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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

イノセント

2017-02-06 00:19:57 | 小説
 性的虐待を受けて育ち優しい夫と死に別れた薄幸の美貌の美容師徳永比紗也と、函館で比紗也を見初めた軽薄なモテ男のイベント会社社長真田、回転ドアで手を挟まれたところを比紗也に救われた自らの「内なる声」と過去の罪に悩む神父如月が、すれ違い絡み合う恋愛官能小説。
 見た目のよい中身はなく軽薄で身勝手な「俺様男」と、誠実に尽くす押しの弱いタイプの男に追われ慕われという設定は、ありがちな韓流ドラマのよう。そして、そういう場合、ヒロインは、押しの弱い性格のいい誠実な男ではなくて、性格の悪い俺様男を選ぶというのも、ありがちなパターン。男性読者には、やるせない思いがあります。
 性的虐待等の過去のためではありますが、心を開かず、見てくれがよく男好きがするという同性からは嫌われるタイプのヒロインと、軽薄で中身がなく外見がよくてモテる俺様男というやはり同性からは嫌われるタイプの男の組み合わせは、男性読者からも女性読者からも受けが悪いのではないかと思います。
 性的虐待を受けたヒロインの行く末は、希望を持てるというべきなのか、如月の普通にはあり得ないような献身があって初めてそのような結末に至るというあたり、むしろ現実には絶望的というべきなのか、類似の経験を持つ読者はどう感じるのか、気になるところです。作者が、性暴力をめぐりその作品ごとにその扱い・評価に大きな振れ幅を見せているように、私には感じられます。「RED」に続き、官能小説的な色彩が強くなってきているその表現とあわせて、作者の姿勢とターゲットが気になります。


島本理生 集英社 2016年4月30日発行(「小説すばる」連載)
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