当初は子どもたちから冗談半分の悩み相談を受け、その後大人からの深刻な相談もなされるようになり、それに答えるのが老後の生活の張り合いとなっていた1979年の雑貨店主浪矢雄治と、ナミヤ雑貨店に当時人生相談をした相談者たち、浪矢雄治亡き後32年たち廃屋となったナミヤ雑貨店に逃げ込んだ窃盗犯3人組のもとになぜか送られてくる1979年のオリンピック選手候補「月のウサギ」、魚屋を継ぐか音楽に賭けるかを悩む「魚やミュージシャン」、昼の雑用と水商売を掛け持ちし水商売一本にするかを悩む「迷える子犬」の相談の手紙が32年の時空を超えてつながるSF風短編連作小説。
子どもたちの悩みにとんちで答える(一休さんみたいな)やりとりをしていたら、大人の深刻な相談を受けるようになってしまい、自分が戸惑い悩む浪矢雄治の姿に共感を覚えます。人の悩みを受け止めて、自分が背負い込んでしまうことの責任感・重さは、独特のものです。私は、弁護士として、あくまでも法的に解決するのならば、裁判所ではどうなるということに限定して答えますし、その答えは法律や裁判に関する専門知識と経験に基づいていますので、その範囲である限り一定の自信を持てますが、素人が他人の人生についてその方向性を示そうというのですから、まじめな人であればそれこそ自分が悩み重圧に押しつぶされてしまうでしょう。その点について、真剣に対応しようとする浪矢雄治と、悩まない不良青年敦也らを対比させているのも、巧みに思えます。
独立に無関係に登場したかのような人々が、次第に密接に絡んで来て、あぁこういう布石というか関係だったのかと味わい深く思えるという趣向です。東京まで電車で(特急でも)2時間かかる小さな町の寂れた雑貨店に相談の手紙を直接持ってくる人たちなのですから、まぁ狭い世界の住人であることは当然で、互いに知り合いでももともと不思議はないわけですが。
映画化されるという情報があったので(映画の公開予定は2017年9月でまだ7か月も先ですが)読んでみて、短編連作と知ってどうなることかと思いましたが、最終的に全体が絡まり、いろいろしんみり余韻が残るので、映画にするのはそれほど困難ではなさそうです。とりあえず期待しておきましょう。
東野圭吾 角川文庫 2014年11月25日発行(単行本は2012年3月)
子どもたちの悩みにとんちで答える(一休さんみたいな)やりとりをしていたら、大人の深刻な相談を受けるようになってしまい、自分が戸惑い悩む浪矢雄治の姿に共感を覚えます。人の悩みを受け止めて、自分が背負い込んでしまうことの責任感・重さは、独特のものです。私は、弁護士として、あくまでも法的に解決するのならば、裁判所ではどうなるということに限定して答えますし、その答えは法律や裁判に関する専門知識と経験に基づいていますので、その範囲である限り一定の自信を持てますが、素人が他人の人生についてその方向性を示そうというのですから、まじめな人であればそれこそ自分が悩み重圧に押しつぶされてしまうでしょう。その点について、真剣に対応しようとする浪矢雄治と、悩まない不良青年敦也らを対比させているのも、巧みに思えます。
独立に無関係に登場したかのような人々が、次第に密接に絡んで来て、あぁこういう布石というか関係だったのかと味わい深く思えるという趣向です。東京まで電車で(特急でも)2時間かかる小さな町の寂れた雑貨店に相談の手紙を直接持ってくる人たちなのですから、まぁ狭い世界の住人であることは当然で、互いに知り合いでももともと不思議はないわけですが。
映画化されるという情報があったので(映画の公開予定は2017年9月でまだ7か月も先ですが)読んでみて、短編連作と知ってどうなることかと思いましたが、最終的に全体が絡まり、いろいろしんみり余韻が残るので、映画にするのはそれほど困難ではなさそうです。とりあえず期待しておきましょう。
東野圭吾 角川文庫 2014年11月25日発行(単行本は2012年3月)