伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

徴兵制と良心的兵役拒否 イギリスの第一次世界大戦経験

2010-10-23 19:02:24 | 人文・社会科学系
 大陸諸国と異なり第一次世界大戦前は徴兵制を持たなかったイギリスにおいて、「イギリスの自由の伝統に反する」という大勢の主張に抗して徴兵制導入を進めていった政治家たちの動きと、徴兵制導入に反対し徴兵制実施後は良心的兵役拒否を主張して抵抗した運動を紹介した本。
 導入に当たって、一般にいう徴兵制、特にドイツの徴兵制とは違うことを示すために入れられた良心条項があいまいで、審査の実務が兵士募集を推進する人々によって行われたことや第一次世界大戦中の戦勝こそすべてに優先するという世論もあって、良心的兵役拒否者に対しては激戦地への派遣→命令拒否に対する過酷な軍法裁判という道や投獄が待っていた。これらの処遇には世論の反発もあり健康を害した一定の者が釈放されたが、第一次世界大戦の激化により獄中者のことは忘れ去られた。イギリスの自由の伝統を掲げて良心的兵役拒否のために獄中闘争をした活動家たちは、無力感に陥ったというようなことが紹介されています。
 他方において、良心的兵役拒否者に軍事行動を強いても組織としては非効率ですし、見せしめに投獄するのもそのためにかける労力も見合わないものです。第2次世界大戦の際には、ナチスドイツの横暴ぶりから徴兵制の再導入はよりスムーズに行われ、他方良心的兵役拒否は全面免除も含めてより広範にスムーズに認められたそうです。
 そこでは第一次世界大戦時の良心的兵役拒否による抵抗の世間と政府・軍部への認知と政府側の学習が効いたのでしょう。
 それでも絶対的平和運動の当事者としての良心的兵役拒否者が自らの運動を無力感を持って否定的に総括せざるを得なかったことは悲しいところです。同じくナショナリズムと非暴力を掲げたガンジーらの運動には高い評価がなされるのが普通になっていることを考えても、もう少し肯定的に評価していいんじゃないかとも思うのですが。


小関隆 人文書院 2010年9月20日発行
コメント
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