ハーバードロースクール出身の、したがって金儲けをしようと思えばそれが可能な地位にあった黒人弁護士が、南部で黒人死刑囚らのために働き、活動している様子を綴ったノンフィクション。
アメリカでは、1967年になってようやく連邦最高裁が人種間通婚禁止法を無効としたこと、それでも南部ではその後も人種間通婚禁止法が存続し、アラバマ州では1986年時点でも州憲法が「立法府は白人と黒人あるいは黒人の子孫との結婚を認可もしくは合法化するいかなる法律も可決してはならない」と定めていたこと(43ページ)には、唖然とします。1960年代の公民権運動で法的な差別はなくなったのではないのですね。
著者は、連邦最高裁で、2010年5月に、殺人以外の罪で有罪となった子どもに仮釈放なしの終身刑を科することは許されないという判決を勝ち取り(355~357ページ、388ページ)、さらに2012年6月には、殺人で有罪になった子どもに対して仮釈放なしの終身刑を科することも違憲であるとの判決を勝ち取っています(388~389ページ)。ふつうの弁護士の感覚でいえば、そちらの方が画期的な業績であり、それを中心に据えたくなると思うのですが、著者は、黒人死刑囚ウォルター・マクミリアンの冤罪事件を軸に、この本を書いています。やはり無実の者を救ったということの方が、多数の未成年者への仮釈放なしの終身刑を科せなくしたという影響力としては圧倒的で世間では評価される(司法界以外では悪評の方が強いでしょうけど)ことよりも、弁護士冥利に尽きるということでしょうか。
高い志を持つ者が、著者のような人権活動や権力と対峙する活動を実行し継続できる背景には、政府自身が公選弁護士事務所(パブリック・ディフェンダー・オフィス)を設立運営し、草の根の運動に対して寄付が集まるというアメリカ社会の体質があります。とんでもなく乱暴で人権を無視した考えを持ち実行する人物・団体が幅をきかせる一方で、そういうカウンター勢力も有力になり得るところがアメリカ社会の面白いところです。
原題:Just Mercy : A Story of Justice and Redemption
ブライアン・スティーヴンソン 訳:宮﨑真紀
亜紀書房 2016年10月15日発行(原書は2014年)
アメリカでは、1967年になってようやく連邦最高裁が人種間通婚禁止法を無効としたこと、それでも南部ではその後も人種間通婚禁止法が存続し、アラバマ州では1986年時点でも州憲法が「立法府は白人と黒人あるいは黒人の子孫との結婚を認可もしくは合法化するいかなる法律も可決してはならない」と定めていたこと(43ページ)には、唖然とします。1960年代の公民権運動で法的な差別はなくなったのではないのですね。
著者は、連邦最高裁で、2010年5月に、殺人以外の罪で有罪となった子どもに仮釈放なしの終身刑を科することは許されないという判決を勝ち取り(355~357ページ、388ページ)、さらに2012年6月には、殺人で有罪になった子どもに対して仮釈放なしの終身刑を科することも違憲であるとの判決を勝ち取っています(388~389ページ)。ふつうの弁護士の感覚でいえば、そちらの方が画期的な業績であり、それを中心に据えたくなると思うのですが、著者は、黒人死刑囚ウォルター・マクミリアンの冤罪事件を軸に、この本を書いています。やはり無実の者を救ったということの方が、多数の未成年者への仮釈放なしの終身刑を科せなくしたという影響力としては圧倒的で世間では評価される(司法界以外では悪評の方が強いでしょうけど)ことよりも、弁護士冥利に尽きるということでしょうか。
高い志を持つ者が、著者のような人権活動や権力と対峙する活動を実行し継続できる背景には、政府自身が公選弁護士事務所(パブリック・ディフェンダー・オフィス)を設立運営し、草の根の運動に対して寄付が集まるというアメリカ社会の体質があります。とんでもなく乱暴で人権を無視した考えを持ち実行する人物・団体が幅をきかせる一方で、そういうカウンター勢力も有力になり得るところがアメリカ社会の面白いところです。
原題:Just Mercy : A Story of Justice and Redemption
ブライアン・スティーヴンソン 訳:宮﨑真紀
亜紀書房 2016年10月15日発行(原書は2014年)