴリー・マグワイア 訳:服部千佳子、藤村奈緒美
ソフトバンククリエイティブ 2007年10月2日発行 (原書は1995年)
コメント
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