ジャーナリズムを「世の中の事実(人間の営み)を被治者の視点で観察して、それを整理して問題点を摘示する営み、およびそれを支える理念」と定義し(12ページ。ここでは「被治者の視点で」がポイントになります)、取材の自由が保障されているという状態は「政府などがメディアやジャーナリストの要求に応えて、その保有する情報を開示し説明しなければならない、あるいは、情報を開示できない場合には、その理由について明確に説明しなければならない義務」が政府に課せられていることを意味する(15ページ)とした上で、日本では法的に取材の自由は保障されているとは言えず、「日本における取材は、何らかの自由や権利に基づいて行われている活動ではなく、究極のところ、権力との『折り合い』によって営まれている」とし(21ページ)、「報道機関」はほどよいうるさ方として統治機構の一翼を担い、それを踏み外した記者はパージされている、現在の「日本型ジャーナリズム」の中で本来のジャーナリズムを見いだそうとしても無理がある、現実には日本に取材の自由もジャーナリズムもないことを認識した上で、新たな探査ジャーナリズムの生成やマスコミの衰退の中から生まれてくることを期待するしかないという趣旨の編著者が2018年5月3日に行った講演の問題提起を元に学者・ジャーナリスト(元記者)が論じた本。
報道機関の報道の大半が行政等による発表の報道で、その実質が政府広報に近いこと、組織の中の記者の大半が権力者との親密な「信頼関係」に基づいて情報を得ようとしていることは、そのとおりだと思いますが、そういう報道も一定の必要性があり、またそういった組織ジャーナリズムの中でも権力の問題点を暴く報道を試みている記者も、多くないとはいえ存在することを考えるとき、あるかないかの2分法的な評価をすべきかには疑問を持ちます。編著者のように「ほどよいうるさ方」に過ぎないと評価することも含めて、現状を現状として評価しておけばいいかと思います。
組織ジャーナリズムに対して、フリーランスないしは独立・小規模の団体による探査ジャーナリズムの生成については、寄付が根付いていないこの国ではあらゆる領域で権力と闘う/対峙する市民的な運動/団体が活動を拡大することはおろか継続することにさえ苦戦し続けているのを見れば、理念的にはもちろん期待したいところではありますが、現実には厳しいと思います。歴史的な検討では、「編集権」が経営者にあるという宣言、今も日本新聞協会が錦の御旗とする宣言が、労働組合による読売新聞の職場占拠と新聞発行に対抗するものとして出されたこと(143~145ページ)、日本初の産業別全国組織は日本新聞通信放送労働組合(新聞単一)であったこと(59ページ)などは興味を惹かれました。現場の記者・ジャーナリスト個人からの要求と運動があったこと、それを企業経営者が抑圧したこと、それが現在に続いていることを再認識しておくべきでしょう。そして、あらゆる場面で経営者に肩入れするこの国の政府と原則としてそれを容認する裁判所の存在も、厳しい現実として認識せざるを得ません。その上で何ができるかの展望は、例によってなかなか持てないのですが。
大石泰彦編著 彩流社 2020年1月20日発行
報道機関の報道の大半が行政等による発表の報道で、その実質が政府広報に近いこと、組織の中の記者の大半が権力者との親密な「信頼関係」に基づいて情報を得ようとしていることは、そのとおりだと思いますが、そういう報道も一定の必要性があり、またそういった組織ジャーナリズムの中でも権力の問題点を暴く報道を試みている記者も、多くないとはいえ存在することを考えるとき、あるかないかの2分法的な評価をすべきかには疑問を持ちます。編著者のように「ほどよいうるさ方」に過ぎないと評価することも含めて、現状を現状として評価しておけばいいかと思います。
組織ジャーナリズムに対して、フリーランスないしは独立・小規模の団体による探査ジャーナリズムの生成については、寄付が根付いていないこの国ではあらゆる領域で権力と闘う/対峙する市民的な運動/団体が活動を拡大することはおろか継続することにさえ苦戦し続けているのを見れば、理念的にはもちろん期待したいところではありますが、現実には厳しいと思います。歴史的な検討では、「編集権」が経営者にあるという宣言、今も日本新聞協会が錦の御旗とする宣言が、労働組合による読売新聞の職場占拠と新聞発行に対抗するものとして出されたこと(143~145ページ)、日本初の産業別全国組織は日本新聞通信放送労働組合(新聞単一)であったこと(59ページ)などは興味を惹かれました。現場の記者・ジャーナリスト個人からの要求と運動があったこと、それを企業経営者が抑圧したこと、それが現在に続いていることを再認識しておくべきでしょう。そして、あらゆる場面で経営者に肩入れするこの国の政府と原則としてそれを容認する裁判所の存在も、厳しい現実として認識せざるを得ません。その上で何ができるかの展望は、例によってなかなか持てないのですが。
大石泰彦編著 彩流社 2020年1月20日発行