新卒で商品先物取引会社に就職した主人公が厳しいノルマ、上司の罵声、勧誘の相手方の拒絶や無視、舌先三寸で客を騙して金を出させることへの良心の呵責などに悩まされながら営業社員となっていく小説。
証拠金取引で出した証拠金の数十倍の売買をする商品先物取引ではわずかな値動きで大きな利益や損が生じて、損の場合にはあっという間に証拠金が消えて追加証拠金(追い証)が出せなければ損が確定し、利益が出ている間は決済はさせないというしくみはこの小説でも説明されています(その結果、客は、利益が帳簿上出ていてもそれは次の取引の証拠金に回されて何度も取引を繰り返して巨額の売買手数料を先物取引会社に稼がせ、幹部営業社員の巧みなあるいは恫喝の営業トークや決済指示の無視などを乗り越えて強硬に決済指示をして利益が出ているときに決済してしまわない限りは、いつか訪れる大きな損失発生時に追い証が出せなくなって、大きな損失を出して取引を終了するということも読み取れるわけですが、それははっきりは書かれていません)。
しかし、主人公ら営業社員が勧誘した顧客がその後幹部社員の担当になりどうなったかは知らないという形で、営業社員のつらさが中心に描かれ、労働根性ものという感じの展開になっています。単純につらい労働条件で、それを乗り越えていくというパターンの小説は、それも結局はあくどい経営者の存在を消極的にであれ正当化する側面を持つわけですが、まぁありかなとおもいます。しかし、その労働が人を騙して金を出させる、被害者が多数存在するものであるとき、それでいいのかという思いが残ります。終盤で、主人公を、後輩との関係で人間として成長したように描いていて、成長物語っぽい終わり方ですが、人を騙して金を出させることへの良心の痛みをなくすことは成長ではなく人間としては劣化だと思います。
斎樹真琴 講談社 2010年4月20日発行
証拠金取引で出した証拠金の数十倍の売買をする商品先物取引ではわずかな値動きで大きな利益や損が生じて、損の場合にはあっという間に証拠金が消えて追加証拠金(追い証)が出せなければ損が確定し、利益が出ている間は決済はさせないというしくみはこの小説でも説明されています(その結果、客は、利益が帳簿上出ていてもそれは次の取引の証拠金に回されて何度も取引を繰り返して巨額の売買手数料を先物取引会社に稼がせ、幹部営業社員の巧みなあるいは恫喝の営業トークや決済指示の無視などを乗り越えて強硬に決済指示をして利益が出ているときに決済してしまわない限りは、いつか訪れる大きな損失発生時に追い証が出せなくなって、大きな損失を出して取引を終了するということも読み取れるわけですが、それははっきりは書かれていません)。
しかし、主人公ら営業社員が勧誘した顧客がその後幹部社員の担当になりどうなったかは知らないという形で、営業社員のつらさが中心に描かれ、労働根性ものという感じの展開になっています。単純につらい労働条件で、それを乗り越えていくというパターンの小説は、それも結局はあくどい経営者の存在を消極的にであれ正当化する側面を持つわけですが、まぁありかなとおもいます。しかし、その労働が人を騙して金を出させる、被害者が多数存在するものであるとき、それでいいのかという思いが残ります。終盤で、主人公を、後輩との関係で人間として成長したように描いていて、成長物語っぽい終わり方ですが、人を騙して金を出させることへの良心の痛みをなくすことは成長ではなく人間としては劣化だと思います。
斎樹真琴 講談社 2010年4月20日発行