伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

貧しい人々のマニュフェスト フェアトレードの思想

2017-02-12 23:13:13 | 人文・社会科学系
 メキシコ南部のオアハカ州山岳地帯の先住民コーヒー農民とともに働き、生産協同組合を組織して仲買人(中間搾取者)を排除し消費者と直接農民が生活条件を向上させ環境の改善ができるような最低価格を合意して取引するフェアトレードの枠組みを構築した労働司祭によるフェアトレード運動のためのパンフレット。
 著者の主張は、農民(庶民)にとって必要なことは、尊厳を持って生きることであり、そのためには施しではなく農民の労働(生産物)が正当に評価されること、それを確保するシステムこそが必要だということです。著者は、チャリティは不要で、有害だと述べています。「チャリティは、他者を主体的存在または生活者としてではなく、対象物として扱う。このことは、人々の暮らしを支えることに不適当である。他人にお金を乞うことは、この世で最も屈辱的なことだ。」(61ページ)、「途上国にやってくる大抵のNGOは、活動が行われる地域において、最も貧しい人々が何を必要としているかを問わずに、地域住民にとってよいことについて、あたかも住民よりよく知っているかのごとく振る舞っている。」(62ページ)、「結果として、NGOのメカニズムは、自由主義システムを正当化する大量破壊兵器のようなものになってしまう。長期的なプログラムあるいはプロジェクトにおいて、NGOはドナーから優先事項を監視されており、地元のニーズに基づいて機能するわけではない。3~5年間プロジェクトを実施し、その後のことは考えず、バトンを持ったまま帰ってしまったNGOを私自身どれだけ見てきたことか。」(63ページ)など、上から目線の施し(チャリティ)を非難しています。
 「解説」の中で、国民1人当たりの2013年のフェアトレード製品購入額が、スイスが5930円、イギリスが4407円、カナダが669円、アメリカが131円、そして日本が74円と紹介されています(156ページ)。フェアトレードの浸透力、フェアトレードへの関心の差が歴然としています。
 「解説」の中で、本書は2009年頃に執筆されたと思われる(124ページ)とされていたり、「京都、モントリオール、コペンハーゲン」という本文の記載に一連の気候変動枠組条約締約国会議(COP)のことだと思われると注記されている(111~112ページ)のは、どうしたものかと思います。翻訳者は不明な点を著者に確認しないのでしょうか。著者が会いに行くには大変な場所に住んでいることは170~178ページで書かれてはいますが、著者もインターネットを駆使していることが明記されており(23ページ)、どうしてメールで聞かないのかといぶかしく思います。著者が翻訳を了解している(了解していなかったらこの本の出版自体著作権侵害になるでしょう)以上、翻訳上の質問には答えてくれるはずだと思うのですが。66ページの「1.21セント」は「45セント」の3倍だというのですから、当然「1.21ドル」の誤りでしょうし、固有名詞の不統一など誤植と思われる記載が目につきます。世に問う価値のある本と考えて出版しているのでしょうから、もう少し丁寧に作って欲しかったなと思います。


原題:Manifest of the Poor
フランツ・ヴァンデルホフ 訳:北野収
創成社 2016年8月25日発行 (原書は2009年?)
コメント
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